第31話・決着

 『生産魔法』とは、私が付けた名前。

 だからこそ、単純なことを見逃してしまっていた。

 

 『生産魔法』とは、物質以外も創り出せる。

 

 それを知ったのは、私が『土魔法』で相手を攻撃する魔法を練習した時だ。

 手のひらに『土魔法』で石を創り出し、敵に向けて発射するという内容だったんだけど、その時に発射するエネルギーはどこから生まれたのか?という疑問が生まれた。


 答えは、魔力だった。

 当然、『生産魔法』はエネルギーも創り出せるということになる。言い換えると、魔力の制限を考えなければ目の前に核レベルの爆風を創り出せるということ。


 それを、弾丸と共に小規模で発動する。


「弾丸ッ!」

 

 パァンッ!

 弾丸が音速を超えた音を放ち、オーガキングの頭を貫く。


「ガ……?」


 何が起きたのかすら理解する暇を与えず、キングも流石に力尽きたのか膝が崩れ落ちた。


「痛ッッッ……!」


 そんな爆風を手のひらの上で発動させると当然こうなる。

 皮膚が爛れ、抉れた手のひらは骨まで見えてしまっている。


「あ……た……」


 熱い熱い熱い……痛い……。

 だけど、終わった……!倒した……!

 確かに弾丸は獲物の脳天を貫いた。


「ガルァ……」


 しかし、それでもキングは倒れていなかった。

 風穴の空いた頭を抑えながら立ち上がり、呻き声を上げながら私の方に歩いて来る。

 え……?どうして……なんで立てるの……。


「逃げろォ!!!」


 巨大な化け物が私の眼前で拳を上げ、私は恐怖から目を瞑る。


「ギアアアアアアァァァァァ!!!」


 振り下ろされ……なかった。

 天空から彗星の如く現れた漆黒の竜がキングを踏み潰し、周囲に崩壊の音が響き渡る。


「クロ……!?」


 しかし、私の視界は砂埃で何一つとして見えない。

 聞こえるのは、クロの怒り狂った雄叫びだけ。

 

「クロ……?」


 音の聞こえる方に進むと、砂埃が晴れてくる。


「ぁ……」


 枯れた声の先には、動かなくなったオーガの王を何度も何度も踏み潰すクロの姿があった。

 踏み潰されたオーガにもはや原型はなく、潰れた血肉が周囲に飛び散る。


「クロ……もう……」


 周囲の冒険者はその光景を見て、震え上がっているのが分かった。


 絶対的な強者だった敵をいとも容易く踏み潰す化け物。

 でも、違う。

 クロは私のために怒ってくれているんだから、私までクロを恐ろしいと思ってはいけない。クロは……化け物じゃない。


「グルル……?」


「平気、ありがとう。……終わったよ」


 そう、終わったんだ。

 そう思って私は手のひらに目を落とす。

 あれ?私の手ってこんなに白かったっけ……?

 汗も凄い……体がだるい……寒い、寒くなってきた。


 怪我した右手を見ると、信じられない量の血が流れ続けていた。


「あれ……?」


 なんか、力が入らなくなった。







 

 


 私が目を覚まして最初に目に入ったのは、全く見知らぬ天井だった。


「ぁれ……?」


 すごく体がだるい。動きたくない。

 それでも、混雑した頭を整理させるため情報を集めようと上半身を起き上がらせる。


「ここは……?」


 この部屋はかなり豪華で、この世界の建物内とは思えなかった。

 そもそも何でこんなとこにいるのか、ひとつずつ思い出してみよう。私はオーガと戦って?それからクロに助けられて……。

 ハッとして怪我した筈の右手を見ると、傷が塞がっていた。うっすらと跡は残っているが、あの時のような痛みは無い。


「目が覚めましたか」


 声が聞こえた方向に顔を向けると、やはり全く知らない人。しかし、身に纏う衣服は……って、私の服も変わってる!?

 ほんの少しずつ記憶が鮮明になる。


「もう少しお休みになられますか?食事の用意もしております」


「クロはどこ!?ここはどこなの?」


「お連れの方もいらっしゃいます」


 ホッ……よかった。

 いやいや!良くないよ!ここは……私の傷を治してくれたんだろうけど……どれくらい眠ってた!?

