第39話・夏といえば海と水着!そして竜!

 ポーションを『生産魔法』で創ろうとしだしたけど、結果的に言えば無理だった。

 どうやら魔力が足りないみたいで、試しに素材ごとに創り出して作成することにしてみた。

 そして、成功。

 一通り簡単な魔法だけは使えるので、どんなことができるかを試しまくることにした。


 その中でも特に目立ったのが、光魔法のポーション。

 神殿で教えて貰った魔法の一つ、『ライト』を付与してしてみた。

 どうなったのかを話す前に『ライト』について説明すると、そのまま指先が光ったり蛍みたいに飛びせたりする。

 そうそう、それを液化して飲んだ訳ですよ。


 ピカッと光った。


 うん、私がね。

 うす目で見つめてくるクロが頭から離れないほど焼き付いたよ。

 効果時間は五分程度で、その間私は光り続けるしかなかった。


 と、言うわけで光魔法はポーションにするのを諦めた。

 ポーション屋さんには実用性のある光魔法のポーションもあったけど、今の私には無理っぽい。

 例えば木の棒の先端とかに垂らして光らせる!とかはできるんだけど、それなら魔法を使って光を飛びした方が楽そうだったので……残念。


 そして本題の回復魔法。

 クロに使っていたのが治癒のポーション。

 擦りむいた時に色々試した結果、『ヒール』という魔法を使えるようになった。

 それをポーションに使ったってわけ。


 と、まあそんなことを考えながらクロの背中に乗っていると、森の様子が変わってきた。


「ガルル」


 どうやらクロも気になった様で、一旦降りることにする。


「木の種類が変わった……」


 今までの森の木々はどこにでもあるような種類だったけれど、しばらく野原を進むと松の木のような形をした木々が並んでいた。


「んー……」


 松の木って海の近くで育つイメージだけど……確か普通の木は潮風で枯れちゃうんだっけ?


「クロ、海が近いのかも!」


「!」






 雲ひとつない晴天、真っ白な砂浜、どこまでも続く青々とした水平線。


 私達は海に辿り着いた。


「クロ、見て!海だよ!」


 クロは頷き、背中に私がいるのを忘れたような急降下で砂浜に飛び降りる。


「あぐッ」


 いてッ、舌噛んだ……。


「?」


 この、竜め……。

 両手で口を押さえつつ、目を合わせないクロをジッと睨んでおく。


「まあ……今回は許してあげるよ」


 何日も旅を続けて、遂に辿り着いた絶景。

 これを前に落ち込んでいたら勿体ないからね。


「ほら、行こ!」


 クロから飛び降りて先導するように、半透明の海に近付いて行く。


「ああ、懐かしい」


 ザァザァと波音を立て、連なる小山は太陽を煌めくように反射している。


 その景色を眺めながら靴と靴下を脱ぎ捨て、ゆっくりと裸足で海に足を踏み入れる。


「クロ、これが海……え?何してるの?」


 感動を共有しようと振り返った先には、波の前でぴょんぴょん跳ねるクロの姿があった。


「え、まさか……怖いの?」


 首を横に振るクロだが、どう見ても水を怖がる猫のような挙動をしている。


 でも水が苦手な素振りとかなかったけど……どちらかと言うと水遊びが好きだと思ってた。


「あはは、ほら大丈夫だよ」


 クロの手を引くように海の中に引き入れると、嫌々ながらも中に入ってくれる。

 

 どうやら迫ってくる水に驚いたようで、一回海の中に入るともう止まらなかった。

 ドカドカと水深の深い所に行こうとするクロ。


「ちょっと待って!」


 海で遊ぶ前にやらなければならないことがある。


 夏といえば海、海といえば水着!

 ということで一旦陸に上がり、クロの鞍を外して荷物を濡れないように岩の上に置いておく。

 そして水着に着替えた私はクロを連れ、透き通るような海に走り出した。


 浅瀬ではしゃぎ回るクロの顔にピュッと水をかけると、目に入ったのか強く目を瞑る。


「ガル!」


 あ、怒った。

 咄嗟に身構えると、なんとクロは尻尾を使って海に大きな波を起こした。


「ちょ、それずるいッ!」


 私は海に飲まれそうになると、潜り込んで波を回避しクロの反対側に浮き上がってやり返す。


「あはは、どうよ私の……ってちょッ」


 クロが全身で飛び込んで、あばばばば!


「ちょ、ごめんごめん!もうやめて」

 

 

 満足いくまで海で遊びまくると、指がふやふやになってしまったので次の遊びに移ることにした。


 ビーチボールを創り出して、中に空気を吹き込んでいく。実は、これがかなり体力を使うのだ。

 よし、これでボールのできあがり。

 なんでビーチボールかって?ほら、ルールも簡単だしクロでも楽しめそうな遊びだから。


「ほら、落とさな……」


 スパァンッ!

