第37話 人の本質

 俺にはやるべきことがある。

 人生を賭けた夢。

 いいや、運命さだめかもしれない。


 神に与えられた、転生者を殺せという使命とは別に、俺には運命さだめがあるのだ。


「風俗を繁栄させるぞ」


「なにいってんだよジロー」


 な~んで、お前がそんな目で見るんだジョン!

 クソエロい意味での兄弟じゃないか!

 応援してくれよ。


「質が低いんだ!青頭に荒らされて、ヤリ手の経営者が死んじまった。茶髪ヤリ〇ン経営者のアイツは、よーく分かってたんだよ。エロの伝道師だったんだよ」


「……要するに、ジローの性癖に合う店を作りたい?」


「その通りだ!そして、この国のあらゆるところに、店を作る。俺がどこへ行っても、ヌキ場所に困らないようにな!」


「もしかして、ジロー」


瞬間移動テレポート


 俺に変な病気を感染した女は、きっちりと処した。

 しかし女は実行役でしかなく、指示役は天にいる、アフロディーテなる神だということが判明した。

 男の敵、それはつまり邪神だ。

 よこしまな気持ちなら負けないが、まだ半神である俺に邪という言葉は似合わない。よって今回はアフロディーテに、邪神という称号を譲ろう。


 さて邪神は一旦放っといて、まずはエクスカリバーという称号を持つ愚息に愛を与えたい、と思ったのだが……どうだ?

 壊滅状態の歓楽街ながらも、細々と運営する店がある。チラリと軒先を覗いてみるが、どうにも納得がいかない。

 男優が頑張って演技をしているのに、何故かベッドの上で吹き出した女優ぐらい納得がいかない。

 そのAVでは、女優が吹き出した理由の説明もなければ、客観的に観ても笑える状況ではなかったのに、何故かそのまま収録されているぐらい納得がいかない。何故カットしなかった?納得がいかない。

 しっかりとヌイてしまった俺にも納得がいかない。


 ダメだ。

 こんな面構えの店じゃあ、こんな一辺倒のサービス内容じゃあ、こんなワクワクしない歓楽街じゃあダメなんだ。


 ということで、到着したのは王城だ。


「……嘘だろジロー。風俗のために国を動かす気なのか?」


 クソしょうもない質問をする兄弟へ、俺は不甲斐なさを覚えた。


「エロのためならば、神だって動かすぜ。ジョンよ、忘れるな。エロが人間の本質だ。俺たちの絆だってそうだろ?」


 渋い渋い表情でそう言った。

 まるで映画のワンシーンだ。

 我ながら、痺れるカッコよさだぜ。


「ちょっと何言ってるかわからないけど、あまり負担をかけないでくれよ」


 イニエ◯タぐらい華麗なスルーだったもんで、スベった恥ずかしさは不思議となかった。

 つーかなんだよ負担って。

 魔法があるんだから、風俗作るぐらい2秒でできるだろうが。

 1秒で風俗店作って、もう1秒は鼻くそでもほじるぐらい秒でできるだろうが。


「噂なんだけど、バイア様がイライラしているらしくてさ。忙しいからだと思うんだ」


 こっちだって忙しいわい!風俗探し過ぎて、もはや見つからないと悟り、自分で作ろう!と思うぐらいに忙しいわい!


「負担にはならん!というか、俺がやるから大丈夫」


 これは国家規模で行う一大事業となる。

 だがその前にモデルケースとして、俺自ら手掛ける店を作らんといけない。

 金やら人員やら必要になるだろ?だからここまで来たわけで、案だけ渡して全部任せようとは思っちゃいない。


「ジローが?うーん、そう上手くいくかな」


 完全にフラグみたいな事を言ったジョンはシカトして、バイアがいるという執務室まで行くことにした。


 てくてくと階段を登り廊下を歩くわけだが、まずは執事やらメイドやらが俺を見て頭を下げるのがウザかった。

 最初こそ悪い気はしなかったが、だんだんと主人公に近づいている気がして、一回ウンコを垂らしながら歩こうかなと思ったぐらいだ。そうでもしないと、何故か貴族になっちゃった、どこぞの主人公になっちゃうからな。


