第24話・日常
久しぶりに我が家に帰ると、まるで旅行から帰ってきたかのような安心感と言い表せない寂しさがやってくる。
まあ、それほどルステアでの生活が楽しかったってことだから悪いことじゃないんだよね。
荷物を家の中に置き、外で待つクロの方に向かう。
「クロ、なんか久しぶりだね」
相変わらず甘えん坊なクロは体を擦り付けてくる。
「ちょ、ちょっと待って待って!」
以前ならばそれでも大丈夫だった。
そう、以前なら。
クロが私の体に軽く触れただけで足元がぐらつき、簡単に転んでしまう。
「グルルル……?」
前まではクロも手加減してくれたからか、そんなことは無かった筈なのに……。
改めてクロを見ると、全長六メートル位だったはずの体は八メートル近くある。
たった一週間でこの成長……竜の成長速度を舐めてたかもしれない……。
「大きくなったね、村では大丈夫だった?」
「ガル」
自慢げに顔を上げるクロ。どうやら何も問題はなかったらしい。いやー迷惑かけてたらどうしよう、と思ってたから凄く嬉しい。
「偉いね」
物欲しそうな顔をしていたクロの頭を撫でておく。
クロの方から甘えてくると私が倒れちゃうからね。というか私はクロと家族……みたいな関係のつもりなんだけど、クロからしたら私は親みたいな感じなのかな。
甘えてくる感じとか、母親に甘える子供のような感じみも見える。
「クロって私をどう思ってる?」
「?」
首を傾げるクロ。
「分かんないか」
クロにも当然クロの家族が居て、私がクロに家族だと思われたいという想いはおこがましいのかもしれない。
クロにとって、私は必要な存在かと言われるとそうは思わない。それでも、私はクロと一緒に過ごしたい。
「クロ……私は一緒にいて迷惑にならない?」
「グルルル」
クロはその場で寝っ転がり、何も考えていないのか目を瞑って眠りにつく。
実際らクロはそんなこと気にもしてないのかもね。
「明日は村に行こうか。今日は鞍を作り直そう」
大きくなったクロは鞍のサイズが合っておらず、少し窮屈そうだった。
「ほら、早く体起こして」
「ガル」
早速創り始める。
何度も創っていたおかげで失敗することなく、今のサイズにあった鞍を完成させられた。
いやぁ、パッと見じゃ分からないくらい大きくなってて驚いた。特に胴体なんかはガッチリと太くなって、細かい調整が大変だったよ……。
「一年後とかにはどうなってるんだろう……大丈夫かな」
今でも十分大きいのに、このままのペースで成長したらと思うと……ま、その時はその時か。
そして、その日の夜は久しぶりのお風呂に入って次の日を迎える。
そして、夜が明ける。
「おはよー……クロ……ってなんか懐かしいねソレ」
欠伸しながら外に出ると、早速クロが調達してきたご飯を食べている。
「随分と食べ……まあ、体も大きくなったからね」
以前はゴブリン五体程度だったのが、今ではそれより大きいモンスター数体。
うん、竜だもんね。いつかこうなるとは思ってたよ。
「私も準備するからゆっくりでいいよ」
『生産魔法』で創ったパンを食べ、髪の毛を梳かし、外着に着替えて準備完了!
外に出るとクロも食べ終えたみたいで、満足気に座っている。骨ひとつ残っていない所を見るに、骨も食べたのかな……え?大丈夫だよね?
