第25話・騎士さん
リアムと共にクロを待ってから、約数時間ほど経過したと思う。ここまで時間が経っても帰って来ないのは初めてらしく、不穏な空気が流れ続けていた。
「大丈夫かな……」
不安になってつい言葉に出してしまうと、その不安がさらに大きくなっていくのが分かる。
そんな私を心配してか、リアムが口を開いた。
「竜ってのは最強の生物……そう簡単には負けない」
「……うん」
そんな会話を繰り返し、不安を誤魔化していると森の方からクロが戻ってきた。
「クロ!?どうしたのその……」
真っ赤に染っていた。
しかし、怪我はないのか本人は気にしていない様子で狩ったモンスターの死体を持ち帰ってきた。
「何があったんだ……?これは返り血か……」
「グルルル」
ポイッと口に咥えたモンスターを広場に投げる。
「こいつぁ……ただのオーガじゃねぇな」
空を飛んでる時に見かけたモンスターと、かなり似てる風貌だった。
よく見かけたモンスターはオーガだったってことだね。確かに鋭い角が生えてて、地獄から来た鬼って感じの見た目だし。
「それに、この血の量……もしかしてオーガの巣でもあったのか……となると不味いな。組合に相談するべきか」
リアムは私を置いて一人の世界に入り込んでしまった。
しかし、今はそんなことよりもやらなければならないことがある。
「クロ、水浴びに行こう」
「ガル!」
血の匂いが周囲に充満し、このままでは村の人達に迷惑になっちゃうからね。
という訳でクロの体に着いた血を洗い流し終えると、リアムが話しかけてきた。
「ヒノ、ちょっといいか?」
「ん?なに?」
リアムがこんな言い方をするのは珍しい。重要な話なのかな。
「今夜ルステアに行ってくれないか?このことを冒険者組合に報告して欲しいんだ」
「え、私が?」
「ああ。俺が行きたいんだが……村長としての仕事がまだ残ってんだ。頼む!この通りだ!」
両手を合わせて頭を下げるリアム。別にそこまでする必要もないんだけど、それほど重要な事なのかな。
「いいよ?あの素材も一緒に売れるからね。でも一人で持っていけるかな……」
一つなら持てそうだけど、それが三つとなれば重労働だ。
「真夜中ならクロも見つからないと思う。それでルステアの入口まで行けば騎士が手伝ってくれるはずだ」
「そんなことまで手伝ってくれるの……?」
そこまでしたら、もはやボランティア活動ではないだろうか。
「ああ。頼んでいいか?」
「うん、大丈夫。ならもう少し暗くなってから……夜でも開いてるの?」
「冒険者組合は常に開いてるぞ。深夜に帰ってくる冒険者もほんの少しはいるからな。そいつらにも気を付けてくれ」
「わかった」
確かに、深夜に帰ってきて組合が開いてなかったら悲しいよね。それに、不測の事態が起きて帰還が遅れた時のほとんどが夜だろうし。
「それとコレも」
そう言ってリアムは私の手のサイズ程ある角を渡してくる。
「さっきのオーガの角だ。それで理解して貰えると思う」
「わかった。クロ、行ける?」
コクリと頷くクロ。
もしかしたら私たちの会話の内容を理解していたのかもしれない。リアムの言葉が分かるという意味ではなくて、私の言葉から何をするべきか考えていたとか……賢すぎるね。
クロは隅に置いてある素材の入った袋を付けた鞍を自分で着け、乗りやすい体勢になってくれたのでその上に乗る。
「飛んでいいよ」
この鞍のサイズもかなり大きくなった為、私一人では持てなくなったので自分で着けられるように改造した。
クロが羽ばたき、空中を駆ける。
「前より速くなったね」
今思えば大きくなったおかげか、かなり速くなったような気がする。ただ単に久しぶり乗ったからかもしれないけど。
「グルルル」
やがてルステアに付近に到着し、鞍に括り付けられた袋を取り外していく。
「おもッ……!」
多分一袋十キロくらいはある……キッツ……。
