第38話 おいら娼館のオーナーになるんだっ!前編

「なあに、クソエロい体のお前を売ろうなんざ考えちゃいねえよ。安心しねえ」


「……はい。いえ、風俗ですか?標様がよく出向かれる、お店のことですか?」


「う、うん。なんで知ってんのよ」


「あ」


 はい、めちゃくちゃ圧力を掛けて聞き出してやりましたよ。

 何やら?俺が転生してから今まで、風俗好きだって事はとっくに知っていたようで?魔族全員が周知の事実だとか。


 パンピーのお前らならば、奥手で恋だの愛だのに幻想を抱いている創出者諸君ならば、きっと顔から火が出るくらいに恥ずいことだろう。


 俺はひと味もふた味も、味が変わりすぎて元の料理が分からないぐらいに、何味も違うのだよ。


「知ってても言っちゃあイケないでしょうがっ!どんだけ恥ずかしいか……ちょっとは人の気持ちを……考えなさいっ!」


 ガチギレしてやりましたよ。

 ええ、ええ。目を合わせられない俺は、バイアさんの大きなお胸にビックリするぐらいキレ散らかしてやりましたよ。


「ヒック、も、申し訳あじまぜん」


 そしたら泣くんだぜ?

 お前の5億倍は泣きたいぜ?おっさんのガチ泣き見たいのか貴様。鼻水垂らしてオエオエ言ってやろうか?


「落ち着きなよジロー。俺だって陰口言われてるんだからな?所帯持ちなのにとか、元気なのねえとか……」


 ジョン……

 どうせお前はこう答えてるんだろう?


 標様に付き合わなくちゃいけなくて……とか言ってるんだろう?

 いいよなあ、俺というに影に隠れて、お前が一番風俗好きじゃねえか。


 まあいいよ。

 お前にもちょっとだけ、ミジンコレベルだけど負担を掛けちまってたんなら、落ち着いてやるよ。


「さあて!泣き真似はストップだバイア。風俗作るから金と人を集めてくれ。いいな?」


「真似、では、ありまぜん。でも分かりました。幾ら程必要ですか?」


「知らん」


「人員はいかほど――」


「とりあえず奴隷を掻き集めなさい。汁……標様であるこの私が、面接をしてやろう」


「畏まりました。それでは一時間で奴隷を集め、トゥカナへと送ります」


「早っ。まあ有り難いけど」


「標様のご命令でございます。何よりも優先し必ずやお眼鏡に適う者を揃えましょう」


 はあ。そういうところだよバイア。

 なあジョン?

 ジョンは分かってる。


 そういう対応が嫌いだって、ジョンはちゃーんと分かってんだよ。


「あんなあ、うちは主人公ちゃいますねん。あんさんも、そろそろ理解してくれへん?」


「……すみません」


 こういう性分なのだろう。

 生粋のオ◯ホヒロインを目指している口なのだろう。

 俺がもしも、よくいる主人公ならばきっと喜ぶ。

 優秀な配下がいて助かるとか、美人でデキる補佐官にドキドキしたりだとか?デキるは2つの意味でな。

 死ねよバカがよ。


 そんなん要らねえの。

 むしろジョンの嫁さんぐらいの、ムチムチで蒸れ蒸れの暗殺系おばはんヒロインぐらいがいいんだよ。

 いい加減分かってくれよ。


「……ぐずん」


 という俺の無表情に気圧されたようで、バイアはまた泣いた。

 世の男は女の涙に弱いというが、俺は唯一の例外だ。

 目から水分が染み出た程度では、1ミリも心は動かない。まああれだ、下の涙なら話は別だが。


「泣けば済むって話じゃあねえぞ?」


「申し訳あじまぜん。感情が昂ぶってじまうんでず」


「ああ、疲れてるとかなんとか言ってたな。もっと頑張れや」


「疲れ?いえ違います。標様の魔力があまりにも心地よくて、色々と……」


 ああーーー、そういうことかい。

 顔を赤らめた原因も、そういうことかい。

 今思えばジョンの性欲も、俺に負けじと強かったのは、俺のせいだったりするのか?

 魔族がイキイキとしてたり、残虐行為を率先して行うのも、俺の魔力が暴走させていたりするんかね。


 てっきり性癖だと思ってたんだが、そんなカラクリがあったとはなあ。


 あっ!いいこと思いついた。


「女性用も作ったろ」


 こうして俺は、男女関係なく楽しめる風俗街を作ることを誓い、王城を後にした。

 一応、ムラムラしたままじゃあ可哀想なので、バイアにはちょっとぐらい休めよと、理想の上司No.1の名言を放ったことは、忘れないでいただきたい。

 休めよ、とは言わずもがなヌイてこい馬鹿野郎という意味である。


 トゥカナの街へと戻り、深雪みゆきちゃんと猥談をして時間を潰した。

 そして約束の1時間後、奴隷たちがやってきた。


「これは壮観だな」


 獣のようなツンとくる臭い。

 ガッサガサに黒ずんだ皮膚、ピョンピョン飛び跳ねるノミ、脂ぎった髪の毛。

 虚ろで濁った眼差しが、俺に注がれている。


 これがノーマル?普通の奴隷なのかい?

