第14話・ドブ
村人達を助けてからはかなり大変だった。
助けた代わりに何かを要求するつもりはないんだけど……この村の高齢者の方々はどうにも頭がおかしい。
まず、そもそも私は彼らの言葉が分からないのでそう伝えるも信じてもらえなかった。
幸い、私の言葉が通じるだけマシなんだけど……これに関してはよく分からない。そもそも嘘をつくメリットもないし……しかし、なんであんなことになったんだろう。
……何が起きたのかを簡潔に説明すると……。
村人を助けてからは、周りから一目置かれているっぽい貫禄のあるおじいさんが私を少し大きめの家に招いてきた。
クロを連れて行ったけど、家の中には入れないので外に待つように伝える。
そして中に入り、私が言葉をわからないと言うが冗談だと思われたのか笑われた。
それからはベラベラと意味のわからない言葉を並べて、突然怒り出した老人達が手を伸ばして私は絶体絶命。その時、私をこの村に案内した男の人が殴り込んできた。
そして、異変を察知したクロが家の扉を突き破ってこの話はおしまい。
うん、なんでやねん!
あれは……ゴブリンに囲まれた時より怖かったんじゃないかな……。人間なら安心できると思った私も油断し過ぎたと思う。その後クロに叱らてしまった。
……ほんとに怖かった。
それは一旦置いておいて、あの老人達が何を話していたのかは分からないが、この村でクロから離れないようにしよう。確実に信用できるのは私をこの村に案内した男の人と最初の少女だけだ。
というか、もう家に帰ればいいだろって?ダメダメ、もし私が居なくなって再発したらどうするのさ。
ただの唾液だし……用心に越したことはないと思う。
しかし、このまま話せないのは不便なので私を案内した男の人に、私が助けた代わりに言葉を教えてくれるように頼み込んだ。
対する男の人も頷いてくれて、今現在私は最初に出会った少女の家で言葉を教えて貰っていた。
彼は大切な人を亡くしてしまったが、最近では精神的にもかなり回復してきたと思う。本当に、強い人だね。
ちなみにクロは窓から覗いている。
「◎△$、♪×¥●&%#?」
……うん、全くわからん!
勉強を初めてまだ三日なので仕方がないけど、しっかり聞き取れるようになるのか不安になってきた……。
「◎△$♪×¥●&%#」
あれ?なんか聞き取れてきたかも。
勉強の方法は、最初は簡単な単語を覚えて使える単語を増やしていく作戦だ。
私の言葉は勝手に翻訳されるので、私はリスニングだけできるようになればいいのだから簡単……のはず。
「私◎△$、♪×¥●&%#?」
あ、自分の事を言ってるのは何となくわかる。昨日教えてもらった言葉だ。
うん、まだまだ先は長そうです。
他にも勉強だけでなく、家で繰り返していた鞍の調整、飛行訓練もこの村でやることにした。
私とクロは村人達に歓迎させられてると思うのだが、やはりクロが怖いのか話しかけてきたりはしなかった。それでも、もう少しは警戒を解いてくれてもいいんじゃないかな。
まあ……コミュ症の私からしたら助かるんだけど、信用されてないのはちょっとだけ寂しいね。
しかし村の子供らは好奇心が強く、クロの事をぺたぺたと触っている。……これはこれで凄い。
言葉を覚えてからのことは……もっと人の多いところに行って観光とかするのもいいかもしれないね。
クロがいれば移動手段に困ることはないし、このまま色んな国を旅するのもいいかもしれない。
うんうん、空の旅とかロマンだよね……。クロにも聞いてみよう。
「ねえ、クロ……って」
クロの方を振り返ると、尻尾に子供を乗せてクルクルと回していた。
「……楽しそうねアンタ」
「ガル」
まあ、本人が楽しめてるなら私はいいんだけど、怪我させないようにしてよね……怒られたくないし。
……でも、ちょっと楽しそう……。
「……私も混ぜて」
うん、その後はみんなで日が暮れるまで遊んだ。
そして、そんなことを繰り返して生活していると、いつの間にか約一ヶ月が経過していました。
ええ、もちろんちゃんと勉強もしましたよ!勉強も!ね。
流石に要領の悪い私でもそれくらいの期間ここで暮らしていると、大体の意味は理解できてきた。
「ヒノは、村の次、どこいく?」
初めて出会った少女の名はシエラ。
言葉を少し理解できるようになってからは、疫病に関する話を色んな人から聞いていた。
そして、あの時にシエラを一人で村に帰したのは間違いだったことに気付いた。
そもそも、あの危険な森に女の子を一人で送るのは死にに行かせているようなものだったらしい。
うん、やらかした……確かにその通りだ。私はなんてことを……。
