第17話・ルステア

 街を囲う大きく頑丈そうな城壁の元に辿り着くと数人の列が並んでおり、リアムに着いていく形で私も並ぶ。

 そして顔を上げるとでっかい壁……これは、十メートルくらい?凄い迫力……。

 城壁の入口の方には門があって、そこには四人くらい甲冑を装備した兵士が見張ってる。

 うわぁ……私が小さい頃に遊んだゲームもこんな感じだったかも。


 心の中で感動しながら並んでいると、あまり時間も掛からない内に私の番が訪れる。

 なんか緊張する……別にやましい事がある訳じゃないんだけど、まるで犯人じゃないのに取り調べ受けさせられてるみたいな気分。犯罪者ってこんな気持ちなのかな。

 しかし、そんな心配も拍子抜けするほど簡単に調べられただけだった。

 もしかしたらボディチェックでベタベタ触られると思ってたけど、意外と兵士さんも紳士的でルステアに来た目的を聞かれて荷物チェックをしただけだった。

 そしてお金、多分税金?を払わないといけないらしくって、オロオロしてたらリアムが払ってくれた。


「いいの?」


「気にしないでくれ、元から払う気だったんだ。それに大した金額じゃないしな」


 うーん、だったらお言葉に甘えようかな。でも少し申し訳ないし、どこかでお返ししたいね。

 そんなことを考えていると、リアムが更に釘を刺す。


「本当に気にするなよ?これは俺なりの感謝だからな」


 ぐぬぬ、見透かされてたか……。


「わかってる、ありがとう」


 そんな会話をしながら、兵士に案内されるまま門を潜ると活気の溢れた街並みが続いていた。

 道の真ん中を馬車が進み、様々な格好をした人の中に入ってリアムの後を着いて行く。


「おい、離れるなよ。少し進んだら人も減る」


 入口付近は驚く程馬車の出入りが多くて、歩いてる人達はかなりぎゅうぎゅう……少しでも離れたらリアムを見失ってしまいそうな程だった。


「わかった」


 人多い……っていうか、黒髪の人がいない。ほとんどの人が金髪茶髪……赤っぽかったり?あ、黒っぽい人もいた……けど私と比べると薄いかな。

 周囲をチラチラと観察しながら人混みを抜けると、像が中心にある大きな広場に出た。


「お……」


 美味しそうな匂いに、行き交う人々の明るい声。

 例えるなら、お祭りみたいな雰囲気……?いい匂いだけど、何売ってるんだろう?食べてみたいな。


「待て待て、まだ無一文だろ?先に冒険者組合で換金しよう」


「そうだった」


 それに冒険者というのにも興味がある。

 リアムから聞いた話だと私の知っている冒険者の体制と同じだったが、その印象は思ったよりも悪いらしい。


 冒険者とは、依頼主が冒険者組合を通して様々な依頼をして、それを冒険者が受けて報酬を受け取るという。

 うん、私の想像した冒険者って感じ。

 でも冒険者って名前じゃなくて良くない?冒険してないし……って思って質問したけど、普通に冒険してるらしい。というか、依頼に関しては冒険のオマケのようなものなのだとか。


「着いたぞ」


 あれ、思ったより近いね。

 顔を上げると大きな建物が私を迎え、出入りする人の多くが武装した屈強な戦士風の男女だった。

 うん、ザ・冒険者って感じ。かっこいいんだけど、この中に入るのはちょっと勇気がいるかなあ……。


「?入るぞ」


 まあ、勇気出して行こう。

 慣れてるのかリアムは冒険者らに続いて入っていく。明らかに私は場違いだったけど、仕方ない。


「お邪魔しまー……」


 扉を開けると騒音。

 真っ先に視界の中に入ったのは、テーブルに足を乗せて酒を掲げる男。そしてその周りには楽しげに笑ってる男女。

 彼らが冒険者、予想の何倍も豪快な感じ……。

 冷静に周りを見ると、他のテーブルも似たような感じで食事を食べている。


「ヒノ、こっちだ」


 奥の方からリアムが手を上げて私を呼んでいた。助かった……人が多くてどこにいるか分からなかったよ。

 冒険者のイメージって、最初は喧嘩売られたりバカにされたりみたいな偏見があったら安心した。

 しかし、この髪色のせいか少なからず興味の視線が私に向いてるのが分かる。大袈裟に言うと、死ぬ程緊張する。


「あそこのカウンターで換金して貰えるから。俺は村のことを話してくる……一人でも大丈夫か?」


 ひぇー……正直一緒にいて欲しいけど、そんなことも一人でできないのか?って思われるのも嫌だし。


「ええ、大丈夫だと思う」


 え?うん、強がりだよ。

 緊張した足をプルプルと震わせながら教えてもらったカウンターに向かうと、カウンターの奥から受付の人が来てくれた。


「はい、今回はどのようなご要件で?」


 凄いしっかりしてる。できる女って感じ……すっごい美人。

 それに私が思っていたよりも街並みは綺麗だったし、文明は魔法とかで独特な進み方をしてるのかもしれないね。


「これを換金したいの」


 カウンターにドン、とモンスターの剥ぎ取った部位……素材?の入った麻袋を置く。


「はい!かしこまりました……随分と多いですね?」


 すると、受付の人は固まった。

 え?なんかヤバいことした!?


