第19話・ポーション

「それじゃ、六日後にクロを行かせるから」


「うん、また」


「おう!」


 都市に来てから二日目。

 私は朝早い門でリアムを見送り、昨日と同じように活気で溢れた街の中を進んでいく。

 さて、今日中に行きたい場所がいくつかあるんだよね。

 ずばり、ポーションと魔道具を売ってるお店!って、昨日も言ったね。

 リアムから教えてもらった道を進んでいくと、立派な建物が目に入ってくる。

 お〜、立派な建物。少し古びてるけど、倒れそうな不安はなくて逆に怪しげな雰囲気になってる。

 近くに行くと看板が見えてきたけど、私はまだ文字が読めないのでなんて書いてあるか分かんない。うーん、残念。

 気を取り直して、とりあえず入ってみよう。


 ガチャり。


 ドアノブを捻ってドアを開くと、中には嗅いだことがないような独特な匂いが充満していた。

 臭くはないんだけど、香水みたいないい匂いでもない……よくわかんないね。

 しかし、並べられている液体には心当たりがあった。

 多分、これがポーションだ。


「……らっしゃい」


 カウンターの方からそんな声が聞こえて振り向くと、そこには怖そうなお婆さんが私を見ていた。

 私はぺこりと会釈してお店の中に入り、店内に視線を向ける。

 ……うん、気まずい。

 別に何も起きていないんだけど……一方的にじっと見られているのは緊張する……。


「……」


 目が合ったまま無言が続き、お互い目を逸らすことなく見つめ合う。

 私はただ緊張して目が離せないだけなんだけど……これいつまで続くのかな……。出てけってこと……?

 しかし、次の瞬間止まった時間は動き出した。


「……!?」


 ひょい、とお婆さんが私に手を出した。


「……あ……はい」


 よく分からないけど……握手しとこう。

 するとお婆さんがにこりと微かに頬を緩める。

 ちょっと怖いと思ったけど、実はいい人なのかな?私のと同じで話すのが少し苦手なだけで。


「見てもいいですか?」


「ああ」


 やったぜ。

 なんか仲良くなれたし、初めはどうなることかと思ったけどよかったよかった。


「これは……?」


 私は店内を回りながら、よく分からないポーションを眺めていた。

 説明も液体の入った瓶の下に書いてあるんだけど、一切読めないし……値段すらわからない。このままだと非常にまずいです。

 でも、なんかちょこっと光ってる……?綺麗。


「筋力増強のポーションだね……読めないかい」


 やっぱり読めるのが一般的かあ……誤魔化したって仕方がないし正直に話そう。


「ええ、遠くの国から来たので」


 そう、それが私が設定。

 リアムにもそう伝えているし、言葉が通じるのは『生産魔法』同様独自の魔法だと伝えてある。ふふふ、我ながら良い言い訳だと思う。


「そうかい。それじゃどんなポーションが見たいんだい?」


 仲良くなったと思ったらめちゃくちゃ優しいお婆さんに変身した……。わかる、少しでも仲良くなると話しやすいんだよね。


「魔力を増せ……回復させられるポーションを」


 リアムに聞く限り魔力の最大値を増やすポーションは存在しないのだとか。うん、まあ期待してなかったけどね。

 だから、代わりに魔力を回復するポーションを使えたら私の『生産魔法』も使いやすくなるんだけど。


「向こうだね。少し高いよ」


「幾らくらいですか?」


 値段が高ければ断念するつもりだけど、安かったら買おうかな?


「金貨一枚と銀貨二十枚」


 ……あっ。

 金貨一枚が三万円?銀貨が千円だとすると……?

 日本円換算で五万円……!?たったこの瓶一つ分の液体で!?


「ぉ……ちなみに買う人はどんな職業の方が?」


「そうだねえ……神殿のお偉いさんが多いかね。あとは儲けてる冒険者か上級騎士……」


 高級品ってことね……。

 確かに安かったら魔法を使い続けられるってことになるし……それ相応のコストが掛かるのかな?