神が味方したのかモンスターには襲われなかったらしいが、それは結果論でかなり過酷な帰路だったのだという。
大変申し訳ないことをしてしまった。だからせめてもの償いにシエラには『生産魔法』で色々と創ってあげた。他の子も来たけどね。
「私はルステアに行く」
色々と悩んだけど、この世界についても結構興味があるのでこの村から近いという都市、名をルステア。
そこに向かう事に決めた。
そして問題はクロを連れて行けないということ。
村の人に相談すると、やはり竜は人間を襲う種族らしく都市を守る騎士に討伐隊を組まれる可能性もあるのだとか。全く失礼な話である。
……うん、絶対にバレちゃダメってことだね。
でも、行くとしてももう少し言葉がスラスラ聞こえるようになってからかな。
「行く?」
「うん、行くよ。まだしばらく残るけど」
よっこらせと立ち上がり、外に出て暇そうな……いや、子供たちと遊んで楽しそうなクロを見つける。
「何持ってるの?」
クロと遊んでいる子供の内の一人、背中に籠を背負っていた男の子に声をかける。
もっと愛想良く話せればいいんだけどね。ちなみに、村の中ではそういう話し方なんだろうと納得しているらしい。……間違ってないし、逆に有難いかも。
「ドブ、捕まえに行くんだ!」
少年が指を指した方向にいる大人たちは、腕に太いロープを巻き、腰にカゴを下げて川の方向に向かっていた。
「ドブ?なにそれ」
「大きい、魚!」
「ふーん……?」
眺めていると、その中に私をこの村に案内した男の人、リアムの姿があった。
シエラの次に仲が良いのが彼で、働き手の減った村を引っ張るリーダーのような立場らしい。
そしてそのドブに興味がある私は彼に見学させて貰えないか、と交渉をする。
「構わない」
言質を取ったのでついて行くことにした。部屋にいても暇だからね!ちなみに今はシエラの家で居候してる。
あ、クロも一緒。何があるか分からないからね。
それにしても、ドブってなんだろう?あんな太いロープで捕まえるってことは相当大きいのかな?
私は未知の生物にワクワクしながら進んでいくと、川の浅瀬に辿り着く。
「何してるの?」
リアムがロープの先にある大きな針に何かを付けている。多分、餌かな?カエル……にしては大きいけど。
「見てろ」
はい。わかりましたー。
リアムは上半身の服を脱ぎ、筋肉質な体が顕になる。
わ、すごいマッチョ。何するんだろう。
じゃぶじゃぶと川に入って行き、何かを探している。
そして、ついに何かを見つけたのかそこに餌をつけたロープを入れている。
穴があるのかな?ロープをいれてるみたいだけど……。
「ふんッ……!」
突然リアムの腕がグンッと川に引きずり込まれるが、リアムも抵抗して腕に巻いたロープを引っ張っている。
「大丈夫?なの?これ……」
見てろ、と言われたからには何も手を出さない方がいいのかな、と思いハラハラしながら見守る。
ギギギギ、と錆びた機械のように震え出し、やがて少しずつリアムの腕が上がっていく。
ある程度引っ張るとロープの出し入れを激しく繰り返し、相手の体力を奪っているように見えた。
「んんッッ!」
そして、大物を引きずり出した。
おおお……!?
おぉぉー?
おぉ…………?
うーん、例えるなら……超巨大なナマズ……かなぁ?でっか、一メートル以上ある。
「どうだ」
凄いドヤ顔で見てくる。
いや、凄いんだけど……うん、まあ凄い。
「それ貸して」
その顔にイラッとした私は意地悪な考えが思い浮かんでしまった。
「やめろ、怪我する」
ふふ、やるのは私じゃない。
「クロ?」
私は心の中でニヤリと笑う。多分クロも。
引き気味のリアムからロープと餌のカエルを貰い、餌を付けてロープをクロに咥えさせる。
……昔はカエル触れなかったのに、まあ成長したってことかな……?
それはさておき、バシャバシャとクロは川に入り、鋭い視力でドブの住処を見つけ……バシャン!
巨大なナマズ、ドブが空中を舞い地面に落ちる。
楽しくなってしまったのか、日が暮れるまでクロは続けていた。
そう、大漁だった。
その日はドブ祭りだったけど、あんまり口には合わなかった。美味しかったけどね?ちょっとだけ硬かった……。
クロはめちゃくちゃ美味しそうに食べてたけど、魚が好きなのかもしれない。
リアムはクロに負けたのがのショックだったのか、一口も食べなかった。うん、負けず嫌いなんだね。
そして、さらに一ヶ月。
私はカルセア王国の、都市ルステアに向かう事を決めた。
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