第29話・合流
ギルマスをクロに会わせるまでは良かった。
しかし、門を通らせて貰えないというのが問題だった。
「止まれ!それ以上近付くな!」
門の方向からそんな声が聞こえてくる。
どうしよう、凄い警戒してる。
いや、普通に考えて竜が突然現れたのに逃げるという選択肢を取らなかった事自体、褒められるべきなのかもしれない。
「任せろ」
するとギルマスが騎士達の方に進んでいき、何かを話している。
そういえばギルマスって偉い人だったもんね。偉い人のイメージとは全然違ったから忘れてたよ。
「ほら、いいぞ」
「え、大丈夫なの?」
「おう。騎士の了承を得たということは法律的に問題がないってことだからな」
「はぇ〜……」
「そもそもテイマーがモンスターを連れ歩くことは問題ないからな。気にする事はない」
「へぇ、ありがとう」
こうしてルステアの中に入ることに成功した。
しかし、当然の如く中は大混乱に陥った。
クロを見た人は逃げ出し、悲鳴を上げてそれが連なり更なる混乱を生み出していく。まさに地獄絵図だった。
「……アイガサ殿。竜に乗れるか?その方がアピールになるかもしれん」
「うん……わかった。そうしよう」
でも、やっぱり混乱は収まらない。
「時間が経てば収まるさ。ほら、あそこの家から竜を見てるやつもいるだろ?無害だと理解したら変わってくれる」
ギルマスの視線の先には微かに開かれた窓があったけど、私にはそこから覗いてるって分からなかった。ギルマスって凄いんだね。
「組合に行こう。中庭なら空いてるから泊められる」
それは非常に助かる。
クロは大きすぎるからどこで休むか決めてなかったんだよね。
「よし、飛べるか?先に中庭に行っといてくれ」
「わかった」
ということで飛び立ち、冒険者組合の近くに着くと広い中庭が見えてくる。
「クロ、あそこに降りて」
着地が上手になったクロに感心しつつも、周囲の様子を見る。
ギルマスは大丈夫だと言ってくれてたけど、冒険者達に良いイメージが少ない私は警戒してしまう。
「少し待ってようか」
それからしばらく待つと、噂が広まったのか深夜だというのに冒険者らが遠くからクロを見ている。
「大丈夫かなこれ……」
そんな心配を他所にギルマスが帰ってきた。
「おう、待たせたな。冒険者達には伝えておいたから早朝には作戦会議ができる。今日は組合の部屋を使って休んでくれ」
「ええ、わかった」
クロを中庭に残して大丈夫かな、と思って振り返るともう飽きたのかスヤスヤと眠っていた。この図太さは誰に似てしまったのだろうか。
私は組合の一室に案内され、元々仮眠室だったのかベットも用意されていて一夜を過ごすには十分だった。
そして翌朝。
朝早くに起こされ、作戦会議とやらを行う為広い部屋に案内された。
ドアノブを捻り、開いたドアの先には異様な空気が流れていた。
気まずい空気感とは全く別物で、張り詰めたような緊張感がヒシヒシと伝わってくる。
中は冒険者で埋め尽くされ、大きなテーブルに座っているのはギルマスと他二人。内一人は私を助けてくれた黒髪の女冒険者だ。
「本命が来たな?」
ギルマスがそう言って私に座るよう顎をしゃくる。
「さて、説明した通り彼女が竜の使い手アイガサ殿だ」
冒険者らの中からおぉ〜!という声が上がった。
使い手……っていうか家族みたいなものなんだけど、危険がないって意味ではそっちの方がいいかもしれない。
「さて、本題に移る前に自己紹介を……雑魚はともかく金等級のリーダー二人は説明しておこう」
「えー!そりゃないっすよギルマス〜!」
周囲の冒険者から笑い声が上がる中、ギルマスは表情を変えず二人を紹介してくれる。
「彼女はシェナ。一度会ったことあるな?戦闘能力は当然、相手の嘘を暴ける能力を持っている」
私の中で点と点が繋がった。
ギルマスと初めて会った時同席していた理由と、その話の内容はそういうことだったのね。
要するに、私が嘘をついていないか……嘘発見器的な役割だったんだ。
「ども〜、久しぶりだね」
「あ、どうも……」
会釈するとギルマスがどんどん話を進めていく。
「そんで彼がエル。んぁ〜……えっとな、性格が悪い!」
「んな自己紹介あるかよ」
悪態をつきながらもルステアに残ってることを見るに、根は悪い人ではないのかもしれない。
「ったく、とっとと別の国に逃げ込めばよかった」
うーん、残念。
「さて、待たせたなお前ら。本題に入るぞ」
緩んだ空気は瞬時に引き締まり、誰一人として口を挟むことなくギルマスが話始める。
「今回の件の詳細は皆知っているな?知らん奴が ……不安な奴居たら手を挙げろ」
すると、数人の冒険者が手を挙げた。
うん、素直だね。確かに理解していないのに話に入るのは危険だから、それが正しいんだけど。
「よし、今回は山頂に住む竜が飯を求めてモンスターの住処を荒らし回っている。故に、最近モンスターの目撃や被害が多いって訳だ。そして……その中でも厄介なのがオーガの巣を竜が襲ったと予想される点だ」
その一言で、冒険者の中から不穏な空気が流れる。
しかし、私には全く意味が分からなかった。
え、巣が襲われたの?目撃情報が多いとか聞いてないって……。
「オーガの統率が取られていない以上、キングは竜に殺されてると考えていい。となると、残党がこのままルステアに流れ込んでくることは間違いない。目撃情報からして……五日後には村を襲い始めるだろう」
……要するに敵はオーガってことかな?
「さて、これからの作戦を説明する。戦闘の主力はアイガサ殿の操る竜だが、問題は敵の索敵。いくら竜とはいえ広範囲すぎる……そこでお前らの出番だ」
「俺らは敵を見つける。それでいいってことか」
エルさんが顎に手を添えながらそう呟く。
「お前らの仕事は村で待機し、最悪の場合オーガの討伐。俺が溜め込んだ金で用意した魔道具で通信する」
俺が、という部分を強調しながら話を続ける。
「アイガサ殿とエルのチームはルステアで待機。シェナ達は村に向かう冒険者の統率を頼む」
「俺は留守番かよ……」
舌打ちをしながら足を組むエルさん。
「最悪の場合を考えてアイガサ殿の護衛という意味でも、間違いないだろう?」
あ、私の為ってこと?でもそこに戦力を割くのはどうなのかな。
「子守りかよ!ってこたあ……コイツ竜が居なきゃ何もできないのか?」
呆れたようにエルさんが私を見る。
しかし、確かにその通りで反論することができない。
私はクロに頼りきってばかりで、肝心な時には何もできないのだから。
「そんな言い方するな、とにかく文句は後で聞く。決行は明日、さて、細かい作戦に移るぞ」
こうして作戦会議は日が暮れ始めるまで続いた。
「ギルマス」
会議が終わり、各自解散し始めた頃に私はギルマスに話しかける。
「アイガサ殿か」
「その殿ってやめて?ちょっと居心地が悪いんだけど……」
殿って言われるのはなんか小っ恥ずかしいし。
「わかった。アイガサでいいか?」
「うん」
そっちの方がラフで私も話しやすい。
「それで……どうした?」
「私って全魔法の適性があるんだよね」
「ああ、そうだな」
さっき言われた通り、私はクロが居ないと足でまといになってしまう。だから……。
「ちょっと、試したい事があるんだけど……聞いてもいいかな」
「おう、少しだけならな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます