第38話・クロ、復活!

 森の中を進み始めてから二週間くらい経過した。

 まー日数とかはどうでもいいんだけど、いい加減同じ景色にも飽きてきた!

 かれこれかなりの距離を歩いてきたし、そろそろ海の国とやらが見えてきてもいい頃なんじゃないかな。


「あ……」


 そこで、私は一つの問題に気付いた。

 海の国がどのような場所にあるのか、という問題である。

 

 それのなにが問題なのかって?

 

 私は知らぬうちに海の国は海の近くにある国だと思ってたけど、いや、それ自体は間違っていないのかもしれない。だけど、海の近くにあるのか海を渡った先にあるのかが分からない。

 

 海の近くにあるだけならいいんだけど、海を渡る方法がないというのが大問題。

 クロの翼さえ治ればすべて解決できるけど、こればっかりは待つしかないんだよね。


「クロ、翼の様子は?」

 

 もともと飛べないわけじゃないけど、悪化しないように気を付けていた。

 翼の怪我を見ると痕こそ残っているものの、あんなにも酷かった傷は完全に塞がっていて、見た感じもう飛べるのではないだろうか。


「グルル」


 クロは私を乗せたままぐるりと肩を回し、翼を広げて地面に巨大な影を落とした。


「お……」


 訛った体を伸ばすように遠慮なく翼を羽ばたかせると、周囲の草木が騒ぎ始める。

 溜め込まれたクロの憂鬱が、今か今かと解放の時を待っている。


「よし、行こう」


 その言葉を点火源にクロが飛び立ち、やがて浮き上がる。


「ちょ、はやッ」


 以前とは上昇速度が比べ物にならない程の速度だった。

 普通久しぶりだったら遅くなるんじゃ……いや、それほど我慢してたのかな?

 何はともあれ怪我が治ってよかったよ。元はと言えば私が原因の怪我だし、治らなかったら申し訳なくて……。


「飛べるようになってよかった……」


「ガル」

 

 っと、今思えばここら一帯を見渡すのは初めてかな?

 私は久しぶりの空からの景色に目を移す。


 透き通る空で緩やかに流れる白雲。

 ギラギラと照り輝く炎天。

 誇らしげに雲を貫く高峯。


 地上から見た景色とは全く違うそれらの絶景。


「気持ちいいね」


 そして、すれ違う風が汗ばんだ肌に心地いい。

 特に最近は気温も高くなり始めて、髪や服が肌に張り付いてたからね。お風呂も入れないし、良くても水浴びくらいしかできない。


「ガルル!」


 クロも嬉しそうで何よりです。

 

「大丈夫?痛くない?」


 久しぶりに飛ぶんだし、一気に長時間飛行するのは傷に悪そうだけど。


 クロが頷くのを見て胸を撫で下ろしつつ、降りるように指示する。

 早く海の国に行きたいって気持ちもあるけど、リハビリを兼ねて少しずつ飛ぶ距離を増やしていくのがいいと思う。何かが起きてからじゃ遅いからね。

 クロに近くにあった川へ降りるよう伝え、着地する。


「よいしょ」


 クロから降りて青く凪いでいる川の様子を見る。

 かなり大きな川だけど、水深も浅くて流れも緩やかだし水浴びにもちょうど良さそう。


「今日はここに泊まろう」


 まだ太陽は高いけど、ここまで拓けた場所はそうそうないんだよね。


「ガル」


 クロの承諾を得たのでキャンプの準備をする。

 これを後回しにすると、モンスターとかの問題が発生した時に落ち着けない。

 まぁ……そのせいでご飯が遅くなるとクロが暴れるんだよね。いや子供かッ!あ、子供か。


「木を集めてきて、落ちてるやつだけだよ」


 前回集めてくるよう頼んだら、面倒くさがって近くの木を折って持ってきたということがあったので、念を押しておく。

 木が可哀想だし、乾燥してる木じゃないとダメだからね。説明したら渋々理解してくれたけど、あの顔は納得していないと思う。


「ガル」


 そんな疑いの眼差しを向けられたクロは、心外だと言わんばかりに森の中に入ってく。

 まあ、多分大丈夫だよね。

 さて、クロが集めに行ってる間に私は焚き火をするスペースを確保する。

 具体的に何をするかと言うと、川沿いの石をコロコロと退かすだけ。

 それだけ?って言われても……水浴びはクロと行くし、ご飯もモンスターを倒してからじゃないとね。

 

 

「暇……」


 只ひたすら石を退かしていくだけの作業なので、暇なのは仕方ない。

 そのまま何も考えずに作業していると、近くから甲高い音が聞こえてくる。


「……!」


 この声は……オーク!?やった……!今日はご馳走だ!

