16,悪魔召喚倶楽部 ーお誘いに乗るー

 次の日の朝。


 アリス達が住んでいるフォギーフロッグ街23の玄関扉をノックする音が聞こえてきた。


「どうも~。おはようございます、アリスさん。昨日ぶりですね~。」


 アリスが玄関の扉を開くと、そこには昨日と同じくマチルダ・ハウンズフィールドが笑顔を浮かべながら立っていた。


 アリスは途中まで開けたドアから身体を半分だけ覗かせ、ジトっとした目で睨みながらマチルダに問う。


「もう来るなって、昨日言わなかったか?」


「はい、言われましたね。しかし、私がここへ来たことがミスター・ハスラーにちゃんと伝わったのか不安でして。…勿論、『アリスさんがちゃんと伝えてくれるわけがない』などと思っているわけではありませんよ?」


 マチルダは左上に目線をやりながら、両手を軽く振ってみせた。


「そうか。お前に信用されてて嬉しいよ。髪の毛を緑色にして悪魔悪魔言ってる奴なんて、聖人君主様以外にありえねぇもんな。」


 アリスはうんざりしたような表情を浮かべながら続ける。


「まぁ、いいや。本当に不本意だが、お前が訪ねて来たことが好都合なのは事実だ。悪魔女、私を悪魔召喚倶楽部の集会に参加させろ。」


 アリスの意外な言葉を聞いたマチルダは、ハトが豆鉄砲をくらったような表情を浮かべ首を傾げた。


「ええ…まぁ、構いませんが…。どういう風の吹き回しですか?」


 マチルダは戸惑いながらも微笑みを浮かべ、アリスに発言の意図を問う。


「勘違いすんなよ?私が行きたいわけじゃねぇ。うちらの家主、ミスター・ハスラーがその倶楽部に興味を示したんだ。」


「…?ミスター・ハスラーが?」


「ああ。彼に倶楽部のことを知らせたら、案外乗り気だったんだ。んで、悪魔召喚倶楽部がどんな集会をしているのかを知りたいと言い出した。だがしかし、ミスターは多忙の身を極めている。変な集会に参加して時間を無駄にすることはできない。そこで、私達の出番だ。」


 アリスは親指で自分のことを指差した。


「私達が、ミスター・ハスラーが参加するに相応しい倶楽部かどうか、下調べをすることになった。だから、お前らの集まりが次、いつ、どこで行われるのかを教えろ。」


 アリスはそう言ってマチルダを睨みつける。睨みつけられたマチルダは嬉しそうな声でアリスに返す。


「あら!ちゃんと、ミスター・ハスラーに知らせてくれていたんですね!」


「当たり前だろ。私は約束を破らないんだよ。…お前と違ってな。」


「私も基本的には約束を守りますよ?相手が守ってくれるのなら、ですがね。」


 そう言うとマチルダは手元に持っていた紙をアリスに1枚差し出した。


「今日の夜、7時に集会を行う予定です。場所はヘンドリック会館。参加なさるのはアリスさん御一人ですか?」


 アリスはその紙を乱雑に受け取りながら、マチルダの問いに答える。


「いや、2人程ボディーガードを連れてく。1人で得体のしれない倶楽部に行ったら何されるかわかんねぇからな。」


「2人?…ああ、ミスター・オールドマンとミスター・ロウですね?ええ、構いませんよ。御三方とも歓迎いたします。…では、今夜。お待ちしてますよ、アリスさん。」


 マチルダはそう言って微笑みを浮かべる。アリスは昨日と同じく、その微笑みを不気味に思いながら扉を閉めるのであった。




 

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