 

「ガル?」


 ひょこっと扉の向こうから顔を覗かせるクロ。


「クロ……よかった……」


 私が手を覚ましたのを知って、ドタドタと部屋の中に入り私の顔を舐め回す。

 うぅ、臭い……けど、嬉しい。


「はは……よかった……生きてたよ……」


 倒れたあの瞬間、死が何よりも恐ろしく見えた。

 そして、自分でも長い間眠りについていたと分かるほどの脱力感と、痩せこけた体。

 うん、生きていたことに感謝しよう。


「元気そうで何よりです。食事に致しましょうか。お連れの方も一食も摂られていなかったので」


 クロ、そんな心配してくれてたんだ。


「ははは……クロ、行こう」


 案内された食堂も豪華で、料理はそれ以上に豪華だった。そして、食事をしながら案内してくれた執事?みたいな人の説明を受ける。


「貴女様方はルステアの英雄。最大限のおもてなしをするように仰せつかっております」


「ブフォッ……!」


 え、英雄……!?っていうか……仰せつかってる?誰に!?


「大丈夫ですか?」


「は、はい、すみません続けてください」


 吹き出した飲み物を拭き取り、話の続きをお願いする。


「この後は当主様が感謝を伝えたいと……」


「ブフォッ……!」


 当主……!?

 

「?」


「すみません……喉がちょっと……」


 苦し紛れの言い訳にしては、まあ悪くないはず。

 次いでにコホコホ、とわざとらしく誤魔化しておく。


「ああ、お察しします。続けますね」


 一通りの説明を受けて部屋に戻り、クロと二人っきりになってから考える。

 どうやら私は三日ほど眠っていたらしい。原因は……多分、出血多量。

 傷が塞がっているのは、ヴィルティーユさんがクロの角から作った治癒のポーションのおかげなのだとか。


「ありがとね」


「ガル!」


 ヴィルティーユさんに感謝を伝えるのは置いておいて、次は私たちが英雄と呼ばれていることについて。

 まあ、そのままの意味でルステアを救ったのは私……と言ってもほとんどがクロの手柄なんだけどね。

 それで英雄と呼ばれているらしい。


 そして、最後にここが当主……いわゆる貴族の屋敷ということ。


「逃げよう、クロ」


 ルステアの貴族に関して良い噂は一切聞かない。というか、聞いてもいないのに悪い噂だけが入ってくる。

 豚のように肥え、自分の利益と欲望だけを追い求めているクズだと聞いた事がある。十中八九マトモじゃない。


「それに……」


 自身の服を見るとヒラヒラとした服で、体格からしたらまだ理解はできるが年齢的にはこんな服は着れたもんじゃない。

 私はひとつの予想に辿り着き、急いで窓を開けてクロと逃げようとする。


「失礼します、着替えの……おや?」


 しまったぁぁぁ……!急げッ!


 ガチャガチャ。


「あ……」

 

 終わった。

 てか何で窓に鍵穴が付いて……これ監禁じゃないんですか……?


「こちらに置いておきますよ。……ああ、そういえば廊下に窓の鍵を落としてしまったような気が……探さなければ……」


 そう言って、執事は部屋を出ていく。


「え……?」


 追うように部屋を出ると、扉の前に小さな鍵が落ちていた。

 助けてくれた……のかな?最悪クロに壊して貰えばよかったんだけど……ありがとう。


「訳が分からないけど……行こう、クロ」


 大きな窓はクロが飛び立つのにも十分なサイズで、巨大な館から脱出する。


「よかった……でも、ここは?クロはどこかわかる?」


 コクリと自信ありげに頷くクロ。流石クロさんです。


「みんなの所に行こう。迷惑かけちゃったから」


 実は、それ以外にもみんなに褒めて貰いたいという気持ちがあった。

 あの戦いでは、私も頑張ったのだと。みんなと戦ったのだと認めて欲しい。

 幼稚な考えだと思うけど、この世界の住民ではない私は勝手に疎外感を感じていたから。


 だから、生きていてよかったって言って欲しい。


「ありがと、クロ」

 

 もしかしたら、クロだけは最初から認めてくれていたのかもしれない。

 そう考えると、胸の奥が暖かくなってきた。


「ガル」

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