「クロ、行こうか」
クロの背に乗って村に向かい、久しぶりにリアムの姿を見つける。
「リアム、久しぶり。クロのことありがとね」
「おうヒノ!ルステアはどうだったんだ?」
「楽しかったよ。迷惑掛けてなかった?大丈夫?」
「ああ。逆に近くのモンスターを狩ってくれるもんだから村を守ってもらってくらいだ」
ああ、そういえばモンスターの数が増えてたもんね。それに迷惑は掛けてないみたいでよかった。
「その倒したモンスターの素材も回収してあるから後で渡す。それと、時間があったらシエナにも会ってやってくれ。寂しそうにしてたからな」
わざわざ取っておいてくれたんだね。お金に困ってないけど、一応貰っておこう。
「うん、わかった」
落ち合う場所を決めておき、一旦別れてシエナの家に向かう。
道中村人たちにも挨拶する。うん、みんな相変わらず明るくて気分がいいね。
シエナの家にたどり着き、ノックして開くのを待つ。
「はーい。って、ヒノさん!?戻ったんですか!?」
「久しぶり、少ししたらまた行っちゃうんだけどね。挨拶でもと思って」
「来てくれるだけで十分ですよー!ほら、クロさんにもお世話になってますから!」
おや、随分とクロと仲良くしてくれているみたい。
「それに……私たちにとってヒノさんは命の恩人ですから……少しでも恩返しがしたいんです」
うーん、この村を助けたのは事実なんだけど命の恩人っていう肩書きはちょっとばかり重いんだよね。実質助けたのはクロだし……。
「そんなに気にしなくていいよ?私は言葉を教えてくれただけで感謝してるから」
「そういうことにしておきます。でも、何かあったら頼ってくださいね」
「うん、わかった。約束するよ」
それからしばらくシエナにルステアで起きた出来事を話すと、すき焼きなるものに興味を持ち始めたので渾身のすき焼きを振舞った。
美味しそうな顔にトロンとした瞳、眼福である。
「美味しかったです……」
「でしょ?」
「はい!多分今日のことは一生忘れません!」
うん、重いね。
この世界の村人というのは、滅多に都市には行かないし村娘は特に村から出ること自体滅多にないらしい。
ここからは私の予想だけど、だからこそ美味しい食べ物に目がないんだと思う。
「また作りに来るよ」
「本当ですか!?約束ですよ!」
「うん、約束ね。ほら」
私はスっと小指を差し出す。
指切りげんまんである。
「?」
「ほら、小指だして」
「はい……?」
シエナが私と同じように小指を出し、私は小指を絡ませる。
「私の国の約束をする時にこうするの」
確か針千本飲ます……いや、これは教えないでおこう。
何言ってんの?と思われるのがオチだし……昔の人は何故こんなにも恐ろしい歌詞にしたのだろうか。
「へえ……そうなんですか?じゃあ、約束ですよ!」
「うん……って、もうリアムの所に行かないと」
「分かりました!それじゃあ行ってらっしゃい!」
「行ってきます」
シエナの家から出てリアムの待つ広場に行くことにする。
実はシエナの両親は病でこの世を旅立っているらしく、長い間一人で暮らしているのだとか。
だからまだ幼いのにあんな大人っぽいんだね。それに、私には兄さんがいたけど……失った気持ちも理解できる。
部外者だとは分かっているけど、少しずつ寄り添っていきたいな。
「ヒノ!こっちだ」
待っていたリアムが広場から呼んでくる。
「あ、リアム。待たせた?」
「気にしなくていいさ。それより、これを受け取ってくれ」
リアムは広場の隅に置いてあった大きな袋を持ってくる。
ドンッ。
「随分と多いね……」
中を除くとモンスターの角が袋一杯に入っていた。
「まだあるぞ」
ドンッ、ドンッ。
「よいしょ」
おぉう……二つ追加された。
「こっちは鞣した皮だな……クロが食べなかった分の肉は腐っちまうからこっちで食べたんだが……大丈夫か?」
「全然大丈夫」
「あと、皮はまだ向こうにあるぞ」
「……多いね、私の分はこれだけでいいよ?使い道はあるんでしょ?」
「本当か!?それは助かる!……それでクロは?」
「シエナの家に行ってる途中で子供たちと遊んでたけど……」
空はもう暗く、子供たちと遊んでいるような時間帯じゃないはず……。
「だったら多分近くにいたモンスターに気付いて狩りに行ったのかもな。少ししたら獲物を捕まえて戻ってくると思う」
「ああ、なるほど」
うーん凄い……猟師顔負けの追跡能力だね。
「というか、ヒノはなんか明るくなったな」
「えっ、そうかな?」
自分ではあまり気付かなかったけど……。
「随分と変わった。何かいい事でもあったのか?」
「うーん……?確かにそうかも」
今思えば話すのに苦労しなくなったし、私も成長してるってことかな。
「良かったな」
「うん……みんなには感謝してる」
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