第10話・飛行

 おはようございます。

 私がこの世界で生活を始めてから、かなりの時間が経過した。

 この数日何をしていたのかと言うと……ずーっとクロの霧を抑える練習を続けてました。

 そしてなんと、ついに完全に抑えることができました!

 いやいや、よかったよ……。そのままじゃクロが私以外に近付けないからね。


 当然、それだけじゃないよ?


 私もほぼ毎日筋トレのような生活を送っていたので、運動音痴ながらもある程度の体力と筋力は手に入ったと思う……いや、男なら素直に喜べたんだけど複雑な気分ね……。

 ま、ということで世界に来て生活もある程度安定してきた訳です。だからこそ、今までやりたかったことを今日は二つ終わらせたい。


 ズバリ。

 飛行と風呂である。

 後者に関してはわかるよね?川の水が冷たいんですよ!

 しかし、私の手で風呂を作るのとか絶対失敗するから遠回しにしてたんだけど、もう我慢できない。絶対に完成させる。

 飛行に関しては、ちょっと前にクロの背中に乗った時鞍が欲しいなって思ったからそれを作ってみたい。

 試行錯誤は必要だけど、もしも私を乗せて飛べるとしたら人の街を探すのがかなり楽になると思う。

 乗りこなせるかは……まあ、別の話だけどね。

 よし、そうと決まれば最初は鞍を創ってみよう。


「クロー?起きてる?」


 外に出るとクロが丸まって目を細めており、先程まで寝ていたらしい。起こしてごめんね。

 というのも、今までずっと霧を抑える練習をしていたので疲れが溜まっている……って気にしてなかったけど竜って寝る必要あるんだね。


「クロの背中に乗りやすいように鞍を付けたいんだけど、いいかな?」


 当然本人が嫌だと言うなら無理強いはしない。そう思いながらクロを見るとそこら辺を走り回っていた。

 うん、やったね。


 そしてこの数週間で私は『生産魔法』の新しい法則に気付いた。

 それは、完成品よりもその素材の方が圧倒的に消費魔力が少ないということ。

 例えばおにぎりを作るなら、おにぎりという完成品よりもお米を出した方がいいってこと。それはおよそ二倍の差があるのがわかった。

 うーん、まあ手数料が掛かるって考えてくれたら問題ないかも。


 今回の鞍に関しては完成品を創るけどね。

 だって素材とか分かんないし、それを作れるほど私は器用じゃないんだよ!


「鞍」


 久しぶりに詠唱し手には五キロ程の、通常の馬より大きめの鞍が創り出されていた。

 この魔法は使い慣れてからかなり創れる幅が広がり、感覚では私の体積分くらいは……ってそんなに創れないかも。まあ、この鞍より大きいのは創れないって感じかな。


「クロ、ちょっとこれ着けてみていい?」


 クロは頷いて身を低くし、大人しくしてくれる。

 しかし、五キロの鞍は予想よりも重く大きなクロに登るのはかなりの重労働だ。

 え、筋肉が増えたんじゃないかって?あれは嘘だ。


「はぁ、はぁ……よし、どうかな?」


 鞍のサイズは結構ピッタリなのだが、クロはどんな感じだろうか。


「どう?少し動いてみて」


 クロは体を動かしたり、軽く飛んだりして確認している。私からみたら問題なさそうなんだけど、どうだろう?