 まあ結局?肛門括約筋の大健闘により、屁すら出なかったのは、恥ずかしい限りだ。


「標様!?」


 ボヨヨン美人の残念お姉さんは、俺を見て良いリアクションをしてくれた。

 そういう新鮮なのはいいよな。

 吹き出したAVもそうだが、嘘っぽいのはよろしくない。AVはやはり、最後まで視聴者を騙してくれなきゃいけんだろ。

 つまるところ、なま感が、大事なわけで、新鮮なリアクションもまた、なま感があっていい。


「どうされました?私、またなにかしましたか?」


「いや。今日はちょっとした頼みがあってきた。つーか今大丈夫?」


「……はい、大丈夫です」


「……お、おう」


 なんかしらんけど、急に顔を赤らめて言葉を詰まらせたバイア。

 なんじゃコイツ。

 マジでいい女なんだけど、どうにも嘘臭えんだよなこいつ。なんつーか、主人公のそばに置きたいオ○ホ系ヒロインぽくて、ヤんなるんだよなー。


 ソファに腰掛けると、タイミングを見計らったようにメイドがやってくる。

 香りと湯気が立つ高そうなお茶と、茶菓子のクッキーとがテーブルに置かれた。

 ソーサーにティーカップなんて、チ◯コに毛が生える前に見て以降初めてだ。


 冷たい緑茶をペットボトルでグビグビ飲む派の俺は、ティーカップに手を掛けずにいた。


 ……暫くの沈黙。

 ちょっとだけバイアがソワソワするのは、なんで黙ってるんだ?と聞きたいけど聞けないからだろう。

 本人は怒られると思ってるっぽいし。


「ジョン、座れよ。何してんの?」


 俺はヤクザの親分じゃないんだからさあ、ボディーガードみたいに後ろに立たないでくれよ。ゴ〇ゴ13ならお前さん、フルボッコにされてるよ?あの人女にも容赦ないからね?


「座れモヒート」


「……失礼します」


 モヒートだって?そういやそんな名前だったな。

 ジョンもといモヒートに座れと、バイアが偉そうに言った。

 なんだよ、お前はただのクソエロ大将軍様じゃないのかよ。ええ?ジョンに命令できるってのかい?


「バイアってさ、実は偉いの?」


 ジョンは言わずもがな俺の兄弟だ。標様の兄弟ともなれば、まあまあ偉い存在なはず。

 なーんでお前さんの命令が必要なんだい?とちょっとだけムカついた。俺の兄弟想いな部分が出てしまったのだ。


「バイア様は、母様の姪に当たる方で……」


 ジョンの説明をまとめると、とりあえず偉いそうだ。

 でもそんなん、俺には関係ない。


「あそ。じゃあ今日からジョンは俺の補佐な。官房長官的な、宰相的な、右丞相的なやつな。そういうことだからバイア、お前がジョンに命令すんな」


「ジロー、それはマズイよ。これまでの――」


 真面目なジョンは、あーだこーだと反論しようとしたみたいだが、俺の標様パワーはマジパネェ。


「申し訳ありませんでした!以後気をつけます」


 これでよし。

 指揮系統がーとか魔族の歴史的にーとか、ジョンはボソボソ言ってるが、すべてシカトしてバイアに本題を告げた。


「バイアよ、俺にはすべきことがある」


「承知しております。勇者を討ち滅ぼすという使命が――」


「否だっ!いーいーなーいーいーなー、能天気っていーいーなー!バカか貴様は!」


「ひっ……も、申し訳ありません」


 俺に泣かされて以来、こやつも頑張ってきたのだろう。だが間違ってるのだよ、君のやることなすことは。方向性が違うんだバーロー!


「勇者を滅ぼすのは、太陽が昇るぐらい当たり前のことなんだよ。女のおっぱいを見つめるぐらい、自然で必然なことなんだよ」


「……はい」


「なすべきこと、それはだな」


「それは?」


「風俗を作るぞ」


「……」

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