 クソ汚えし臭えし、可愛い格好いいの前に、人間というよりも野蛮な獣だわこりゃ。


「で、あんさんはどなたさん?サンボかサンバかサザンカか、どっちが好きかい?」


「サン……ボですかね?」


「ふむ、ロック好きのマスター女か。いいだろう、名前は?」


「ソルティドッグと申します」


「バイアの代わりだな。うし、コイツらが従業員となる者たちでいいか?」


「はっ。まだご入用でしたら、追加いたします」


「おけ。とりあえずコイツら全員採用するわ。好きにして良いんだよな?」


「全員差し上げます」


 よーし。

 人数は……にーしーろーーのはっとりさん、ササササンタはただのおっさんと。

 14人だな。男女半々か。


「はーい。皆さんこんにちはーーー」


「……」


「シカトこいてんじゃねえ!ハイ挨拶!こーんにーちはーーー」


「……」


 全員死んでる?立ったまま死ぬとか、弁慶以外に知らねんだが。


「ジロー、奴隷印を書き換えなきゃ従ってくれないと思うよ」


「WHAT?」


 補佐官らしく隣に立っていたジョン君は、奴隷について教えてくれた。

 魔法で奴隷の印を刻まないと、俺の奴隷とはならないそうだ。


「前の持ち主、奴隷商が主人となっております」


 ソルティドッグちゃんはそう言った。

 てっきり処理はしてくれてるもんだと思ってたが、こっちでやれって?

 こんなん詐欺られる可能性大じゃないのよ。

 コイツらがもしも、前の所有者に俺を殺せと命令されてたら、金だけ貰いサクッと殺させてから、奴隷たちを帰宅させりゃあいい。

 まったくなってないねえ。そーゆーところしっかりしないと。


「標様の奴隷に、私が一時でも主人になることはできないからと、バイア様は申しておりました。奴隷商もしっかりとした者を選び買い入れていますので、金銭的な損失はありませんので、どうぞ奴隷印を刻んでやってください」


「……お、おう。デキる子ねソルティちゃん」


「有難きお言葉、感謝いたします」


 この子凄ぉぉい!何も言ってないのにぜーーんぶ察してくれてるわ。

 バイアよりもコイツと話してる方がしっくり来るな。

 バディはお子ちゃまだが、脳みそも気配りもパーフェクツ。


 覚えておこう、ソルティよ。


「んじゃ、奴隷にしようか。でどうやんの?」


「既にある奴隷印へ魔力を流し込めば完了だよ」


「なるへそ」


 ジョンの助言の通りに魔力を流し込んでみる。

 すると、これまでの転生者から得た「設定」が一斉に動いた。


『奴隷を獲得しました。奴隷の魔法が使用可能になりました。奴隷への付与はできません』


 ピコン!

『奴隷の所有者となりました。パーティーメンバーとなりますので、ステータスを共有することが可能です。奴隷への攻撃は無効です』


 ネズ公と青頭の「設定」が告げたのは、奴隷の獲得も諸々の仕様についてだった。

 が、正直どうでもいい。

 奴隷を獲得したことぐらい、言われなくても分かってるし、コイツを風俗で働かせる以外に使う気はないからな。


 ちなみに、パツキン貴族系主人公の「設定」の方は、無言タイプなので特に何か起きることはなかった。


 と・い・う・こ・と・で!


「棟梁!街へ行って店を造っておくれ!」


 魔族数名を歓楽街へと引き連れて、全壊した店の瓦礫やら残骸やらを「影渡り」で影にぶち込み、御魔森おまもりの適当な場所に捨てた。

 そっからは棟梁たちの仕事だ。

 ディキたち御庭番の力も借りたようで、影からポンポンと角材が出てくる。それから石材やら粉状の何かやら。

 空き地に放られた素材をえっちらおっちら並べたら、魔法やら手作業やらで立派な洋館を完成させてしまった。

 ものの30分ぐらいの話だ。


「あと何軒ぐらい造れる?」


「手持ちの建材だけでしたらあと一軒っす。村に帰ればあと3軒ぐれえは建てられるっすね」


 ガテン系魔族の女棟梁は頼もしい。そしてイイ。

 いやーーイイね。

 口説くのは今度にして、とりあえず手持ちでもう1軒建ててもらった。


 立派な娼館が2軒。男女半々の奴隷がいるから割り振るのは簡単だ。


 さあてお次は内装だが、その前にだあねー。

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