第18話・価値

 冒険者組合を出てからは、ルステアをリアムに案内してもらっていた。

 いやあ、凄いね異世界!

 見渡す限り知らない物ばっかりで、すれ違う人たちも多種多様……動物を擬人化したような獣人?っぽい人とか居たし、派手な鎧とかを着てた冒険者もいたりした。

 ちなみに、冒険者組合で換金してもらった金額は金貨三枚と銀貨二十枚、そして銅貨八枚……いやわからないよね。

 ま、かくいう私も全然理解してないんだけど。

 えーっと、確か銀貨三十枚で金貨一枚、銅貨十枚で銀貨一枚って感じ……もちろん、今聞いた話なんだけどね。


「あの反応は面白かったな、ほら組合での」


 リアムは思い出すように笑い声を上げる。

 そういえば冒険者組合で変な反応されたんだった。ちょっとっていうか、かなり気になってたんだけど……。


「あれ……よく分かってないんだけど、なんなの?」


「ん?ああ、ヒノの事を熟練の猛者かその使いだと勘違いしたんだろ」


 熟練の猛者…の使い……?そっか、それなら納得できるかも。


「なるほど……だからあんな反応だったんだ」


 確かにゴブリンですら倒せなさそうな私が大量の素材を換金するって、周りから見たらかなり異様な光景だよね。

 あの受付の人は、私が強い冒険者の代わりに換金してもらいに来たって思ったのね。

 ……っていうか。


「ねえ、金貨とかってどれくらいの価値なの?」


 何となく大きな数字だっていうのは分かるんだけどね。

 日本円でいうことろの一万円くらい……?でもあの量で三万円っていうのは少し少ない気もする。


「はぁ……?って知らなかったのか……」


 はい、すみません。

 私がコクンと頷くとため息混じりにリアムが教えてくれる。なんだかんだ丁寧に教えてくれるので、リアムが案内人になってくれてのは本当に助かった。


「銅貨はそこら辺の買い物に使う。例えば、そこの串焼きは銅貨二、三枚ってとこか」


「串焼き?なんのお肉?」


「ああ、種類が多くてな。この前食ったドブとかもいるが、ほとんどがウサギとかカエル、中には分かんねぇやつも多い」


 分からないって……それ大丈夫なの?買う時は少し気をつけた方がいいかも。


「続けるぞ、銀貨は宿とか普通の買い物で使う。……銅貨は小遣いみたいな感覚だな」


 なるほど。日本円で言うと百円位の感覚かな?

 って考えると、串焼きが三百円くらいで銅貨十枚が銀貨一枚だから、宿が数千円くらいなのかな?思ってたよりも普通だったね。

 じゃあ、金貨は三万円くらいなのかな。

 ……私の所持金約十万円。大金は大金なんだけど、簡単に手に入ってしまったせいかイマイチピンとこない。


「さて、宿は最後に行くとして飯でも食いに行くか」


「うん、お願い」


 意識したら突然お腹が減ってきた。

 ということで、先程通った広場に行くことにする。


「なんか食いたいもんがあったら案内するけど」


 そんなこと言われても……何を売ってるのか分からないんだよね。


「とにかく行ってみよ、美味しそうなのを探したい」


「ああ、わかった」


 目的が定まったところで、広場に到着。

 そこら中から美味しそうな匂いが漂ってるね、実に楽しみである!


「懐かしいな……って、どこ行くんだ?!」


 おっと、つい吸い寄せられてしまった。迷子になったら大変だし、気を付けよう。


「ごめん、早く行こ」


「わ、分かった分かった。もし逸れたらそこの像の下に……だから話を聞けって!」


 すみません、もう離れないようにします。


「おすすめの屋台ある?」


「ああ、少し高いが向こうで売ってる肉は食べて欲しいな」


 おおー、食べてみたいね。


「行ってみよう」


 ということで、案内された屋台でお肉を買う。


「はいよ、嬢ちゃん」


 銀貨一枚を支払い、あまり多くない肉を店主から受け取る。

 ……千円でこの量って高いね。

 そんなことを考えながらパクリと一口。


「うま……」


 気が付けばバクバクと夢中になって食べてしまった。

 ハッ……店主とリアムの目が子供を見守る目に……。


「お、美味しいね」


「ああ、オークの肉だからな」


 ピタリと私は手を止める。

 オーク?オークって……あれ?オーク?


「オークって……何?」


 呟くように質問すると、リアムが何言ってんだ?と言わんばかりの顔で答える。


「ほら、人型の豚の頭をした……」


 ああ……なるほど、なるほど。

 私は固まったまま、もうほんの少しになったお肉を見つめる。


「美味しければいっか」


 あまり気にならなかった。

 なんなら、ゴブリンを食べるクロを見て食べ……食べてないけど、どんな味なのか気になっていた。

 それと比べると、見たことの無いオークなんてお茶の子さいさいって訳ですよ。


「ほら、次行こう」


 あれ、リアムは食べないのかな?


