第28話・対面

 神殿までの道に長い階段があり、私は永遠とその階段を登り続けていた。

 途中まで階段の数を数えていたけど、五百段を超えてからは疲れて数える所ではなかった。


「ほら、もうすぐだ」


 隣を歩くギルマスが希望の言葉を放つ。

 やった!そう思って顔を上げるが……まだ半分を進んでいなかった。ちくしょー!


「クロを連れてくれば良かった……」


 そうすればこんな階段ひとっ飛びなのに……くそう。


「クロってその竜の事だよな?」


「そうよ……」


「なんで連れてこなかったんだ?別にテイマーなら問題ないだろ?」


「そりゃ、冒険者とか騎士と敵対されたくないし」


「……敵対しないだろ。人間に従う竜とわざわざ敵対するやつがいるか?」


「……偉い人とかの目に留まったら嫌だなって」


「大丈夫だろ……そんな頭の悪いやつ居るか?ゴブリンですらそんなこと分かってんだろ。まあ、用心に越したことはないないだろうが」


 やっぱりそうだよね。絶対なんて言葉は無いし……。


「しかし、隠したかったんだろ?申し訳ないと思ってる」


 ……なんだかんだギルマスもいい人なんだろうな。


「いいよ、私も踏ん切りがついたし。その代わり……」


 クロをずっとこのまま隠しているのは不可能だと思っていた。だからこそ、今回の件で区切りが付いたと考えれば悪いことばかりじゃない。


「その代わり?なんだ」


「おぶって」


 もう、これ以上歩けない。


「……」


 ということでギルマスの背中……ではなくて何故か肩に座っている。

 うん、子供か?私は。


「おぶった方が良くない?」


 まるで父親?に遊んでもらっている子供のようだ。

 ちなみに、本当に片手で私を持ち上げている。うん、ギルマスって凄いね。


「バカ!背中だと胸が当たんだろ!」


「え、どゆこと?」


「女が男の背中に乗ろうとするな!」


 うーん、話の意味が良くわからない。

 特に私の胸は女性にしては……ううん、そんなことないけど。

 どうやら、この世界の常識的には女性をおんぶするのはありえないらしい。まあ、そういうものなのかな?


「疲れないの?」


「これくらいなら全然問題ない。これでも、一人でオーガを討伐したこともあるんだからな」


 それは……凄いね。

 確かにクロであれば簡単に倒せるが、実際にその死体を見た時は恐怖で震え上がったほど恐ろしいものだった。

 張り裂けんばかりの筋肉であの巨体。しかし、このギルマスなら勝てそうと思えてしまうのが恐ろしい。


「着いたぞ。ほら降りろ」


 タンッと着地して神殿を見る。

 おぉー……これ以上大きい建物はルステアじゃ見た事がないね。

 例えるなら元の世界の学校くらいの大きさで、そこまで大きい建物はは久しぶりに見たよ。


「入るぞ」


 神殿の中に入るとかなり混んでいたが、ギルマスが歩くと自然と道が空いていく。

 まるで私が権力を持ったような錯覚に……冗談だよ?

 コホン。そのまま進んでいくと、白い服を着た人が案内してくれる。


「よし、もう着くぞ」


 大きな部屋に案内され、真ん中には神父?のような人が本を持って待っている。


「ようこそ。神殿へ」


「ああ、御託はいいからアイガサ殿の魔法適正を調べてくれ」


 え、そんなこと言って大丈夫?怒ったりしない?


「釣れないですね……まあいいですけど」


 軽っ!?


「ここに血液を垂らしてください」


 そう言って、神々しい機械のような何かを私の前に置いてナイフを渡してくる。


「……え?血液?」


 聞いてないんだけど……自分で自分を切るってこと?


「ん?おう。指を切ればいいだろ?」


「……痛くない?」


「……はぁ。貸してみろ」


 ブラウスにナイフを渡すと、指先をピシッと切られる。


「いたっ……!」


 ポタッと血液が垂れる。


「これでよし!」


 よし!じゃなーい!

