第37話・オークのお肉は美味しい!

 私たちは新しい仲間を連れて、相変わらず森の中を歩いていた。

 色々とツッコミたい所は多いと思うんだけど、特にミミズに関して。とにかく、それは一旦置いといて欲しい。


「魚美味しかったね」


 寄生虫とか怖かったから焼いて頂いたんだけど、身も柔らかくて普通に美味しかった。湖の水も綺麗だったからかな。


 困ったのは、調理する時に魚の鱗をクロに取ってもらったら、鱗だけじゃなくて身もごっそり持っていかれてしまったこと。まあ、力加減とか難しそうだからね。


「ガル!」


 クロが捕まえた魚は私と同じくらいの大きさで、もしかしたら湖の主だったのかもしれない。百五十センチくらい?うん、普通にデカすぎる。


「……」


 そして、一番の問題は私の肩の上で暴れ回るミミズ。

 この子の説明をすると、私の『生産魔法』で創り出したミミズである。ちなみに言葉も通じて考えている事も通じている。

 例えば、私が言葉に出さなくてもミミズには伝わっているし、ミミズの考えも私はわかる。

 

 まあ、理解できないけど魔道具も似たような感じだったし、魔力ってなんでもありなんだろうね。

 逃がすのもなんか申し訳ないし、連れ歩くことにした。


「……でも、なんか小さくなったね」


 ミミズの大きさではなく、私とミミズを繋ぐ魔力が少しずつ小さくなっているのが分かった。

 多分、この魔力が無くなるとミミズは死んでしまうのだと思う。


「ごめんね」


 しかし、ミミズは悲しむ素振りを見せなかった。

  ミミズという生物だからなのか、伝わってくるのは何をしたいかだけで複雑な感情は分からなかった。


「……あ」


 ミミズの魔力が消えてしまい、動かなくなったミミズを手に取って地面に埋める。

 私の魔力で創られたからか、このミミズは私の分身のような……もう一人の自分のような気がしてくる。それ故に放っておけなかった。

 

 もしかしたら、ミミズ相手に何してるんだと思われるかもしれないけど、少なからず愛着が湧いていたのか酷く落ち込んでしまった。


「行ってきます」

 


 それからも森を進み続け、そろそろ空腹が襲ってきた。


「ガルル……」


「うん……私もお腹空いた」


 モンスターが現れるのは正直運だからね。

 探そうと思えば見つかるだろうけど、進む方向は間違えないようにしたいから無闇に動けない。


「もう少し進んでみよう」


 それでも見つからなかったら、探しに行くという手段も考えておいた方が良さそう。


「ガル」


 時々会話を交えながら進んでいくと、何者かの声が聞こえてきた。


「しっ、止まって」

 

 音を立てないように耳を澄ますと、ヒィヒィと甲高いく話し合うような音が聞こえてきた。

 音の正体を探るように進んでいき、背の高い草を掻き分ける。


「あれは……」


 豚の顔が頭に乗ったモンスターが三体。

 外見はオーガに近いが、オーガと比べると一見肥満そうに見える。


「オーク……かな?」


 現物を見るのは初めてだけど、間違いない。

 そういえば……肥満そうに見えるって言ったけど、豚の体脂肪率はかなり低いと聞いたことがある。オーガ程じゃないだろうけど、気を付けよう。

 そして、オークのお肉と言えば高級品!必ず捕まえよう。


「クロ、倒せる?」


「グル」


 腹ペコなのか口からヨダレを垂らしながら返事をし、オークの方に走っていく。

 うん、問題なさそう。

 というか、オークって美味しいイメージだけど普通の豚と同じで全部食べれるのかな?


 まあ、それは食べてみればわかると思う。

 クロが霧でオークらを倒し終えたので、待ちきれないクロには二体のオークを食べさせ、残りの一体の解体は手伝ってもらった。


「ガル!」


 どうやら美味しかったらしい。

 ルステアの屋台で食べたオークのお肉は美味しかったからね、私も楽しみだよ。


 食べれそうな部位を剥ぎ取り、よく分からない所はクロにあげた。まあ、多分そこら辺に捨ててもモンスターが食べてくれるんだけどね。

 実は何度かそんなシーンを見た事があった。その度にクロが倒して食べたり食べなかったり。

 

 そして切り離した肉はかなりの量だけど、クロも食べると考えれば足りるかな?ってくらい。

 全く、クロは食いしん坊だね。


「ガルル」


「もう少し待って」

 

 急かすクロを止め、オークの肉を食べやすいサイズに切り落としていく。

 今まで私の料理には見向きもしていなかったクロだが、今はオークを解体する様子に夢中だった。


 実は昨日、私の食べていたご飯に興味が湧いたらしく、食べさせてみるとハマってしまった。

 人間の食べ物を食べて平気なのかな?と思ったけど、竜なんだし……大丈夫だよね?


 オークの解体を終わらせ、自分で食べる分を串に刺して炎で炙る。

 味付けは屋台で食べた秘伝のタレ。秘伝と言っても私の『生産魔法』様を使えば余裕のよっちゃんなのです。


「お肉どうし……」


「?」


 肉塊が大きいのでどうしようか、とクロの方見たら自らの手を使って肉を焼いていた。


「あ!あ、熱くないの……?」


「ガル?」


 びっくりした……熱くないのね……。

 

 両手を使って肉を挟み、炎に炙るその姿は少し面白おかしい。


「焼く必要あるの?」


 首を横に振るクロだけど、そのまま焼き続けていた。

 どうやらクロにも拘りがあるらしい。

 

 それからしばらく炎で炙ると、良い匂いが周囲を漂い始める。


「そろそろいいかな」


 炎を反射したタレが地面に零れ、肉の表面はうっすらと焦げて実に美味しそうだった。


「いただきます」


 期待を込めてパクリと一口。


「おいし……!」


 美味しい、その一言に尽きた。

 前に屋台で食べたオークのお肉よりも美味しいかもしれない。いや、確実に美味しいと断言できる。


 まさかここまで美味しくなるとは思っていなかったので、自分の分のお肉は全てなくなってしまった。

 お腹いっぱいだけど……ちょっとからかってみよう。

 私は内心ニヤリと笑い、チラッとクロの抱える肉塊を見る。


「グルル……!?」


 驚愕の声と共に目を見開くクロ。


「ちょっと分けて?」


 私の質問にクロは全力で首を横に振る。

 逃げようとしたが、両手は炙るのに使っていてじたばたとする。


「あはは、冗談だよ。ごめんって」


 ちょっと可哀想になったので素直に謝っておく。

 怒らせると話を聞いてくれなくなるからね。前怒らせた時は二日無視されたもん。


「もういいんじゃない?」


 しかし、大きな肉塊なので中まで火は通ってなさそうだけど、クロはお構い無しに食らいつく。

 元々生で食べてたんだから、多少火が通ってなくとも問題ないってことなんだろうね。


「ガルルルル!」


 余程美味しかったのか、あっという間に抱えていた肉塊はクロの胃袋の中に収まってしまった。


「ガル……」


 お肉がなくなってしまったのを見て、悲しそうな表情をするクロ。

 私の顔をチラチラ見ててくるが、残念ながらオークのお肉は残ってない。


「ほら、もうないから諦めて」


 美味しい味を覚えさせちゃったかな……。オークのお肉しか食べれなくなったらどうしよう。

 心の隅でそんな心配をしつつ、眠る準備を始める。


「美味しかったね」


「ガル」


 私は満足そうな顔をするクロと共に眠りについた。

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