第27話・神殿

「これから話すことは他言無用で頼む」


「?分かりました」


 どうやら私に質問してたのには裏があるらしい。


「この時期になると竜が山を下って獲物を探すんだ。最近、そんな竜に住処を追いやられルステア付近に大量のモンスターが姿を見せるようになった。主にオーガだな」


 竜って山の上に住んでるんだね。

 一先ず、それは置いておこう。

 確かに最近モンスターの数は増えていて気になっていたけど、そういうことなら納得はできる。しかし、なぜそれが私に関係するのかが分からない。


「あの大量の素材も大量発生による物だと予想してる」


 それくらいは言って平気だと思い、私は小さく頷く。


「よし、今のルステアには戦力が足りない。もし、あんたにモンスターを……オーガを殺す能力があるなら手を貸して欲しい」


 それが目的だったという。

 しかし、私とて簡単にクロを売り渡す訳にはいかない。


「うーん……」


 正直な所、クロのご飯の為にモンスターを狩ることは必須事項なので断る理由はない。

 村で過ごしてるだけであの量の素材だったし、意識的に狩ればかなり減らせると思う。


「あ……」


 やば、忘れてた。


「どうした?」


「すみません、これを渡すよう言われてたんですけど」


 慌てて袋から取り出すのは、クロが持ち帰って来たモンスターの角だ。


「これは?」


「フェルローラ村の近くにいたオーガの角です」


「ちょっと待って……これがオーガの角?」


 無関心だった女冒険者も角をジロジロと見つめ、触ったりクルクルひっくり返したりと興味津々である。


「確かリアム……村長さんがオーガの巣があったかもしれないって」


「オーガの巣があった……かも?」


 しまった。

 慌てて口を塞ぐが、ギルマスの目は完全に私という獲物を捉えたらしい。


「不思議だな……オーガの巣のボスの角がここにあるのに、あったかもだと……?」


 いや、大丈夫。まだ破綻してない。

 クロの返り血からしてオーガの巣を崩壊させたのだと予想してたから、ついボロが出てしまった。


「その角の持ち主だけしか見てませんから」


「ほう……?オーガってのはゴブリンと違って強い奴ほどよく群れるんだ。こんなの……その辺の村では常識だ」


 あ、詰んだ?


「さあ……?」


「いや、構わない。ただ、この角の持ち主を倒せる力があるってだけで十分さ」


 それはバレても仕方ないか、誤魔化せそうにないし。


「どうしても話すつもりは無いと?」


「はい。知られたくないので」


「……ふむ」


「私は出ようか?ギルマス」


「ああ、頼む」


 女冒険者が部屋を出る。

 二人だけになった部屋で、ギルマスが何度か迷った素振りを見せて口を開く。


「頼む、力を貸してほしい。この通りだ」


 ギルマスはおでこが机に付きそうなほど深く頭を下げた。


「え……?」


 予想外の反応すぎて思わず声に出してしまった。


「実の所、このルステアにモンスターを跳ね返せるだけの戦力は無い。それどころか対抗することすらおこがましいレベルだ」


「……どういうこと?」


 戦力という点では、冒険者や騎士が居るんじゃないだろうか。


「大量発生に勘づいた有能な冒険者のほとんどがルステアを出ていった。そして、騎士団は貴族の護衛が最優先……その頃にはルステアにどんな被害が出てるか、考えるまでもない」