 酷い……けど、一思いにやってくれて助かったかも。


「ありがと……」


「気にすんな」


「黙って。ほら、見えてきました」


 血液を垂らした機械が僅かに光を帯びていく。


「これは……」


 機械には文字が幾つも浮かび上がる。

 うん、読めないけどね。


「なん……まじか……?」


「え、なに?なんて書いてあるの?」


「全属性適性……」


 おお……?もしかして……チート開花!?


「魔力適性ゼロ……!?」


 あ……。


「なんだこれ……壊れてんじゃねえのか?」


「そんな筈ありません。先程まで使っていたのですから」


「多分……合ってます。心当たりがあるので……」


 二人がジッと見てくる。


「ちょっと、試したいことが……宜しいでしょうか?」


「あ、はい」


 話を聞くと、どうやら数値化できないだけで魔力があるのでは、という内容だった。

 それを試すため、最も魔力消費の少ない魔法を教えて貰えるのだとか。


「『ライト』という魔法です。手を貸してください」


 言われるがままに差し出し、お互いの手を触れる。


「いきますよ。『ライト』」


 すると私の指先にほんの少しだけ光が灯った。


「おぉ……」


「なんと……」


 え、凄いことなの?


「『光魔法』の適正……となるとこれは間違いないのか」


「ええ、そうでしょうね。このことは秘密にしておきましょう」


「ああ、賛成だ」


「言ったらまずい感じなの……?」


「念には念をな。実験体にはなりたくねぇだろ?」


「絶対誰にも言わないで下さい……」


 さらに念を押し、神殿を出た頃には日が暮れていた。

 いやぁ!自分の才能が恐ろしいね!……はい、すみません気を付けます。


「そろそろクロが来ると思うから」


 まだ早いけど、この階段を降りるのにも時間かかるし今から向かうくらいが丁度良さそう。


「ああ……ついにご対面か……」


 ギルマスが深呼吸をして、階段を下っていく。


「信じてなかったんじゃないの?」


「いや、半信半疑だったがさっきの適性を見るとな……」


 なるほど、現実味を帯びてきたってこと?ふふ、どれくらい驚くかな。


「行こう」


 階段を下って行くと、降りた頃には真っ暗だった。

 当然、私が疲れて遅れたのが原因なんだけどね。


「どこで合流するんだ?」


「ルステアを出て少しした所……崖でクロを隠せる場所だよ」


「なるほど……随分と慎重だったんだな」


「まあね」


 門を出てクロと別れた場所に向かい、左右に小さな崖で囲まれた道に到着する。


「いるのか……?どこだ……?」


「うーん、まだ来てないのかな?」


 すると、ドスンッ!と私たちの後ろに着地する。


「うぉッ!?」


 どうやら驚かせるために隠れていたらしい。

 私はクロに駆け寄り、襲わないように制止する。


「クロ、彼は私の友達。ギルマス……ブラウスさんっていうの。ギルマス、こちらクロ」


「お……あ……ああ……」


「ガルルルル……」


 うん、多分……まあ大丈夫。

 リアムから聞いた話だと、クロは基本懐かないらしい。それでも子供たちには優しいんだよね。ちなみに、仲がいいのは私とシエナだけなのだとか。


「ほ、ほんと…だったのか……りゅ、りゅう……が……?」


 驚かせてやろうとは思ってたけど、これはやり過ぎだったかも。


「大丈夫……?」


「は、はは。これなら勝てる。ルステアを救えるぞ……」


 ……まあ、喜んで貰えてなによりです。


「ギルマス落ち着いて。このままルステアに連れて行って大丈夫だと思う?」


 それを聞いてクロもピンと来たのか、首をクルクルと傾げて答えを待っている。


「本当に襲わないのなら……大丈夫だと思う。英雄譚にも龍を操る二人の英雄の話があるくらいだからな……」


「大丈夫だって。良かったねクロ」


 ぴょんぴょんと飛び回るクロを無視し、尻もち着いたままのギルマスに手を差し伸べる。


「す、すまん」


 視線はクロに向けたまま礼を口にするギルマス。


「いいえ。それじゃ、行きますか」


「お、おう……」


 クロの様子を見ながらビクビクとしたギルマスを連れてルステアに戻ることに決めた。

 そして、門に近付こうとすると……。


「と、止まれぇぇぇええ!それ以上近付くなぁぁぁ!」


 門の方からそんな声が聞こえてきた。


「……やばいかも」

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