第15話・雨曝し

 私はこの村、フェルローラ村で面倒を見てもらってから二ヶ月が経ち、この世界の言葉も完璧にマスターしたと思う!結構早い方なんじゃないかな!?


 と、言う事でこれ以上この村にお世話になる訳にはいかない。

 村人、特に老人達には歓迎されていないみたいで、あれ以降乱暴はされていないが確実に避けられている。

 ……正直、意味が分からないよね。

 リアムから聞いたところ、老人らはあの疫病、毒魔っていうらしいんだけど、それを私がこの村に解き放った張本人だって主張しているらしい。


 ……。


 は……?いや、ホントに。

 

 彼らは私をあの惨事を引き起こした犯人に仕立て上げたいらしい。

 なぜそのような考えに至ったのかを聞くと、「この村に恩を売ることで金銭をせしめようとしている」と答えられた。

 はぁ……。

 落ち着け私、明日にはもうこの村を出るんだから……。

 気分を変えるために立ち上がり、外に出ようとするとポツポツと雨が降り始めていた。

 

 結構強くなってきた……明日には晴れるかな?雨降ってたら、まあ延期かな。

 それに案内してくれる人も見つかってないからね。村を離れられないって理由でリアムにもシエラにも断られちゃったし。


「ヒノさん、リアム見てませんか?」


 私が外を眺めていると、そんな声が部屋の奥からシエラが聞いてくる。


「見てないけど、どうしたの?」


 外は雨降ってるし、急ぎの用事じゃないなら明日にした方が良さそうだけど。


「えっと……村長が今日話があるって……昨日伝え忘れちゃって……」


 げ、村長さんか……怒ると怖そうなんだよね。仕方ない、私が探してこようかな。


「そう、私が探してくる」


「え、いいんですか?」


「うん、クロが外にいるから一緒に探してくる」


 ちなみにこの村に来る前、樹の家を拠点にしてた時に雨が降って、中に入る?って聞いたんだけどクロからしたら雨も晴れも変わらないらしい。ホントに凄いね。

 ということで私は外に出て、傘がないのでクロにお願いして大きな翼を傘替わりに外に出ることにした。

 この大きい翼は私を覆い隠しても尚あまりあるサイズなので、雨粒一つ当たらない。

 この大雨だからすぐ家に帰って来ると思うんだけど、ノックしても特に反応がなかった。


「どこにいるんだろうね」


 外にいるのかな……あ、もしかしてあそこかな。


「クロ、こっち」


 私は確信に近い何かを持って雨の中を進んでいき、目的地には雨曝しのリアムが座っていた。


「クロ……待ってて。話してくる」


 私はクロの翼から出て雨に打たれながら進み、リアムの隣で止まる。

 リアムの前にあるのは、リアムの恋人であるメルさんのお墓だ。


「メルさん、いい人なんだってね」


 最近は立ち直ったのかと思っていたけれど、そんな簡単に受け入れられる訳ないよね……。

 私には…何ができるんだろう。


「……ああ」

 

 そのまま無言が続き、強くなる雨の音だけが二人の耳に入っていく。


「メルは……優しい奴だった。本当に……誰にでもな…」


「……そうね」


 村のみんなから彼女のことは沢山聞いていた。

 だからこそ、村の人々はリアムを心配して気を遣っていた。多分、リアムもこれ以上気を遣わせまいと気張ってきたのだと思う。

 だったら……部外者の私が彼の中に溜まった泥を吐き出させてあげたい。


「俺は……なんつーかさ……」


 リアムは目元を押さえ、震える声が強い雨の中私に届く。


「そんなアイツが……大好きだっだんだ……」


 今にも消えてしまいそうな、この世のどんな言葉よりも悲痛な叫びだった。

 私は、多分何を言っても力にはなれない。彼の辛さは彼自身にしか理解できないのだから。

 私はリアムの背中に手を伸ばし、優しく擦る。


「俺は……もしかしたら全部アイツの為だったのかもしれない……時々、他の奴らがメルの代わりに……」


「……そうだとしても、リアムが彼らにとっての命の恩人であることに変わりは無いよ」


 私は彼がこの村の誰よりも、この村を生かそうとしていたのを知ってる。だから、彼が自分を責めるようなことは私が許さない。


「……そうだな。聞かなかった事にしてくれ……なぁ……そうだろ、メル……」


 雨の音に掻き消えるのは、誰かの啜り泣く声。

 私は何も聞いてないし、何も見てない。


 「俺は、いや俺達は、前に進まなきゃな……」


 ……雨が弱くなってきた。

 リアムが立ち上がり、先程までの大雨の元に太陽の光が差し込む。


「ヒノ、案内人を探してたな。俺が行こう」


「ほんと?……助かるよ」


 空には虹が架かっていた。

 


