宇宙船と秘密結社

36,宇宙船の目撃情報 ー序曲ー

 とある日の早朝。


 ジーニアス邸の大広間にエロイーズの声が響き渡る。


「皆様、おはようございます。本日の朝礼を始めさせていただきたいと思います」


 エロイーズは、目の前に並んで立っている三人の人物を見ながら言葉を続ける。


「まず、連絡事項の確認です。各職から何か報告しておくべきことはありますか? 」


 エロイーズが三人に問いかけると、彼らは順に答える。


「……ありません」


「ワシもないのう」


「私も特にありませ〜ん! 」


 この三人はエロイーズと同じく、この屋敷で働いている労働者達である。


 長身痩躯で骸骨のような顔つきをしている料理人、ホーキンス。


 白髪と皺が目立つ初老の庭師、ガルベス。


 明るい笑顔と穏やかな雰囲気が特徴のメイド、メープル。


 この三人を纏めるのは、執事であるエロイーズの役割である。


「では、今日一日の予定を確認しておきたいと思います」


 エロイーズはそう言った後、手に持っていた手帳に目をやった。


「ホーキンスは食材の仕入れ及び管理状況のチェック。ガルベスは庭の手入れ。メープルはレイラ様のお召し物の整理、修繕。その後、各自屋敷内の持ち場の清掃です。私はレイラ様の外出にご同行致しますので、屋敷のことはお願いします」


 エロイーズは一連の言葉を言い終わった後、手帳を閉じ、再び三人の方へと目をやった。


 すると、三人も再び三者三葉の返事をする。


「……了解です」


「わかったわい」


「オッケーで~す! 皆さ~ん! 今日も一日、頑張りましょうね~! 」


「以上で朝礼を終わります。各自仕事にあたってください」


 朝礼が終わり、三人が自らの持ち場に移動していく。


 エロイーズは彼らを見届けながら、椅子に座って朝礼を眺めていたレイラの方へと歩み寄った。


「レイラ様、朝礼が終わりました」


「ええ。では、出かけましょうか」


 レイラはそう言うと、のっそりと立ち上がり、軽く伸びをした。


「はい。……ところで、まだどこに向かうのかを聞かされていないのですが……」


 エロイーズが尋ねづらそうにしながら、レイラに問いかける。


「あら、まだ言ってなかったかしら? 」


 レイラはキョトンとした顔をした。


「すまないわね。何せ、今朝出かけると決めたものだから。……レッドメイン探偵事務所よ。この街を揺るがす、世紀の大事件の捜査を依頼しにね」

 

「せ、世紀の大事件……」


 エロイーズが戸惑いの表情を浮かべる。そんな彼女を見て、レイラは口角を少し上げ、言葉を続けた。


「例の……この街に宇宙船が侵攻してきた件よ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る