21,悪魔召喚倶楽部 ー街の悪魔ー
「そうしたら、鏡の中に悪魔が見えたんですよぉ!! あれはきっと、フォギーフロッグを統べる悪魔、ディアボ・アヴィアに違いないっ!! 」
アリスは両手を上げながら、そう叫んだ。
「そ、その悪魔はどんな姿をしていたんですか!? 」
アリスの向かい側にいるコールソンが身を乗り出しながら彼女に問いかける。
「全身が黒みがかった気味の悪い赤色で、顔に深い皺がたくさんあり、背中には禍々しい翼、頭には鋭い角とシルバーの毛が生えていました! 」
アリスはコールソンと同じ様に前のめりになりながら、彼に自分が見た悪魔の特徴を話す。
コールソンは自分の持っていた本に書いてある内容と、アリスの証言を照らし合わせた。
「素晴らしい……! この本に書いてあるディアボ・アヴィアの特徴と、アリスさんの証言が完全に一致しています! 」
コールソンは本に書いてある文章を指でなぞりながら、興奮したように言う。
「ええ、そうでしょうとも! 間違いありません! あれは、ディアボ・アヴィアですっ!! 」
アリスもまた、彼と同じ様に興奮しながら言った。
悪魔召喚の儀式を終えたアリスは、コールソンの向かいの席へと戻ってきていた。
しかし、儀式を行った後の彼女は、明らかに異常であった。
ジョンとコリンに悪魔を見たと言い張り、自慢げに自分が見た悪魔の特徴を話し出した。
ジョンとコリンはそんな彼女の変わりように困惑していた。
「な、なぁ、アリス……。どうしたんだ、お前……? 」
興奮しているアリスにジョンが後ろから恐る恐る声をかける。
アリスは振り返って答える。
「どうしたもこうしたもねぇよ、ジョン! 私は悪魔を見たんだぞ? この目でな! これが興奮せずにいられるか! 」
「でも、お前……悪魔を信じるタイプの人間じゃないだろ……? 」
「儀式を行う前まではな! でも、私は見ちまったんだよ! 悪魔が召喚されるところを! 」
「だが……」
「なんだ、お前。悪魔を見れなかったから嫉妬してんのか、私に? 」
アリスがジョンのことを睨みながら言う。ジョンはアリスに気圧されながらも返答する。
「いや……そういうわけではないが……」
アリスはそんな彼を無視するかのように、再びコールソンの方に向き直った。
「コールソンさん! あなたが悪魔召喚にのめり込んでいる理由が、私にもわかりました! 悪魔は実在します! 」
「ええ、もちろんですとも! アリスさんに悪魔召喚倶楽部の魅力が伝わりとても嬉しいです」
「私は今、悪魔を沢山召喚したくて溜まりません! そして、この倶楽部についても沢山のことを知りたくて溜まりません! 」
アリスは何かを思い出したのか、一瞬はっとした顔をした。
その後、前傾姿勢になりながらコールソンにとある質問をした。
「そういえばコールソンさん! あなたが先程仰っていた、ミス・ハウンズフィールドとウォルター議員の会話なのですが、何か倶楽部に関わる重大な内容だったのではないですか!? 私にも教えてくださいませんか! 」
アリスの問いかけにコールソンは困惑した表情を浮かべる。
「その話ですか……。ですが、人の会話を勝手に言いふらしていいものなのでしょうか……? 」
すると、アリスは胸に手を当て堂々とした態度で言った。
「もし、倶楽部が危機に陥っているのだとしたら、私は力になりたいのです! これでも、私には社会的地位の高い友人がたくさんいます! 彼らに相談を持ち掛ければ、この倶楽部を救えるかもしれません! 」
アリスの目は真っ直ぐとコールソンを見据えていた。その瞳には、情熱の炎が燃え滾っているようであった。
アリスの熱意に触れたコールソンは、周りの様子を伺いながらヒソヒソと話し出した。
「誰にも言わないでくださいね……。実は、会長とウォルター議員がロンドンの予算案について話しているのを聞いたんです。会長は倶楽部の運営が厳しいと嘆いていました。ウォルター議員はその話を真剣に聞いておられました。……知っていますか? 昨日の新聞にウォルター議員の予算案が却下されたと書いてありました。恐らく、私が聞いた会話に繋がっているのではないかと……」
コールソンは俯き、悲しそうな顔で言った。
「もしかしたら、この倶楽部を維持することはとても大変なのではないかと思うんですよ……。悪魔召喚は白い目で見られますし……。そして、運営ができなくなれば、当然この倶楽部は消滅してしまいます」
「……なるほど」
コールソンの話を聞いたアリスは、静かにそう呟いた。そしてその後、再び興奮した様子で言った。
「それは由々しき事態です! この倶楽部がなくなれば、もう悪魔を召喚できなくなる! それは非常に困る! なぁ、お前ら! 」
アリスは後ろを振り返り、ジョンとコリンに問いかけた。
いきなりの問いかけに、二人は困った顔をする。
困惑しながらも、ジョンがその問いに答えた。
「いや、俺らは別に……」
「なんだとぉ! お前らふざけんじゃねぇぞー! 」
アリスは勢いよく椅子から立ち上がり、ジョンとコリンの首根っこを掴む。
「コールソンさん、ちょっとこいつらに説教してきます! こいつらは悪魔召喚の魅力についてまだなにもわかっていない」
そして、彼らを引き摺るようにして、部屋の外へと向かって行った。
「覚悟しろよ! お前らがフットボールの選手と同じくらいの感覚で、ソロモンの悪魔を話題に挙げるようになるまで、その魅力を叩き込んでやる! 」
集会室を出ると、赤いカーペットが敷かれている長い廊下が続いている。
アリスは暫く廊下を歩いて、集会室から十分な距離をとった後、ジョンとコリンの首根っこから手を放した。
解放されたジョンとコリンは、服の乱れを直しながらアリスに言った。
「な、なぁ、アリス。俺らは別に悪魔召喚に興味ないって言うか……」
「う、うん……。ジョンの言う通り……」
恐る恐る、アリスにそう告げる二人。
アリスは壁にもたれ掛かり、腕組をした後、呆れた顔で二人に言った。
「はぁ? 何言ってんだ、お前ら。そんなことより、コールソンの洗脳を解く手筈が整ったぞ。この集会が終わった後、あの悪魔女と話をする」
「……えっ? 」
ジョンとコリンが驚いた表情を浮かべ、アリスを見つめる。
そんな二人の視線に対して、彼女は煩わしそうな顔をした。
「なんだよ? 」
「いや、だって……。さっきまで、アリスの様子が変だったから……」
「そんなもん演技に決まってるだろ。元舞台女優を舐めんな」
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