「あ、村長が呼んでるってさ」


 伝えるの忘れてた……結構遅くなっちゃったけど、大丈夫かな。

 それを聞いたリアムは露骨に嫌そうな顔をする。

 わかるよ、私もあの人苦手。初めて会った時にも襲われそうになったし。


「はぁ……わかった。行ってくるか……」


 気だるそうにとぼとぼと村長の家に向かって歩き始めるリアム。

 濡れたままでいいのだろうか。ま、あの村長がマナーという言葉を知ってるのか疑問だけどね。


「うん。じゃ」


「ああ……悪いな、助かった」


「気にしないで」


 うん、リアムがルステアまで案内してくれるって言ってくれたから、これは大助かりだね。よかったよかった。


「クロ、帰ろっか」


 びしょ濡れだし、帰って着替えないと……もし風邪でも引いたら延期になって遅れちゃうからね。


「それに一旦家にも帰ろう。モンスターに荒らされたりしたら嫌だし」


 時々樹の家には帰っていたが、一度だけモンスターに荒らされていたことがあった。多分、ゴブリンだと思う。

 ……自分の部屋にGが出てきた時より絶望したよ。

 あの時壁に張り付いたGを撃退しようとしたら、羽を使って飛び出したことがあったんだよね。死ぬかと思ったよ。

 ……って、ゴキの話はいいよ。


 ま、ということで着替えてから村を出て懐かしの我が家に帰る。

 実に二週間ぶりくらいかな?

 入口は板で埋めて、クロが持ってきた大岩で大抵のモンスターには開けられないようにしている。多分、これなら大丈夫だと思う。

 クロに岩をどかしてもらい、特に変化のない家の中に入ってベッドに腰を下ろす。


 ふー……一人で落ち着くのは久しぶりだね。

 フェルローラ村で生活をしてこの世界の常識はある程度理解することができた。

 特に、魔法に関しては多くの人間が使えるらしい。そして、他にも元の世界では使えないような力が存在するという。

 これで驚いたのは、村人の約半分が少なからず魔法を使えるということ……普通百人に一人とかじゃないの!?しかもほとんどの人が私の数倍魔法使えるんだけど……!?

 ま、『生産魔法』を使えるのは私だけらしくみんな驚いていた。ちなみに、多くの人が水を創り出せる魔法だった。


 次はクロを都市に連れて行けるのか。

 結果から言うと、これは諦めた。

 リアム曰く、クロを私の味方……言い方を変えればペットとして扱い街の中に入ること自体は可能だという。

 この場合、私はテイマーと呼ばれる能力を持つことになるらしい。魔物使いってやつかな?

 しかし、問題は街の治安を維持してる人らがクロをどう見るか。問題はこれだ。

 大きく分けると二つ。

 一つ目は、都市の治安を守る騎士。

 二つ目は、危険なモンスターを討伐して報酬を得る冒険者組合に所属する冒険者。

 ……うん、説明しなくてもわかるよね。

 

 ……クロが狙われるリスク。

 これに関しては命の危険だけじゃない。リアムの言い方から察するに、人と敵対しない竜は聞いたことがないという様子だった。

 そう……人の味方をする竜の利用価値。それを狙う人間が居ないはずがない。私が興味があるというだけで、クロをそんな危険な目に付き合わせる訳にはいかない。

 

 ということで、都市には私一人で行くことにした。大丈夫なのかって?まあ……多分ね。

 その間クロはリアムが面倒を見てくれるらしい。

 危険かもしれないけど、人の街に行くとクロの食料が持たないんだよね。ほら、あの巨体を維持するためにゴブリン三体くらいはおやつ感覚だし。

 そう、悲しいことにクロは人の世界で住むには圧倒的に不向きなんです。


「それと……」


 部屋の隅に置いてある麻袋の中を開く。

 角の生えてた大きいゴブリンの角やら角の生えた狼の角やら……。リアムは金になるって言ってたけど、ゲームで言うところの換金アイテムと言った所かな。

 まあ、お金は欲しい。

 街にどんなのが売ってるのか気になるし、魔力が少ないことをリアムに相談した時に聞いたポーションという飲み物にも興味がある。

 ポーションというからにはMPを回復する飲み物ってイメージ。無理だったら悲しいから期待はしないけど、魔力を増やせる可能性もあるね。それに、この世界の料理とかにも興味があるし。


 うん、楽しみ。

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