「……」


 ……これは酷い。

 要するに、八方塞がりってことでしょ?頼りの戦力もなし、しかしそこに私が現れた。

 そう考えると期待したくなる気持ちも理解できる。


「今は可能な限り情報が流れるのを遅らせ、少しでも貴族が逃げるのを遅れさせている。まあ、多分バレるけどな」


「それじゃあ一般市民は……」


「まぁ……最善を尽くすつもりだ」


 要するに、運が良ければ助かるということだろう。


「はぁ……分かっている。ただ、あの量のモンスターを狩れるアンタが居れば話は変わる。俺だって市民を犠牲にしたい訳じゃない」


 もしかして、クロのことを隠してる場合じゃないかもしれない。今までの話が本当なら、このルステアが崩壊の危機ということになる。


「……わかった」


「本当か!?」


「相手と味方の戦力について教えて」


 クロならばモンスターが何体居ても倒してくれる。それでも、味方の戦力がどれくらいなのか知っておきたい。


「冒険者が金等級チーム二つ、銀等級が約二十だ。それ未満は役に立たん……人数にしたら六十と言った所か。敵の数は百前後……全く歯が立たない戦力差だ」


「え……?勝てるの?それ」


 クロが簡単に倒しているので分かりにくいが、出会ったモンスターのほとんどが人間の倍以上の大きさだ。どう考えても勝てる相手じゃない。


「だからアンタに頼み込んでるんだ……それで、アンタなら勝てるか?」


「うーん……多分ね。私じゃないけど……」


「……どういう意味だ?」


 クロのことを伝えるか、伝えないか。

 しかし、もはや私に断るという選択肢は存在しない。


「私は、テイマーだから」


 嘘……ではないよね?一応モンスターと一緒な訳だし。


「テイマーだったのか?して、そのモンスターは……?」


 ルステアを守れば、クロという存在も受け入れてもらえるだろうか。

 それなら、今回の件はある意味チャンスとも取れる。


「りゅ……」


 竜と言いかけた所でコンコンコン、とノックをされる。


「失礼します、ギルマス。ヴィルティーユさんがギルマスに用があると……」


「……ちょっと待って貰ってくれないか?」


「いえ、その……帰るぞ、と……」


「はぁ……アイガサ……殿?少し待ってもらえるか?」


「ヴィルティーユさんとは知り合いなので、呼んで貰って大丈夫ですよ」


「そうなのか……わかった。通してくれ」


 しばらくすると、ヴィルティーユさんが中に入ってくる。


「ブラウス。老人をあんまり待たせるもんじゃないよ」


「すみません……ようやく光が見えたもので」


「ああ、その救世主とやらは見つかったかい?よかったじゃないか」


「ええ……まあ。この人です」


 ギルマスに紹介され、私は軽く手を振って挨拶する。


「お久しぶりです、ヴィルティ……えっと、バルさん」


 バルさんの娘さんもヴィルティーユだから、苗字じゃ呼べないんだよね。


「なんでアイガサが……?」


 混乱しているヴィルティーユさんに状況を説明し、改めて私がテイマーだという話に戻る。


「私は竜と暮らしてます」


 はぁ?と二人が声に出し、やがて頭のおかしい子を見るような瞳で見てくる。


「そんな目で見ないで……本当だから……」


「いやぁ……だけどな……」


「そうだよアイガサ、嘘は良くないって習わなかったかい?」


 うん、全く信用されていなかった。


「今晩会いに行くので、一緒に来てください」


「そこまで言うなら……信用するが……本当か?」


 信用するといいつつも、半信半疑といった様子だった。

 正直に言ったのにこんな扱いを受けるのは納得がいかない。後でクロに会わせて驚かせてやろう。


「夜に来るから安心して」


「私も今度会わせてもらえるかい?竜の素材を使ったポーションを作るのが夢なんだよ」


「い、いやそれはクロの許可がないと……」


 ポーション一回分くらいなら多分大丈夫……かな?


「クロ……?というかヴィルティーユさん。神殿に連れていきたいと言っていたのはアイガサ殿の事だったんですか?」


「ああ!そうだったそうだった。竜の事は後で聞くとして、仕事をしたんだから付き合ってもらうよ」


「ええ、今回の戦いで使うので本当に感謝してますよ……今からでも大丈夫ですか?アイガサ殿も」


「私は大丈夫だけど……」


「よし、それじゃ頼むよ。老人には神殿の階段が苦しくてね」


「分かりました。それじゃ行くか」


 こうしてやっと冒険者組合から出て、神殿と呼ばれる場所うへ向かうことになった。

 ヴィルティーユさん曰く、神殿というのは小さい頃に自身の魔法の適性について調べてもらえるのだとか。要するに、私が魔法を使えるかどうかが分かるってこと。


 『生産魔法』だけでも十分だけど、やっぱり炎の玉!とか水の刃!とかやってみたいからね。


「あそこに見えるのが神殿だ」


 ブラウスの視線の先には、長い階段の先にある大きな建物があった。


「へ……?」


 なにこの階段……なっが。

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