第34話・旅の始まり

 凛とした夜が静けさを呼び、私とクロだけの世界を星々が照らしてくれる。

 そして、眼前に揺れる炎は私の心が投影されているかのように、小さく不安定に揺れる。


「もう……消えそう」


 まだ眠るには早い、と私は乾いた木の枝を消えかけの焚き火に足していく。

 しかし、風の吹かない夜に炎は息を吹き返すことなく消えてしまった。


「ガル」


 クロがペッ!と炎を吐き出し、再び大きな焚き火となってパチパチと元気に燃え盛る。


「……ぷふ」


 やっぱり、私にセンチメンタルな気分は似合わないらしい。


「?」


「ごめんごめん!もう元気出すよ」


 どうやら私は竜に気を遣わせてしまったみたい。

 ある意味クロの成長とも言えるけど、まあそんなことはどうでも……良くは無いね。素晴らしいね。


「さて!ご飯にしようか」


 クロの方を見ると、既にむしゃむしゃと獲物を頬張っていた。


「……」


 前言撤回。

 多分この子、私が落ち込んでた時もこっそり食べてたわ。


「ガル?」


「よし、私も食べよう。今日は肉だ!」


 そうと決まればレッツクッキング!


 ……何もないんだった。


 串を創り出し、クロの捕まえてきたイノシシ?を巨大化させたようなモンスターの肉をナイフで切り取る。

 塩胡椒で味付けてして、イノシシ(仮)の串焼き完成!

 肝心のお味は……ぱくり。


「……硬い」


 美味しくないわけじゃない……だけど、って、これ噛み切れない……。

 クロはむしゃむしゃと食べており、私が噛み切るのに苦戦しているのを見たクロが……。


「フン」


 ……鼻で笑った!?

 くそう……少し顎が強いからって調子に乗るなよ……。


「ぐぬぬぬぬぬ……」


 串の両端を掴み、歯を使って肉を食いちぎろうとする。

 ベチン。

 これでやっと一口である。うん、大変。


「もっと柔らかいお肉ないかなぁ」


 そういえば、リアムに案内されて食べたオークのお肉は絶品だった。あの味は再現できないかな……いやできるかも……?

 どうやるかって?ふふ、忘れちゃダメだよ。


 私には『生産魔法』があるのだから!

 正直、これやっぱりチートです。これがなかったらこの世界で生きていけなかったと思う。

 っと……そういえば弾丸を使った魔法がまだ未完成だったね。


 あれの原理は前に説明した通り、銃の中で起こる一連の流れを私の手のひらで行うこと。

 凄いでしょ?でも、実は問題が二つある。

 

 一つは、銃口がないので真っ直ぐ飛ばない。

 まあそうだよね?って感じだけど、これでもかなり工夫して真っ直ぐ飛ぶようになった方だよ。今のところ、射程距離は三メートルくらい。うん、めっちゃ短いね。


 二つ目は、手のひらが抉れること。

 一言で言うなら、死ぬほど痛い。

 練習で初めて使った時は、あの威力を出したことがなかったのでちょっと痛い程度だった。

 普通に考えて、手のひらの上で小さな爆発を起こしているのだから当たり前と言えば当たり前……?

 馬鹿なのか?って思った人は今すぐ謝りなさい。

 それから炎を前に思考に耽っていると……。


「カァ…ァァァ…」


 これ、実はクロの欠伸です。うーん、可愛い。

 ふぁ……私も眠くなってきたし……ってどこで寝ようか。


「どうしよ……」


「ガルル……」


 クロが気持ちよさそうに眠るので、私はクロの翼を布団替わりにして横になる。

 ……意外と暖かくて気持ちいい。


「ここで寝てもいい?」


 クロの顔を見るともう眠っていた。


「……まあいっか」






 おはようございます。

 旅が始まってから一日目?いや、二日目かな?

