第21話・ご飯

 皆様、おはようございます!

 私はベッドから飛び降りて体を伸ばす。んんっ……窓から差し込む光が気持ちいいね。


 外に出る準備を終わらせて、『生産魔法』で創り出したパンを食べる。

 元の世界の食べ物を外で食べると、少なからず注目を浴びてしまうから気を付けないといけない。

 この世界の食べ物も美味しいんだけど、やっぱり元の世界の料理と比べて見劣りするんだよね。


「元の世界の料理とか売ってないかなぁ」


 ん?

 私はここで一つのことに気付いた。

 

 今思えば全然美味しいご飯食べられてなくない?

 作ろうれる環境を用意しようとは思ったけど、『生産魔法』では創るのに時間かかるから後回しにしてたんだよね。

 もし、私が元の世界の料理を作ったら売れるんじゃないだろうか。


「いやぁでも……」


 不可能ではないけど、一人でお店を出せる自信とかないしお金の管理とかもっと無理そうだし。

 うん、友達に振る舞う程度で留めておこう。


「仕方ない……」


 うーん……名案だと思ったんだけどね。

 なんでもいいから美味しいご飯を作りたいんだけど、これは家に帰ってからの課題かな。


「アンタ何ブツブツ呟いてんの?」


「っ!?」


 バッ!と顔を向けると、そこに居たのは女将さんだった。

 ああ、びっくりした。口に出してたんだ……。


「そんなに驚かなくてもねえ……で、どうしたんだい?」


「ああ、えっと……」


 どうしようかな……わざわざ言う事でもないと思うんだけど……。


「なんだ、言い難いことかい?」


「料理を作りたいんですけど……道具がなくて」


「それくらいなら貸してやるよ?その代わり後片付けとか材料は自分で負担してもらうけどね」


「いいんですか?」


 お店の物を借りていいってこと?そんな簡単に貸していい物なのかな。

 

「構わないよ?うちに泊まってくれるお客さんは私を恐れてか何も注文してくれないからね。厨房が寂しいんだよ」


 それは女将さんの料理を恐れてるじゃ……一体どんな料理を作ってるんだろう?

 って、その話は知らない方がいいかもしれない。


「お借りします」

 

「いいよ、ほら」


 女将さんが厨房まで案内してくれて、使い方の分からない道具について教えてもらった。


「この魔道具から火が出るから……ああ、火傷には気を付けなよ」


 あ、魔道具……使えないんだった。


「あの……私魔道具使えないんです……」


 私は巧みに嘘を交えつつ、できるだけ正直に魔道具が使えないことを話す。


「ふーん?じゃあ私が付けといてあげるから。どうせ今は暇だしね」


「ありがとうございます」


 ふふふ、実は元の世界で二人暮らしをしてるとき私が料理全般を熟していたので腕には自信がある。

 その後は部屋に行って『生産魔法』を使い必要な食材等を用意する。実のところ特定の物を創り出せる魔法はあるらしいんだけど、私のような魔法は存在しないらしい。うん、ということで隠すことにしました。

 そして眉を顰める女将さんを横目に、私は鍋に火を通していく。


「これは何の肉だい?」


 何のって……普通の牛肉だけど。


「牛のお肉……?」


「牛……?」


 まさか、この世界に牛って存在しない?


