第46話・戸惑い
相笠冬華と相笠弥一。
それは私の両親の名前。
二人は私が小学生の頃、突然消えてしまった。
例えば、事故に合ったと言うのであれば幼いながらも納得することはできたと思う。しかし、現実は行方不明。周囲の人間からは子供捨てたのだ、とさえ言われる始末。
それは身の回りの大人から、仲の良かった同年代の友達まで絶えることなく言われ続けた。
それを聞いて私は絶望してしまった。
そんな私を見かねた兄さんが力を貸してくれて、何とか今までやっていく事ができた。
突然両親が居なくなる恐怖は今でも鮮明に思い出す事ができる。そんな恐怖に両親の顔は覆われ、もはや鮮明に思い出すことすらできない。
しかし……。
「そんな……まさか……」
僅かな可能性。
いや、私がこの世界に来れた理由はそこにあったのかもしれない。
「ガル?」
「まっ……」
頭の整理が追いつかない……そんな私を置いて詩人は話をどんどん進めていく。
「さぁ!皆様!準備は宜しいですかッ!?」
頭が痛くなるまでの歓声。
すぐにでもこの場から抜け出したかったが、話を聞かなければならないという気持ちがそれを抑え込む。
「お静かに。始めます」
周囲がしんとした頃、静かに語り始める。
「時は千年前に遡ります」
人物紹介時のように、紙を取り出し新たな紙が現れる。
描かれていたのは、国がモンスターに襲われ逃げ惑う民たちの姿。
「多くの人間がモンスターによる襲撃を受け、人類が絶体絶命の危機に陥ってしまったのです」
そして、次に現れたのが二人の勇者。
「その時。神々は二人の勇者を……この世界に召喚したのです」
観客が盛り上がる。
そんな中、私はただ理解しようと必死に頭を回すので精一杯だった。
「神々の権能を用いてモンスターを圧倒し、薙ぎ払い、瞬く間に殲滅したのです」
嘆願の声が聞こえてくる。
主に話を聞いていた子供たちによるものだった。
「しかし、その姿を見た人々は二人の圧倒的な力に恐れ、愚かなことに騙し討ちを目論んだのです」
周りから不穏な空気が流れる。
「しかし、勇者は倒れませんでした。それどころか、傷一つ付けられなかったのです」
紙には、街だったものと思われる瓦礫の上に立つ勇者の二人が描かれている。
「しかし、それでも勇者は人々と敵対しようとはしませんでした。それが神々との誓いであり、本人も望んでいなかったからです」
そして、次の紙には二人が手を合わせている姿。
「勇者は力を手放し、各国々に分け与える選択をしたのです。こうして、二度と人々と争わないことを盟約とした三神国が誕生したのです」
周囲からは拍手と歓声が湧き上がるが、公演が終わる同時に私は逃げるように広場から離れた。
旅館に戻り、ベッドの上で寝転がる。
一言で言えば、複雑な気分だ。
「はぁ……」
だからなんだっていうんだろうか。いや、言われてないけど。
私を捨てていなかったと喜べばいいんだろうけど、そんな気分には到底なれない。
「あーあー……」
憂鬱な気分。
何を考えてもモヤモヤが晴れず、チラチラと両親の事が頭に過ぎる。
「ガルル……」
クロが先程から意味がわからない、と言った様子で私を見つめてくる。
そりゃ、クロにはあの詩人の話が分からない訳だから、私が翻訳してあげないといけないんだけど……。
「言いにくいなぁ……」
しかし、言わないとクロが可哀想だ。
よし、言ってみよう。
「クロ、さっきの話なんだけど……」
私は嘘偽りなく伝えると、クロは大きく息を吐いた。
「えー……その反応ちょっとショックだよ」
私にとっては大きな問題なんだけど、クロにとっては悩むまでもない話なのだろう。
「ガル」
クロが私の首根っこを咥えて部屋から出そうとする。
私だって、言われなくても分かってる。このまま燻っていてもこのモヤモヤは晴れないし、逃げるのはもっとダメな事だって。
「待って!分かったから!」
しかし、クロは言うことを聞かないので引き摺られたまま旅館を出ていく。
もう……ラウンジの人が変な顔で私の顔みてたよ。
外に出るとクロがやっと離してくれたので、気合を入れて歩く。
「行こう」
「ガル?」
これからどうするんだ?というクロに、私は覚悟を決めて口を開く。
「事実確認……龍神様に会ってみたい」
「……?」
どうやって?って言いたいのかな?特に何も考えてないけど、なんとかなるでしょ!
