第20話・才能


 街中をブラブラと歩き回って時間を潰していると、日が暮れてきたので約束していた通りポーション屋に向かう。

 少し早いかなって思ったけど、時計とかないみたいだし早いに越したことはないよね。


「すみません、少し早いですか?」


 ゆっくりとドアを開けて聞いてみる。


「ん?ああ、問題ないよ。着いておいで」


 お婆さんは自身の腰に手を回し、のそのそと店の奥に入っていく。


「私はバル・ヴィルティーユ……あんたの名前は?」


 おっと、何か違和感があると思ったら自己紹介してなかったね。


「ヒノ・アイガサです。よろしくお願いします」


「アイガサ……ね、はいよ」


 店の奥に行くと、青臭いような匂いが微かに漂っている部屋に案内される。

 その部屋は巨大な本棚で囲われており、中心には大きなテーブルが置かれてその上には専門的な器具がいくつもある。

 更にその横を見ると、おとぎ話に出てくる魔女の鍋のような巨大な鍋が置いてあった。


「ここでポーションを調合するんだ。必要な過程は……一回見せた方が早いかね?」


「はい、お願いします」


 ヴィルティーユさんは私の返事を聞くとガチャガチャと机に置いてある器具を弄り、テーブルの下に置かれた箱から薬草?みたいな葉っぱをすり潰し始める。

 やっぱりポーションの素材と言えば薬草だよね。

 ん……?冒険者とかは薬草を集める依頼を受けると思うんだけど、それに対してポーションの値段ってちょっと高いよね。

 需要と供給?……ちょっと違うかも。


 そう考えていると、ヴィルティーユさんは別の箱から何かの粉を混ぜて、よく分からない液体を入れていく。

 当然、薬草だけでポーションが造られるわけじゃないもんね。


「『付与魔法』」


 ヴィルティーユさんが液体に手をかざし、魔法らしきものを唱える。

 すると、その液体に微かに光が点り見覚えのあるポーションの姿になった。


「この粉塵はオーガの角を砕いたものでね……これは他のモンスターでも大丈夫だど、一番しっくり来るのがこれだったね」


 確かに白っぽい粉だと思ったけど……骨粉だったんだ。

 それにオーガって見たことないけど……多分あの怖いイメージのオーガだよね。


「へえ……他にはどんなモンスターがいるんですか?」


「ああ、何体もいるけど……一番簡単なのは角兎の角で造るポーションだね。でも、失敗しやすいし成功したとしても粗悪品が多い。逆にユニコーンの角はどんな傷も回復させられるポーションが造れるって言われてるくらいだね」


 ユニコーン……?確かにユニコーンの角は解毒?傷を癒すみたいに言われてた気がする。あれ?イッカクの角だっけ?

 っていうかポーションって失敗とか成功ってあるんだ。


「へえ……えっと、どうして角なんですかね?」


「角ってのは体の中で一番魔力を持ってる部位でね。何かと都合がいいんだよ」


 なるほど……?やっぱりちゃんとした理由があるんだね。

 例えばクロの角でポーションを造ったらどうなるんだろう?でも魔力が無さそうだから失敗するのかな?


「例えば竜の角とかは……?」


「そりゃ竜ならかなり良質なポーションが造れるよ。それに、竜の角や爪から造ったポーションは貴族達の目にも留まるからね」


 なるほど……素材を変えるだけでかなり変わるみたい。

 

「じゃあ造ってみるかい?」


 え……?いやいやいや!いきなりは無理!

 失敗したら勿体ないし、申し訳ないから……。


「いや、私魔法が使えないので……」


「ああ、最近の子は神殿で調べてもらえるんだってね」


 え?神殿?さっきもそんなこと言ってたけど……何それ?