「豚、ニワトリとかは……?」


「豚は知ってる」


 ニワトリは知らないんだ……困ったなぁ。

 実のところ、私が今作ろうとしているのはすき焼きである。ゆえに、生卵を知らなかったり食べられないのはちょっと困るんだよね……。


「私の国では有名なんですけど……」


「へぇ、まあ続けてよ」


 最悪私だけ食べればいいか……。

 見たことの無い具材が多かったのか女将さんの顔がだんだん険しくなっていく中、私は包丁を借りて丁寧に切って鍋に入れていく。

 味付けは当然醤油やみりん……何の変哲もないすき焼きの完成です。


「これは……?」


 目を細めて鍋を覗く女将さん。

 この世界の人にも美味しいって思ってくれればいいんだけどね。


「これはすき焼きって言うんです……美味しいですよ」


「じゃあ頂こうかね」


「待って、まだ必要なものがあるんです」


 女将さんにも手伝ってもらい、別のお皿に移してもらい小皿に生卵を入れる。


「この卵……食べるのかい」


 うわ……って感じをする女将さん。

 確かに生卵は海外では食べられてないって聞くし、この世界だともっと無理なのかな。

 そして、なんやかんやあってお店の席に二人で座る。


「いただきます」


 そう言って箸で肉を取り、卵を絡ませて口に入れる。


 パクリ。


 うん、超美味しい。

 思わず口元が歪まんでしまう程だった。


 その様子を見た女将さんがフォークで肉を刺して、恐る恐る卵に突っ込む。

 そしてそのまま勢いでパクリ。


「んま……!?」

 

 予想通りの反応に私はニヤリとほくそ笑む。


「急がないと無くなりますよ」


 大した量は作っていなかったので、鍋の中はもう残り少ない。


「な、ちょ、待っておくれ!」


 止まらない箸と、食べ慣れてないフォークが戦場を駆ける。


 ……。


 はぁ、美味しかったね。


「ご馳走様でした」


 作った人に感謝する言葉だった気もするけど、まあどっちでもいいよね。


「美味かった……アンタ……確かアイガサって言ったね?もしかして、どこかの料理人だったりするのかい……?」


 うーん、そう思われちゃったか……。


「違いますよ。私の国では一般的な料理ですから」


 ここまで言って、私は気付いた。

 やばい、こんなに自分の国に関して話すと問い詰められる可能性が……。


「ふうん?アイガサ、うちで働かないかい?」


 はぇ?


「うちはまあまあ繁盛してるんだけどね、飯がマズイからか客が定着しないんだよ。それに、その才能を自分の中だけで留めておくのは勿体ないんじゃないかい?」


 おぉ……!?才能とまで言われてしまった。

 でも、本当に日本じゃ誰でも作れるような物だから罪悪感とが……それに……。


「この食材がないんで……」


「そんなの、ルステア売ってるもので代用すればいいんじゃないのかい?ダメな理由……宗教的な何かがあるのかい?」


 確かにその通りかもしれない。

 この世界の食材についても詳しく知れるし、お金も貰えるなら一石二鳥?


「……やってみます。その代わり、長くはいられません」


「そう来なくちゃね。当然、いつ辞めて貰っても構わないよ」


 こうして、私はこの宿で働くことになる。



 


 そして時は進み、早くも数日が経過した。

 店は三日目からはぐんぐんと人気が出てきた。ほんと、人気すぎて怖いくらい。


「アイガサ、買い出しに行ってくるけど一人で大丈夫かい?」


「はい、お客さんも少ないので大丈夫です」


 使い終わった皿を溜まった水で洗い、返事をしながら棚に片付ける。

 実は働き始めてからは、この世界の食材でどんな料理が作れるのか試行錯誤を繰り返していた。

 その結果、二日目には噂が広まり興味本位でお客さんが来てくれて、三日目には宿屋がレストランと化してしまった。

 泊まる人よりも食事を目当てに来店する人が増えて、中には乱暴な人もいたりしたけど女将さんが怒鳴りつけて一件落着。

 ちなみに、私の存在は隠してくれている。当然女将さんにも料理を教えたので私が居なくても店は回せるくらい。


「おいッ!」


 お客さんのいる食堂の方から怒鳴り声が聞こえてくる。

 やばい……いま女将さんいないから私しか対応できないんだけど……!?


「飯を作った奴出てこいッ!」


 い、行くしかない……?でも……隠してる訳だし……。

 あたふたしていると、ガゴンッ!と机が壊れたような音が聞こえてくる。


「え……?」


 元の世界にもそういう人間は少なからず居るし、だからこうなることはあるだろうって思ってた。

 でも、元の世界のクレーマーとは比べ物にならないほど暴力的だった。


「今行きます」


 私が隠れてたらお店が滅茶苦茶になるかもしない。女将さんにはお世話になってるし、それだけは避けなければならない。

 厨房から出た私を出迎えてきたのは、巨大な男だった。

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