第44話・エトニシア

 さて、空を飛んでエトニシアに向かうことになったけど、到着までどれくらい掛るんだろう?

 ま、多分数時間も掛からないと思うけど、実際の距離はあんまり分からない。


 兎にも角にも、クロに乗って飛ばなければ何も始まらないので、私はササッとクロの背中に乗る。この動作も最初はノロノロだったんだけど、今では華麗に飛び乗れる。まあ、カッコつけて失敗した事もあるけどね。


 クロが飛び立つと、歩いていた時とは比べ物にならない速度で空中を貫く。

 この速度ならもしかすると、一時間もしない内に辿り着いてしまうかもしれない。

 そんなことを思いつつ、私はこの猛スピードの中クロに必死にしがみついた。


 そしてなんと、たった数十分程度で新たな街の影が見え始めた。

 その街は海に囲まれるように立てられ、砂浜の部分には街の入口である門があった。


 どうやらここら一帯の大地は海に突出しているらしく、直線上で進めば海が反対側にあるらしい。そこにリセルがあるって事だね。

 そして目的地であるエトニシアは海の上に立てられていて、まさに海の国と言って差し支えない外見をしていた。

 

 そして驚くべき事は、その大きさ。

 海の上だと言うのに遠慮なく、巨大な都市一つが丸々海面上に置いてあった。


「凄いね……一体どうなってるんだろう」


 驚きつつも、門から少し離れた砂浜に着地する。


「ありがとう、ちょっと近付いてみようか」


 門を見張ってる人がいると思うんだけど、まずその人にクロの説明をしないとね。

 そんな軽い気持ちで門に向かって進んでいくと、門から物騒な物を手にした兵士らしき人がゾロゾロと出てくる。


「え……ちょ」

 

「そこで止まれッ!」


 兵士の中の一人、周りよりも多少豪華な鎧を着た人が大声を上げる。多分ここにいる兵士たちのリーダー的存在なのだろう。


「何の目的でここに現れた!」


 やばいやばい……!なんか囲まれてる!


「も、目的……?観光です!観光!この竜は私が従えてますし、危険はありません!」


 クロはその通りと言わんばかりに首を縦に振る。


「なんだと!?……ほ、本当か?」


 リーダーは他の兵士たちに聞く。いや、私に聞かないと分からないでしょ!

 すると、コソコソと兵士たちの間で会議が開かれ、私を置き去りに兵士全員が円を作っている。


「しかし危険が……」


「何を考え……」


「少女……」


 と、そんな声が微かに聞こえてくるだけだった。

 ハラハラしながら悩める兵士たちを見守っていると、しばらくしてから再び話しかけられた。今度は大声ではなく、かなり控えめな声で。


「ちょっとだけお話伺ってもよろしいでしょうか?」


「あ、はい。全然大丈夫です」


 盗み聞き……ではないけど、聞こえた感じから予想するに、危険な人物かどうかを話して見極めようとしているんだと思う。


 私は快くリーダーについて行き、クロは周りの兵士に囲まれて困っていたけど、そのまま門を潜ってエトニシアに続く巨大な橋を渡って行く。


「すみません、話ってどれくらい……」


 時間はそろそろお昼頃。

 それでも話し合いでかなり時間かかるのであれば、観光は諦めて宿をとる必要がある。特に宿は探すのに苦労するんだよね。

 対して、そんな私の質問にリーダーは答える。


「あまり手間は取らせませんよ」


 それならいいんだけど……。

 私は顎に手を添えて今日の予定を考えていると、隣にいた兵士が加えて話してくれる。この人はさっきの会議でも発言力のある人だったと思う。例えるなら副リーダー的な感じ。


「ご希望でしたら宿等もこちらで取らせて頂きます」


 え、ほんと!?すっごい嬉しい!


「あ、ならお願いします」

 

 ってことは、代わりに払ってくれるってことだよね?これ以上嬉しいことがあるだろうか……?いいや、無い!