 

 ふふ……この数週間私が何も成長していなかったと思うのかね?まあ、見てなさいって。


 周辺を鋭く観察すると、森の方にオークの姿が見える。

 数は二体。見つからないように身を低くして近寄り、手のひらを二体のうちの一体へ向ける。


「弾丸」


 以前の破裂音はなく、シュッと鋭い音を残してオークの一体を貫く。


 続けてもう一体にも放ち、計二体のオークを仕留めることに成功した。

 

 ……どやぁ?


 この魔法は相変わらずの『生産魔法』で、発射した後の弾丸を造り出してる。

 要するに、怪我をしない完璧に近い攻撃手段を手に入れたという訳です。ちなみに、魔力が満タンの状態から三から四発しか撃てない。ま、それでも十分だけどね。


「ガル?」


「見て見て!私が仕留めたんだよー」


 とりあえず自慢しておく。何もできない子だと思われたら嫌なので、こういう時にアピールしないといけないのだ。


 どうでも良さそうな顔をするクロにオークを運ばせ、私は焚き火の準備を終わらせる。


「ありがと、それじゃ水浴びしようか」


 クロの鞍を外し、私も服を脱いでいく。

 ここら辺に人はいないと思うし、汗でベトベトした不快感と比べるも羞恥心なんて気にしてられない。


 バシャバシャと川の中に入っていくクロに続いて、私もひんやりとした水に触れる。


「ひぁ……」

 

 冷たい。

 水深は太もも程度で、しゃがめば肩まで浸かれていい感じ。魚もいたけど、クロに驚いて逃げてしまった

 

 夏だけど、久しぶりに暖かいお湯に浸かって吐息を漏らしたい反面、この生活に慣れてきた自分が恐ろしい。

 あ、もしかしたら全てにおいて不器用だった私にもサバイバルの才能があったとか!?


 ……うん、無いかな。


 そんなことを考えながら流れが強く、水深の深い方で暴れ回ってるクロを眺める。

 どうやら向こうの方に魚が集まっているらしい。ほら、クロが捕まえてる。


 戦利品を自慢しに来たのか、大きな魚を咥えたまま子供のように近寄ってくる。


「ガルル」


「おー大きいね」


 一メートル近くあり、まさかこんな大きな魚がこの川にいるとは思わなかった。

 クロは一口で魚を飲み込んで、二体目の獲物を求めて走り出す。その姿はフェルローラ村でドブを乱獲した時と被った。


「そっか……」


 そういえば、ルステアや村は私が居なくなった後どうなったんだろう……。

 冒険者さん達は貴族に逆らっちゃったし、村のみんなにもちゃんと別れを言えなかったし。


「はぁ……約束守れなかったな……」

 

 シエナにまた料理を作るって、約束したのに守れそうにない。

 クロの方から波打つ水をすくい上げて、顔を洗う。


「また、帰ってこよう。みんなが忘れた頃に」


 これが一生の別れじゃないんだからね。それに、旅は思ったより楽しいし。


 それに加えて、今日はクロの復活祝い。

 ふふふ、私も腕に縒りをかけてご飯を作りますよ。焼くだけだけど!

 いやね、私もカレーやらシチューやら作りたいんだけど、クロが満足する分を作るのは……ね?不可能でしょ。

 

 ちなみに、クロの鞍にぶら下げてる袋は四つあって、一つは鍋とかの調理器具等。と言ってもやっぱり人間用のサイズだからクロの分を作るのは難しい。

 そして二つは服とかタオルみたいな生活必需品、お金とかも一応あって、正直有り余ってて邪魔。

 そして最後の袋は私がコツコツと『生産魔法』と他の魔法を使って創り出した回復とかのポーション。これでクロの傷を治してたりした。

 私が擦り剥いた時に飲んでみたけど、本当に魔法のように治って……まあ、詳しくはまた後日。

 それでもクロに効果があるのかは分かんないけど、やらないよりはマシだよね。


「ガル!」


 クロが三匹の魚を咥えて帰ってきた。

 やったね、食材が増えたよ。


「ありがと、明日は一気に飛んで海を見つけよう」


「ガル!」

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