 いやぁ……クロの翼の中は意外と寝心地が良くてね。明日からの眠る場所が決まって本当によかった。


「ガル……」


 ほら、クロも喜んでいるしウィン・ウィンの関係だね。


「よし、行こう!」


 目指すのは海の国。

 方角は間違っていないはずなんだけど、気になるのはその距離。元々飛んでいく予定だったけど……まあ急いで行く必要も無いし、ゆっくり旅を楽しんでいこう。

 クロの翼を治すのも課題の一つだから、絶対安静……ご飯のこともあるし、まあ無理しない程度にね。


「歩きながら朝ご飯もを探そ」


 え、ご飯くらい『生産魔法』で創れよって?

 ダメダメ、不測の事態が起きたらどうするのさ。


 あ……すぐ使えるようになるんだった。


 時々忘れてしまうけど私の魔力は普通の魔力と比べて回復速度が段違いらしい。

 これはギルマスから聞いた話だけど、普通は眠ってる間に周囲から魔力を吸い込んで体の中に貯めるのだとか。

 

 私が思うに、私は体の周りに魔力が張り付いているのでただそこに居るだけで魔力を回復できる。

 他にも、魔力が外にあることで魔力が切れても体に変化が起きないというのが便利な点だったりする。ちなみに、普通は体が動けなくなって倒れるらしい。

 ……私の体すっごい便利じゃない!?いや、私が凄いのかな?ははは!はは……は……。


「クロ……今までごめんね」


「?」


 何言ってんの私。

 暇だからといって、無理やり気分を上げるのは良くないらしい。


「なんでもない」


 もう考えるのもめんどくさいので、適当にパンを創り出して食べるよう。

 え?不測の事態が起きたらどうするのかって……?そんなのクロがいればだいたい何とかなるよ。


「ガルル」


 クロが獲物を見つけたらしい。


「え、どこ?……あ、いた!」


 いつの間にかクロが何を言っているのか分かってきた。まあ、感覚?これだけ長く暮らしてればね。

 さてと、見つけた獲物は群れを組んだゴブリンは合計六体。クロの胃袋にはちょっと心許ないけど、十分な数。


「行ってらっしゃい」


「ガル!」


 クロが走っていく姿を見ながらパンを齧る。


「ギャギャャ!」


 ゴブリンの悲鳴を聞きながら物を食べれるなんて……私ってもしかしてサイコパス気質なのかな。

 いやいや!まさか……人間の慣れって恐ろしい。


 クロは獲物を仕留め終え、食事を始めている。

 ここ最近で驚いたのが、クロは獲物を狩る時に毎回血で汚れるんだけど、最近は汚れない戦い方を覚えたらしい。

 爪や尻尾は可能な限り使わずに、牙やブレス、黒い霧だけで仕留めてくれる。

 竜って凶暴で暴走するイメージだったけど、冗談抜きで賢い。多分、やがて人間と同じかそれ以上になるかもしれない。


 お互い腹を膨らませ、再び歩き始める。


「……疲れた」


 そりゃそうだよね、一日中歩いてるんだから……。


「ガルル」


「え、乗せてくれるの?」


 大きく頷くクロ。

 実は翼が痛いのかも、と思って遠慮してたんだけど。本人がいいって言うなら大丈夫なのかな?


 よっこらせ。


 快適快適。

 というか、クロの背中に乗って森を歩くのは久しぶりなような気もする。

 ルステアで英雄扱いされた時くらいだろうか?ま、飛び回ってた時は乗ってたけどね。


「次は海の国ってところに行くんだよ。楽しみだね」


「?」


 んー、分かんないか……。


「海ってわかる?」


 首を横に振るクロ。

 なるほど、確かにこの世界なら海がなんなのか知らなくてもおかしくない。


「湖はわかる?」


 それは知っているのか、コクリと頷く。


「その何倍も大きくて、塩の味がするのが海」


 我ながら下手くそな説明だが、少しでもイメージができたのかクロの瞳がキラキラ輝いている……多分。


「楽しみだね」


「ガル!」

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