 それにしても、約金貨約三枚……これは痛い。

 次からはクロの食べ残したモンスターの素材をもっともっと集めておこう……。


「また……一週間後に来ます」


 できれば今日買いたかったんだけど、素材とかちゃんと捨てないで持ってきてればなぁ……。


「ああ、待ってるよ」


 せめて自分に効果があるのかどうかを知りたいんだけど……ま、多分使えないんだけどね。

 私はそもそもこの世界の人とは体の造りが違うし、私の魔力は体の中じゃなくて外側にあるみたい。


 それでも、試してみない事には分からないからね。少しお金を手に入れてからもう一度来よう。


 ちなみにクロが迎えに来るまでの六日間を現在の所持金でやりくりしないといけないので、大きな買い物とかはしてられない。


「ふぅ……」


 まさか……ポーションがあんなに高いと思ってなかったから、ついため息をついてしまった。

 ……気を取り直して次は魔道具を売ってるお店に行ってみよう。

 魔道具の中には光とか風を出せるものがあるらしいし、なんでもある雑貨屋さんみたいで楽しそうじゃない?


 ということで魔道具屋さんに来ました。


 本日二度目のガチャり。


「お邪魔します……」


「いらっしゃい」


 中は思っていたより広く、ひと目でわかる程人が多い。挨拶をしてくれたのは入口付近にいた店員さんだった。

 一人、二人、三人……ここは店員さんも多いみたい。あ、盗難対策?このお店と比べるとポーション屋さんはかなり不用心な気もするね。

 うーん、確かに防犯カメラとかないんだから簡単に盗まれちゃうもんね。


 どんなものがあるのか店内を見渡すと、近くのお客さんが何かを手に持って弄り回している。

 すると、ぶぉーとドライヤーのような音が聞こえて強い風が出ていた。

 凄いね、魔法を使えなくてもあんな風に使えるようになるのかな。

 リアム曰く、魔法が使える人と使えない人との将来性は天と地ほど差があるらしいんだけど……こんな魔道具があるっていうのは使えない人からしたら助かるね。

 ちなみに、魔法の才能っていうのはこの世界でどう生きるかが決まるくらい大切なものらしい。


 とりあえず、近くにある魔道具を手に取ってみる。

 それで……これをどうやって使うんだろう?

 周りの人達は簡単に使っているみたいだし……魔力を込めればいいのかな?


「……」


 無理でした。

 どんなに工夫してもピクリとも動かない……。もしかして、壊れてるんじゃ……まさかね。

 構造とか分かってたら原因も分かるんだろうけど、っていうかどうやって作られてるんだろう?ポーションもだけど、ちょっと気になるよね。

 とにかく、私には魔道具が使えないとってこと。

 

 ってことは……ここでやることが何もない……。


「うん、帰ろ」


 私には使えないという事が分かっただけでも収穫だよね……前向きに考えよう、そうしよう。

 この世界に来てからはできなくて苦労した事の方が多いからね、こんなことでいちいち驚いてられないよ。


 ……もしかしたらポーションも無理かな。

 使える可能性もあるけど、まあ一応考えておこう。

 そういえば他にも色んな種類のポーションがあったけど、安いポーションがあれば今でも試せるかもしれない。

 そうと決まれば、やることも無いしポーション屋に戻りますか。


「すみません」


「ああ、なんだい」

 

 どうしようかな……ここまで来たら、正直に聞いてみた方が早いかもしれない。


「私魔力が限りなく少ない体質なんですけど、私にもポーションって使えますかね?」


「魔力が少ない……?」


 この世界の人は少なからず魔力を持っていて、魔法を使えなくても魔力を消費して魔道具を使える。これが私の考えである。

 多分、体の構造が違うってことは臓器が違うって意味だと……ちなみにその臓器は魔力を蓄積するような物だと思う。


「ポーションは魔力を使わないよ?ポーションってのは魔法を液化したようなもんだからね。魔力がない人間にだって使えるだろうさ。まあ、そんな人間が居ればの話だけどね」


「そ、そうなんですか……!?」


 超嬉しい。

 私は満面の笑みを浮かべ、魔道具で落ちた気分が急上昇する。


「そ、それと、ポーションってどう作るんですか?」


「ん……?見てくかい?」


「いいんですか?」


 秘伝の技術みたいなのがあると思ってたけど……本当に見せてもらってもいいのかな? 


「なあに、難しいもんじゃない。ただ、才能があるか無いかが全てだけどね」


 ああ、なるほど。

 作り方が簡単と言っても、多分魔法とか特殊な力で造る感じなのかな?私にはポーション職人の才能はなさそうだね。


「今夜おいで。見せてあげるよ」


「はい、行きますね」

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