 クロの方に放り投げると、ペチッと潰してしまった。


「ガル?」


「……」


 容赦ないねこの子は……仕方ないなぁ、もう一個膨らませればいい話だから許してやろう。


 コホン、気を取り直してもう一回!


「へい!」


 すると、驚くことに尻尾の裏側を使って優しくボールを打ち上げた。

 そんな器用なことできるんだ……っと、関心してる場合じゃない!


「よいしょ!」


 クロには悪いけど、私は……ってあれ?

 勢いよく空振ってしまう。


「?」


「……」


 私がなんだって?いや、運動音痴なんだなって。

 いやいや!ビーチボールに運動音痴とかないし、油断しただけだから!


「もう一回……!」


 私の渾身の一撃をクロは頭で受けて上げる。

 私はすかさずスマッシュ!勝負はいつだって真剣勝負だからね!と思ったら簡単に尻尾で返された。


「えっ……」


 返されたボールは勢いよく私の頭の横を通り過ぎる。


「ビーチボール上手すぎない……?」


 真剣勝負とは言ったけども……ここまで戦力に差があるとは思わなかった……。


「……尻尾」


「ガル?」


「尻尾禁止!」


 私には無いものを使うのはナシ!ということでもう一回!


 


 ……うん、やめよっか。


 海に入ろ、うんそうしよう。


 なんだかんだ海を満喫し、疲れ果てた私とクロは波に身を委ねて揺れ動く。

 浮き輪の上で寝転がる私と、そのまわりを泳ぐクロ。


「はぁ……楽しかったね」


「ガル」


 クロはまだ元気で楽しそうだけど、私はもうヘトヘトだよ。


「これからどうしようかなぁ……海の国は見当たらないし、もしかしてズレちゃったかな」


 方角は間違えていない筈なんだけど、海を渡った先にあるのかもしれない。

 まあ、間違ってたらまた探せばいっか。


「あ、そういえば荷物……あっ!」


 まさか、と思って荷物を置いた岩の方を見ると潮が満ちて岩が海に覆われていた。


「ちょ、ちょちょ!クロ!荷物取りに行こう!」


 海じゃ、あるあるのアクシデント……完全に忘れてた!

 慌てて浮き輪から降りたためにひっくり返ってしまったが、そんなことを気にしてる場合じゃない!

 

 大急ぎで取りに戻ると、かなり波は瀬戸際で危うく荷物がびしょ濡れになってしまうところだった。


「いやー危なかった……」


 もし少しでも気付くのが遅れてたら荷物が波に攫われてたよ……小さい頃何度か浮き輪が攫われたっけ?


「ふぅ……今日はここでキャンプしよっか」


 クロはまだ遊べると思ったのか、喜んで頷く。

 いや、私は遊ばないけどね。ほら、もう腕も上がらないよ。


「クロ」


 クロに木を集めてもらおうと思って呼んだけど、まだ遊びたそうな顔をして海を眺めている。


「遊んでていいよ。私が集めてくるから」


 夕日が反射した海に向かって走り出すクロを横目に、私は松の木に似てる木々の中に入っていく。



「松の木って燃えやすいんだっけ」


 確かそんな話を聞いたことがあるような……ないような?


「あっ、これって……」


 松ぼっくり……じゃない?いや、似てるだけ?

 見た目はほとんど松ぼっくりだけど、ちょっと平べったい。ということは松の木とは違う種類なのかな?かなり似てるけど。


 そして、一つ気になったことができた。


「……松ぼっくりって燃やしたらどうなるの?」


 気になったら試してみたくなったので、松ぼっくりだけを集めてクロの元へ戻る。


「?」


「これを燃やしてみたいんだよね」


 石がないので、軽く穴を掘って中に松ぼっくりモドキを大量に入れる。その数なんと五十以上。


「クロさん、やっちゃって」


 ペッと吐き出した炎は、瞬く間に松ぼっくりを包み込んで燃えていく。


「おおっ!?」


 かなり大きな火柱となり、かなりのインパクトだった。


「凄いね、松ぼっくり……」


 塵も積もれば山となる……ちょっと違う?三人寄れば文殊の知恵……いや違う。

 まあだからなんだって話だけどね。


 しかし、たった数分で全て燃え尽きてしまったので、結局二人で集め直した。


「クロってどれくらい飛び続けれる?」


「ガル?」


「海の国っていうのが、多分海の先にあるんだけど、かなり遠いと思うの」


 コクコクと頷くクロ。


「何日も飛ぶことになるかもしれないんだけど……大丈夫?」


 毎日何時間も飛んでいるクロだけど、流石に何日も飛び続けるのは難しいかもしれない。


「ガル!」


 大丈夫らしい。


「本当に?」


「ガルル」


 どうやら本当に平気みたい。竜って本当に凄いんだね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る