「リアムの分は?」


「俺はいい、オークってのは村の中では十五歳で成人した時に買ってもらえる高級品だからな。ヒノには一度食べてみて欲しかったんだ」


 へえ、この世界では十五歳で成人なんだね。確かに体はそこら辺の歳で大人に近付くし、妥当なのかも。


「店主さん、もう一個ください」


「はいよー」


 私は銀貨を一枚渡してオークのお肉を受け取る。


「話を聞けって……」


 え?聞いてたよ?はい、どうぞ。

 喚くリアムを無視して手の上にお肉を置く。


「あ、おう。ありがとう」


「どういたしまして」


 こんなやり取りをしながらルステアを観光する。

 気になったお店があったら入ってを片っ端から繰り返し、気が付いたら日が暮れ始めていた。


「そろそろ宿を取った方が良さそうだな。俺は明日帰るから、気を付けろよ」


「うん、分かってるよ」


 一人だと少し心細いけど、独りだからこそ自由気ままに観光できる事もあるからね。

 もちろん、危険には気を付けるよ。


「よし、それじゃ宿に向かうか。一回世話んなった場所でな、気のいい女将が店主なんだよ。っていっても、かなり昔のことなんだけどな」


「へえ、いいね」


 昔っていつの話なんだろう?さっき言ってた成人した時のことかな?

 ってことはリアムはまだ二十代だろうし、五年以上前だとお店の人が変わってる可能性もあるかもね。

 暗くなりつつある道は未だに活気で溢れており、仕事帰りの疲れた顔の人々とすれ違うように進んで一つの建物の前にたどり着く。


「着いたぞ」


 冒険者組合と比べると大きくは無いが、小さいとも言い難い。一言で言うなら、落ち着いたサイズの建物……?

 左右の建物が大きいから比較的小さく見えるけど、他の建物と見比べると綺麗で入る前から期待できるね。


「ほら、入るぞ」


「あ、うん」


 中に入ると一階には冒険者組合と同じようにカウンターと丸いテーブルとイス、そして右手には二階へ続く階段がある。


「いらっしゃい。二人かい?」


「ああ、二人頼むよ。別々の部屋でな」


「あいよ」


 カウンター越しに出迎えてくれたのは、ガッチリとした肉付きの女性だった。

 うん、明らかに何らかの元プロ……?いや、冒険者かな。

 チラッとリアムを見てみる。

 村人の生活から自然と鍛えられた太い腕、それはまるで丸太のようにも見える。しかし、女将さんの方を見ると……。

 コンクリート……?いやいや……。


「ん?これかい?」


 私の視線に気付いたのか、力こぶをムキッと見せてくれる。

 うん、分厚い。ここに泥棒とか入っても返り討ちに合うような安心感……勇ましいね。


「さてと、食事はどうする?ま、味は保証できないけどね」


 おぉ……言い切った。

 確かに最初からそう言っておけば、どんな料理出されても文句言えないからね。


「あー、どうする?ヒノ」


 うーん、別になくてもいいかな?魔法で創り出せるし。


「い、いや、なくていいかな」


「ハハッ、分かってるじゃないか。先払い銀貨二枚、部屋は二階の一番手前だ」


 ニカッと笑う女将さんに銀貨二枚を手渡し、部屋の鍵を代わりに受け取る。

 見た目からいい人っていうオーラが滲み出てるね。安心して泊まれそう。

 リアムの方を見ると、自分の分の部屋の料金を払っていた。


「お金大丈夫?」


 案内してもらってるんだし、私が払うべきなのかもしれない。


「ああ、自分の分は払うさ。先に部屋で休んでてくれ」


 そこまで言われてしまったら、偉そうに払うのは少しかっこ悪い。私は頷いて言われた通り二階に続く階段を登る。


 先程言われた部屋に入ると、目に入ってくるのは外が見れる窓に、机と椅子、そしてベッド。その横には荷物が入れられる宝箱。

 まさに異世界の宿である。


「いい感じ」


 汚れもないし、丁寧な仕事をする人なんだね。

 ポイポイっと荷物を宝箱の中に入れて、ベッドの上に座る。


「はあ……疲れた」


 今まで夢中で気が付かなかったけど、座った途端にドッと疲れが……。

 明日はもっと別のところに行ってみよう、魔道具とかポーションとか売ってる場所も聞いたし。

 ちょっと疲れたし……少し休もうかな。

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