フォギーフロッグの怪事件 ~1930年のイギリスにおいて、露出狂、糞便、悪魔、宇宙船などは、街の人々へどのような影響を及ぼしたのか?その疑問に答えてくれる、とある女探偵の怪事件簿~
17,悪魔召喚倶楽部 ー悪魔召喚の集会所へー
17,悪魔召喚倶楽部 ー悪魔召喚の集会所へー
時間は流れて、午後6時。漆黒の闇が街を覆う頃。
外出をしていたハスラー夫人は、同時刻に家に辿り着いた。
鞄から鍵を取り出し、玄関扉の鍵穴に差し込みガチャリと捻る。すると、扉の鍵が音を立てながら開き、それを聞いたハスラー夫人は玄関の扉を開いた。
そして、家の中に入って照明をつけたその瞬間――――
「!!? きゃああああああーーーー!!! 」
ハスラー夫人は甲高い悲鳴を上げた。
彼女が悲鳴を上げた理由、それは家の中が明るくなった瞬間、黒いローブで身を包み、ヤギの頭蓋骨を被って佇んでいる、何者かが見えたからある。
「ば、化け物ぉおおおーーー!! 」
ハスラー夫人は恐怖のあまり持っていた鞄を、その化け物に対して投げつけようとした。
「ま、待って! 僕だよ! コリンだ! 」
「えっ……? 」
ハスラー夫人は化け物から発せられた言葉を聞いて動きを止めた。目の前の化け物は、頭に被っているヤギの頭蓋骨を両手で外し、フードを脱いで見せた。
「驚かせてごめんなさい、ハスラー夫人」
化け物の正体は、仮装したコリンであった。
「コ、コリン? ……なんだい、その恰好は? 」
ハスラー夫人はコリンが手に持っているヤギの頭蓋骨を指差しながら言った。
「集会に参加するための格好だよ。レイラさんに貸してもらったんだ。このヤギの頭蓋骨とか真っ黒なローブとか」
「集会に参加……? 」
ハスラー夫人がコリンの言葉に困惑していると、階段からアリスとジョンが下りてきた。コリンとは違い、二人は普段外出する時の服装をしていた。
「ハスラー夫人、なんか”絶対にあなたからは出なさそうな可愛らしい悲鳴”が聞こえてきましたが、大丈夫ですか? 」
階段を下りながらアリスが問いかける。ハスラー夫人は眉をひそめながら、恥ずかしそうにその問いに答える。
「仕方ないだろ? 家の中に入ったら、得体のしれない化け物が佇んでたんだから。次の瞬間、その立派な角で腹を貫かれるかと思ったよ」
「いや、だとしても『きゃああー!! 』って……。まぁ、いいや。ハスラー夫人、私達ちょっと出かけてきます」
「……出かけるってどこへ? 」
「悪魔召喚倶楽部の集会です」
「なっ……!? 」
ハスラー夫人はアリスの言葉を聞くなり彼女の元へと駆け寄り、両肩を掴んで深刻そうな顔で言った。
「あんた……どうしちまったんだ!? まさか、あの緑髪の女に洗脳されちまったのかい? 元々、あんたの頭はおかしいと思っていたが、あの女に更に狂わされちまって……」
「違いますよ。洗脳されてしまった夫を助けてほしいと依頼されたから”探偵”として行くんです。……『元々、あんたの頭はおかしいと思っていた』ってどういうことですか? 」
アリスがジト目でハスラー夫人を睨んだ。しかし、ハスラー夫人はそんなことには構わず、ほっと安堵の溜息を吐く。
「なんだ、そういうことかい。心配して損したよ。んじゃま、気を付けていくんだね」
「はい。お土産に動物の頭蓋骨でも買ってきますね」
「……いらないよ。そんなもん持って帰ってきたら、あんたの顔の肉を削いで頭蓋骨を剥き出しにするからね、アリス? 」
ハスラー夫人は面倒くさそうな顔をしながら、アリス達の横を通り奥の扉へと消えていった。
悪魔召喚倶楽部の集会が行われるヘンドリック会館は、アリス達が住んでいる家から北西に約20分程歩いた所に位置している。
ヘンドリック会館の前では、悪魔召喚倶楽部の会員だと思しき人達がそこそこ見えた。それぞれ挨拶を交わし合った後、次々と大きな両開きの扉から建物の中へと入っていく。
アリス達はヘンドリック会館の向かいの建物の陰に身を潜めていた。
「よし、いいかお前ら? 私達の目標は、ミスター・コールソンの倶楽部通いを止めさせることだ。故に、作戦は次の通り。ミスター・コールソンを見つけ出し、自然を装ってお近づきになり、彼にかけられた洗脳を解く、以上だ」
「……凄く雑な作戦だと思うのは俺だけか、コリン? 」
「僕もそう思ったよ、ジョン」
ジョンとコリンが顔を見合わせながら、お互いに意見を確認し合う。そんな二人をアリスは不服そうな顔で睨む。
「うっせーな。作戦っていうのはある程度幅を持たせた方がいいんだよ。ビールだって半分くらい泡になるように注いだ方が美味いだろ?それと同じだ。わかったか? 」
「いや、あんまりわからん」
「とにかく、コールソンと接触するぞ。話はそれからだ。お前ら、コールソンの顔はちゃんと覚えたのか? 言ったよな? 今際の際に、彼の顔が出てくるくらい写真を見て覚え込めって。」
「ああ、それに関してはオーケーだ。死に際に彼を思い出すかは知らんが……」
「よし。レイラのところの、ちびっ子執事が調べた情報によると、あの倶楽部にはこの街に住むお偉いさん方が多数在籍してる。今朝、新聞で見たウォルター議員も会員の一人らしい。……彼を利用すれば、作戦が上手くいくかもしれねぇ。」
「利用する? ウォルター議員を? 」
「ああ。まぁ、私に任せとけ」
アリスはそう言うと建物の壁から顔を覗かせ、ヘンドリック会館の方を確認する。そこには相変わらず倶楽部の会員達がパラパラと見えた。
「お前らは、変な行動して浮かないようにしろよ。……じゃあ行くぞ、お前ら。カルト集団に潜入開始だ」
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