 私は是非話を聞いて下さい!という態度で橋を渡り、すぐ近くの詰所?みたいな所に連れて行かれる。


 そして、私とリーダーと副リーダーの三人で話し合うことになった。

 ちなみに、クロとその他の兵士は外で待機してる。


「さて、先程は失礼しました。私はガリルと申します」

 

 あら、思ったよりちゃんとしてる。

 そういえば、さっきチラッとみた街もかなり綺麗だったし、私が思ってるより文明のレベルが高いのかも。


「ご親切にありがとうございます。私はヒノ、外で待ってるのがクロです」


「なるほど……私からいくつか質問をさせて貰っても構いませんか?あ、私はシックと申します」


 どうやら基本的に副リーダー、シックさんが私に質問をしていく感じらしいね。


「はい」


 やましいことも無いので、素直に頷いていく。


「まず、エトニシアに来た目的は……観光でしたか?」


「はい。観光ですね」


 ふむふむ……と言いながら悩んでいるシックさん。

 そして隣にいるガリルさんはシックさんの隣で悩んだフリ?をしているみたいに見えた。いや、まさかね。多分深い考えがあるんだと思うけど


「次に、今までの経緯を聞かせて貰えますか?」


 私はその瞬間、キタ!と思った。

 私はリセルでギルさん達の命を救ったので、そこが大きなアピールになると思ったから!


「リセルから来ました。えっと……ルステアっていう都市から海を渡って、襲われていたリセルの船を助ける代わりに、エトニシアまでの道を教えて貰ったんです」


 大体の経緯を話していくと、悪い人じゃないというのが伝わったのか空気が緩んできた。

 ふふ、私の手にかかればこんなもんよ!


「なるほど……国の者を救って頂き、誠にありがとうございます。そして、重ね重ね失礼な態度、改めて謝罪させて下さい」


 すみません、と再び頭を下げる二人。


「いやいや!全然気にしてませんから!大丈夫です!」


 というか、これだけでクロを入れて貰えるならこちらこそ感謝したい位だよ。


 こうして、長い時間二人……ほぼシックさんからの質問を答えていくと、遂に解放の時が訪れた。


「ありがとうございました、これで質問は以上です。エトニシアへようこそ。宿についてはまた詳しくご説明させていただきます」


「はい!ありがとうございます!」


 宿の話を聞いて、内心ヘトヘトになりながらも外に行くと暇そうなクロが視界に入った。


「ガル」


「ごめん、お待たせ。もう大丈夫らしいから行こっか」

 

 後ろで頭を下げる兵士たちに会釈して、エトニシアに入っていく。

 いやー、かなり大きなアクシデントだったけど、後々捕まったりするよりは全然いいから、逆に肩の荷が降りた感じがするよ。

 たとえ後で怒られても、兵士さんにオッケー貰いましたって言えばいいからね。


 空はもう夕日。

 先程シックさんから聞いた宿に向かうのも悪くないけど、少し時間が余ってる。


「ガル……!」


「あ、ホントだ」


 クロが顔を上げて周囲を伺い始めるのと同時に、美味しそうな匂いがどこからともなく漂ってきた。

 なんとも恐るべきクロの嗅覚である。

 

 クロに連れられるがままに進んでいくと、宿の連なっている場所を見つけた。

 そしてクロが歩く度に驚きの声が上がるが、私は気にしない。毎回気にしてても仕方ないからね。


 すると、やがてクロは立ち止まり一つの屋台の前に座る。

 屋台に並んでいるのは、流石海の国と言うべきか魚類だった。なんの魚かは分からないけど、塩焼きに近い感じの焼き魚だね。


「すみません、これください」


 私が話しかけると、お店の人は驚きながらもしっかり対応してくれる。


「お、おお……何本だい……?」


「うーん……十本?」


 クロが満足気に浮かぶのを見て、それで決定する。


 受け取った魚をクロに食べさせ、私も一本貰って食べながら歩く。

 他に何があるのかな……と思いながら食べ歩いていくと、やはり魚類がほとんどで逆にルステアで一番多かった肉類は少なかった。


「んー、一旦教えて貰った宿に行ってみよっか」


 聞いた話によると、かなり良い宿らしくてモンスターも大丈夫なのだとか。ほら、普通のモンスターを連れてるテイマーとかいるからね。

 そして、なんと温泉がある!ならクロも入れるでしょ!

 

 ということで、宿にレッツゴー!

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