「ガルル……?」
「いや、大丈夫。一人で持っていくよ。明日の夜またここで落ち合おう」
そうしてクロと別れ、ルステアの入口まで二往復と片道を終えた頃には私の足はプルプルと震えていた。
「はぁ、はぁ……すみませーん」
門は開いていたけど、勝手に通ってしまうのは問題になりそうだからやめた。
「ちっ……こんな時間に。って女……の子?」
門の中から出てきたのは全身を甲冑で包み込んだ騎士。
この街の騎士は甲冑を着ているらしく、一目でわかる分治安維持にも貢献してそうだね。
「すみません、通りたいんですけど……」
「あ、ああ……それにしても随分な荷物だな……おいハルク!手伝ってやれ!」
背後に大声を出すと、少ししてから同じような甲冑を着た人が出てくる。
「はぁ〜、この時間なら休めると思ったのに……ったく」
随分と怖い人が出てきた。
「奥に荷台があったろ?それで運んでやれ。行先は……」
「冒険者組合です」
「そんなに遠くねぇだろ。ほら、行けって」
「へいへい、隊長さんは人使いが荒いんだよなぁ……はぁ」
ボトボトと荷台を取りに行った騎士さん。
「奴は仕事だけはするから心配するな、こき使ってくれ。っと、税は払って貰うぞ」
「あ、はいどうぞ」
銅貨数枚を渡した頃、気だるそうな騎士さんが荷台を運んでくる。
「ふぅ……よし、ここに乗せてくれ」
すると隊長騎士さんがバシッと叩く。
「お前が乗せんだよ!」
「えぇ〜……」
こうして、気だるそうな騎士さんと冒険者組合まで行く事になった。
しかし、道中何も話さないというのは気まずいので話しかけてみよう。
「すみません、迷惑掛けちゃって」
「ったく、こんな仕事選ばなきゃよかったぜ。ホント」
うん、気まずい……。
「すみません……」
「まあ、金は貰ってるから相応分は働かないといけねぇんだよなぁ……」
うーん、悪い人ではないみたい。口は悪いけど。
「ほら、もう着くぞ」
「あ、ありがとうございました」
「気にするな、中まで運んだら俺は戻るからな」
「はい、分かりました」
こうして冒険者組合の中に入ると前回来た頃に比べて人は少なく、強いて言えば酒を飲んでいる冒険者が数人いる程度だった。
前回同様の換金して貰えるカウンターに行くと、知らない顔の受付嬢が対応してくれる。
「換金ですね。えっと……」
すると、後ろから来た騎士さんがドカンッ!と三つの袋をカウンターに置く。
「はぁ、はぁ、お前……気が弱いと思ったら意外と図太いな……」
「褒めても何も出ませんよ」
「褒めてねぇよ!普通一袋くらい持つだろうが」
実の所はルステアの入口で限界だったみたいで、腕が持ち上がらなかったんだけどね。騎士さんが居てくれてよかった。
「はぁ……じゃあ俺は帰るからな」
「はい、ありがとうございました」
お礼を言いながらお辞儀すると、仕事熱心な騎士さんは手を振って応えてくれる。
カウンターの受付嬢に向き直ると、袋をみて固まっていた。
「あの……?」
「……あ、ハイ?」
「換金を……」
「あ、ハイ……お掛けになっていてクダサイ」
大丈夫かな……いくらなんでも多すぎた?
心配しつつも言われた通り組合の椅子に座る。
なんかカウンターの奥が慌ただしくなってきた……前とは比較にならないほど。っていうか何か指さされてる。
それからほんの少し待っていると、受付嬢の一人が話しかけてくる。
「すみません……換金に時間が掛かるので日中にお越し頂ければ……」
まあ、こうなるんじゃないかと思ってました。
「はい、分かりました」
時間も時間だし、今日のところは一旦女将さんのところでお世話になろう。うーん……まだ起きてるかな?
私は騒々しい冒険者組合を後に、宿に向かうことにした。
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