「?」


 意味がわからなかったので首を傾げると、ヴィルティーユさんも首を傾げる。


「調べてもらってないのかい?」


「は、はい。私の国にはなかったので」


「なら今度紹介するから、今はとにかくやってみなさい」


 ここまで言われたら断りにくい。

 言われた通り椅子に座って、さっきやっていたことを真似していく。


「アイガサは恐ろしいほど不器用だね……」


 ……しょぼん。

 そんな小言を挟まれて落ち込みつつも材料を混ぜ、あとは魔法を使うところまで終わらせた。

 っていうか、ただかき混ぜるだけなのに……。


「あとは……魔力が少ないって言ってたけど、魔法を使えるのかい?」


「一応使えます」


「なら可能性はあるね。ほら、手をかざしなさい」


 言われた通りに手をかざす。


「『付与魔法』はわかるね?魔道具の光とかはそれの応用だよ。本題に入ると、ポーションは他の魔法を付与する必要がある。意味が分かるかい?」


 んー……魔法を付与しないといけない……?

 ってことは当然、付与魔法だけでポーションは造れないということ。言い換えれば、付与魔法だけを持っていても意味がない。


「他の魔法も使えないといけない、ってことですか?」


「ほお……不器用だけど頭は良いんだね。そう、要するにポーションを造るには中途半端な才能じゃ意味がない」


 その言い方からすると、ヴィルティーユさんはそんな才能を持っているということ……実は凄い人なのかもしれない。

 え、でも私そんな魔法使えないし絶対失敗しない?

 私のそんな考えも虚しくヴィルティーユさんは話し続ける。

 


「それじゃ、始めようかね。目を瞑って完成したポーションをイメージして……回復の魔法を付与してみなさい」


「やってみます……」


 考えるのは、少しずつ傷が塞がっていくイメージ。

 巡る魔力をポーションとなる液体に向け、集中する。


「ただいま、まだお店閉めるには早……って誰……?」


「!?」


 そんな声が聞こえ、集中が切れてしまった。


「なんだい、いい所だったのに」


「愛娘が帰ってきたのにその態度は酷いね〜。それで、えっとお客さんですか?」


 びっくりした……愛娘ってことは娘さんかな?

 お店の入口とは違う方向から入ってきたのは明るくて若い女性……私と同じくらいの歳かな?


「はい、お邪魔してます」


「は〜い」


 後ろで縛った茶髪を揺らしながら、勢いよく階段を登っていく娘さん。

 整った顔立ちに明るい性格……なんか、この世界って美形多くない?


「悪いね、うちの子が」


「いえ、全然大丈夫です」


 というか、失礼だけどヴィルティーユさんとは性格が違いすぎて驚いたね。


「あ!そうそう、ブラウスさんが今度来るって言ってたよ。いつもより多めに造って欲しいって!」


 くり抜かれていた穴からひょっこりと顔を出して、ヴィルティーユさんに言い放つ。


「……そうかい、用意しておくよ」


「は〜い。それじゃごゆっくり〜」


 ……そこ二階と繋がってたんだ。秘密基地みたいで面白いね。


「悪いね、アイガサ。神殿の件はブラウスの奴にポーションを渡してからでいいかい?」


「はい。気になったら自分でも行きますから」


 忙しそうだし、なんか自分のために時間を使わせちゃうのは申し訳ないからね。

 そもそも、神殿ってどんなところなんだろう?この世界の宗教とかはどんな感じなのかな?ちょっと怖いイメージあるから、慎重にいかないとね。


「アイガサ一人だと凄いお金かかるよ」


「お世話になります」


 ただでさえ節約しなければならないのに……こういう時に限ってお金が掛かるんだよね……。


「素直だね。さて、暗くなってきたし早いうちに帰った方がいいよ」


 ほんとだ。確かに夜一人は怖いし、お暇しようかな。

 この世界は元の世界と比べて一日の時間が短い気がする。でも時計とかないと思うし……いや探せばあるのかな?


「はい、今日はありがとうございました」


「悪いね、最後までやれなくて」


「いえ、見せて貰えただけで十分です」


 私は『生産魔法』しか使えないだろうし、落ち込むよりはいいよ。


「少ししたらまた来ますね」


 連絡手段とかあればわざわざ会いに来なくてよくて楽なんだけど、不便なのは仕方ない。


「ああ、待ってるよ」


 こうして、宿に戻って二日目を終えた。

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