「なにか?」


「いえ。量が多かったもので。しばらく時間が掛かりますので、あちらでお掛けになっていて下さい。それと、お名前は?」


 ああ、今までの分だから結構貯まってるんだよね。

 一日何十体もクロが仕留めてくるし、余った分は村の人達にあげたり捨てたりしたくらいだよ。


「アイガサです」


 ヒノでもいいかなと思ったけど、いきなり名前で呼ばれるのはなんか気恥しいし名・姓って言いにくいんだよね。


「はい、アイガサ様ですね。わかりました」


 ふぅ……緊張したけど、あとは待つだけかな?受付の人も優しそうな人でよかった。


 それにしても……暇だねえ。

 カウンターの奥の方を見ると、先程の受付の人が慌ただしくしていた。なんか、すみません。

 それにしても……うーん、どれくらいお金貰えるかな?クロだから簡単に倒せたけど、普通の人間だったら倒すのは難しいようなモンスターだし、期待していいよね?

 お金は沢山あった方がいいからね。

 泊まる場所も探せばあるだろうし、食べ歩きとか……ああ、ポーションとかも高いらしいけど買ってみたい。


 他には……この世界って魔石みたいなのは無いのかな?

 まあ、あったら教えてくれるよね。それだと、魔道具みたいな、魔法を使える道具は無いかもね。

 明かりを付けれたり、水を創り出せる魔法の道具があれば嬉しいんだけど……まあ、そんな都合よくいかないか。

 ボーッとしていると視界に黒髪の女の人が映る。

 あの女の人黒髪……かっこいい雰囲気……なんかすっごい目立ってるね。周りからしたら私もあれくらい目立ってるのかな。

 そのまま次の冒険者に視線を向けると、これまた頑丈そうな鎧を着て大きな盾を背中に乗せていて驚いた。


 そんなことを考えて一時間ちょっと待っていると、リアムが帰ってくる。


「ヒノ、こっちは終わったぞ」


「おかえり、私はまだかな。この後どうする?」


「あー、そうだな。正直案内できるほど詳しくないんだが、いい宿屋と飯屋くらいなら分かるぞ」


 それだけで十分だね。

 分からないことがあったら多分宿の人とかに聞けばいい……?旅行とか行くとタクシーの運転手が周辺に凄く詳しいって聞いたことあるし、現地の人に聞けば問題なし!


「アイガサさーん!終わりましたよ!」


 受付の方からそんな声が聞こえてくる。

 待ち時間は結構長かったけど、頑張ってたのを見ていたので不快な気分には一切ならなかった。元の世界の病院とかはもっと長いしね。


「はい、今行きます」


 カウンターに行くと、さっきとは違う受付の人が麻袋といくつかの硬貨を置いてくれる。


「金貨三枚と銀貨二十枚、銅貨八枚……ですね」


 ……?

 しまった、お金の価値が分からないから驚けばいいのか渋い顔すればいいのか分からない……。

 ここは親切そうだからまだいいけど、外に行ったら気を付けないと……。


「ど、どうかしましたか……?」


 私が硬貨を見つめながら眉を顰めていると、受付の人が震えた声で恐る恐る質問してくる。


「あ゛……?」


 うっ……ヤバいなんか変な声出た……。


「す、すみません!」


 え!?なに!?


「渡された素材には傷……状態が……いえ、あの……」


「何ですか?」


 なんの話してるの?なんでこの人は謝ってるの!?


「おいおい、何やってんだヒノ……?って、なんで受付嬢が泣いてんの?」


 泣いてなんか……え、ホントに泣いてる。え、なにかしたっけ?


「……わかんない」


「まあいいけど、幾らだったんだ?」


 ……幾らだっけ?覚えてないんだけど……。


「これくらい」


 幾らか覚えていなかったので、カウンターに出された硬貨を指さす。

 すると受付の人は何故かビクッと肩を震わせる。


「……?」


 リアムは首を傾げながら硬貨を覗く。


「金貨三枚と銀貨数十枚……まあこんなもんか?」


 ああ、普通なのね。この人の反応からしてカモられたのかと思った。疑ってすみません……。


「で、なんでそんなビクビクしてるの?」


 知らないよりは知っていた方が良いと思ったので、聞いてみる。


「い、いえ、ちょ」


 おどおどしている人の後ろから他の人が出てくる。

 あ……さっきの人だ。


「アイガサ様、失礼しました。時折金額に納得しないお客様もいらっしゃいますので、緊張してしまったのだと水に流していただけたらと……」


 いや、よく分かんないんだけど……?


「ああ、なるほど」


「……!?」


 わかったの!?どゆこと!?


「ヒノもまあ、これでいいんだろ?」


「うん……?うん」


「な?」


 なにが!?なんで頷いてるの!?


「はい、ありがとうございました。またお越しください」


 深々と頭を下げる受付の二人。

 こうして、私は意味の分からないままザワついた冒険者組合を出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る