勇者の娘です!と言っても頭のおかしな人が来たとしか思われないけど、千年前から生きている龍神様と話せれば理解して貰えるはず。
「とりあえず、詳しい人に話を聞いてみよう」
向かうのは先程の広場。
あの公演をしていた人であれば、この国についても龍神様についても詳しいと思うからね。
「えっと……あ、あそこかな?」
公演は既に終わっているらしく、ちょうど片付けを始めていた。
「すみません!」
「はいはい、って……君達は……」
おっと、どうやら私たちのことを認知していてくれたらしい。
それなら話は早い、と私は本題を話すことにした。
「それなら神殿に行けば、運が良ければ会えるかもしれないね。神殿にいる神官様に聞いてごらん」
「分かりました、ありがとうございます!」
「お易い御用だよ。私としても人と友好的な竜とは初めて見たからね。詩にしてもいいかい?」
「え?えっと、はい」
よく分からないけど、クロが友好的って広まるのはいい事なんだよね?
「ありがとう。ほら、あそこに見えるのが神殿さ」
詩人が指さしたのは大きな建物で、大きな円形の……一見コロシアムのような形をした建物だった。
私はもう一度礼を言って、教えてもらった建物に向かうことにした。
幸いルステアのような長い階段はなく、入口までは簡単に進むことができる。
「失礼。ご要件は?」
神官と呼ばれる人が私の前に立つ。
一般人でも龍神様と話すことができるらしいので、素直に聞いてみることにした。
「龍神様に会いたくて……」
「……ああ、そうか。残念ながら今は不在だ」
「え、そうなんですか?」
「ああ、数日もすれば帰還する。厳密にはまだ出立されていないが、出立日は人を通さないように言われているんだ」
「そうでしたか……」
残念だけど、仕方ない。数日くらいなら待てばいいし、ゆっくりしておこうか。
「分かりました。また来ますね」
「ああ。話は通しておこう」
「ありがとうございます。それでは」
……うん、仕方ないね。
っていうか、一般人の私が会いたいと言って会えるような立場じゃないと思うんだよね。王様だよ?普通顔すら見れないはずだし、会えるだけラッキーって思うことにしよう。
それからは再びエトニシアを観光し、龍神様が帰ってくるまで待つことにした。
しかし、それから五日。
一向に帰還したという話は耳に入らず、今日も暇つぶしにエトニシアを歩いているけど、妙な緊張が常に私の中から離れないでいた。
「失礼。ヒノ様ですか?」
正面から話しかけて来たのは、容姿端麗で金色の長髪を後ろで結んでいる人……?いや、エルフだね。
「はい、私です」
もしやと思ってエルフを見ると、神官とは少し違うが似たような色合いの服を着ている。
「私は神殿で祭司という役職を務めている、エレトと申します」
綺麗なお辞儀を見せるエレトさんに押される形で、私もペコりと一礼。
「ところで、ヒノ様は龍神様とお話がしたいとか……」
「はい、そうなんです」
「それは良かった。龍神様もヒノ様と話がしたいと仰ております故、今回はそのお迎えに上がりました」
「え、帰ってきてたんですか!?」
そんな話は聞いてなかったので、もしかしたら知らぬ間に帰ってきていたのかもしれない。
「ええ。しかし公表する前にヒノ様とお話がしたいとか」
向こうも私を認知してくれてるってこと……だよね?
「一体何の話を……」
「私如きの愚考で宜しければ……エトニシアに来る前の村を救った件ではないでしょうか?」
ああ、なるほど……。
とにかく、私はしばらく身支度を整えてからエレトさんに案内をお願いし、神殿に向かうことになった。
そして、龍神様と出会った。
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