「グルル」


 うん、問題なさそう。

 え、わかるのかって?いやわかるよ。


「早速乗ってもいい?」


 毎日空を飛んでいるクロを眺めていると、あんまり絶叫系が好きじゃない私でも乗ってみたくなってしまった。

 クロの方もノリノリらしく、早速乗せてもらうことにした。


「じゃあ失礼して……」


 よいしょと背中に乗り、クロが立ち上がると浮遊感と共に今までとは違う景色が見えた。

 おー!これはいい感じかも……っていうか、飛んでる時にこの手網話したら……ああ、やばい急に怖くなってきた。色々改良の余地ありだね……。


「ゆっくりできる?落ちない程度でいいから」


 そもそもこの巨体でどうやって浮いてるんだろう?鳥とか虫って軽いから飛べてるんだし……ま、魔法がある時点で私の常識が通用するはずないんだよね。

 クロが巨大な翼を広げると、十メートル程になり力強く羽ばたかせる。

 ぐわんぐわんと浮かび上がり、家がどんどん遠くなっていく。


「ッ……」


 うん……正直掴まっているだけで精一杯です……。

 私は元々ジェットコースターでも顔を上げられないタイプ……だったはずなんだけど、あれ?意外と平気かも。

 ビクビクしながら少しずつ顔を上げると、そこには美しい光景が広がっていた。


「おぉぉぉ……!」


 森がどこまでも続いていて、空を見上げると晴天が私を出迎えてくれる。

 いやぁ……凄い。ってかこの森広すぎるでしょ……どこまでも続いてるし、歩いてだと人にも会えなさそうだなぁ。

 首を動かして別の方向、初めてクロと出会った川の上流の方向を見入ると森が終わっていた。

 あ……あの女の子と会った方向かな。森もなくなってるし、あっちの方に街でもあるのかな?って、なんか鞍がずれてる?


「ありがと、鞍が緩くなってるから一回降りよう」


 気付いてよかった……。

 まあまあ、竜用の鞍なんてわからないので工夫していくしかないよね。

 クロが気を使ってくれたのか、ゆっくりと降りてくれる。


「ありがと」


 クロにお礼を言いつつ地面に降りる。

 一応成功かな!何回か調整が必要そうだけど、この調子ならすぐ飛び回れそう。それに、いつか人のいる場所も目指していきたいけど、まだ早いね。


 さて、次はお風呂制作に移ります。

 まず、どんな形の風呂にするかっていう問題なんだけど。

 元の世界のプラスチックみたいなお風呂は難しそうなので、もっと前……木桶を使うお風呂を作りたいね。うん、そうしよう。

 じゃあ、人一人分くらいの木桶にするとしてどうやって中の水を温めるのか……ってことなんだよね。

 別のところに大きな鍋みたいの用意して温めて……いやいや、それだと時間が掛かりすぎるよね。

 うん、なら直接温める感じ……でも下を金属にして鍋みたいにすると温度の調整とか一人だと難しそう。ほら、一番よく見る古いお風呂ね。

 ならどうするか……。

 あ、そういえば金属の筒を入れてそこに薪を入れる……みたいなの見た事あるからやってみよう。金属は消費魔力多いからね、こっちの方が簡単そう。


 そういうことで長い時間かけて『生産魔法』を使っては、魔力の回復を待ってを繰り返す。やっぱり魔力の少なさは今後の課題……どうしようもないかもしれないけどね。


 魔力が足りないのでいきなり完成!とはいかなかった。

 パーツごとに創り、まずはお風呂の床の部分。壁が上手く嵌められるように一部穴を開けて直径一メートルくらいの円形を創った。

 それをくるりと囲めるようなパーツを創る。うん、これも縦一メートルくらい。

 ここで大切なのが、壁に綺麗に穴を開ける必要がある。『生産魔法』の良いところはそこら辺の加工が自由自在ということ。

 壁用のパーツに、私の手を開いた時の長さを直径とした円形の穴を開け、それと同じサイズの金属の筒をL字に用意する。

 I字で突き刺す形でもいいけど、外からでも薪を入れられるようにした方がいいかな、と思ってこうしてみた。後で変えれるし、塞げばいいだけだからね。

 そして、お風呂に入ってる時に筒に触れて火傷しないように柵みたいなのを中に作っておく。


 多分、これでほぼ完成だと思う。

 実は制作までそんな時間が掛からなかったけど、このパーツを創るのがめちゃくちゃ時間掛かっていました。

 気がつけば空は真っ暗……。


 そうだ、今日の疲れをこのお風呂で癒そうではないか!


「クロー!手伝ってー!」


 クロには薪を燃やさせて、私は風呂の中に水を貯めていく。うん、水も漏れてないしいい感じ。

 川から汲んできたからちょっと土とか入ってるけど、これは気にしても仕方ないね。

 そろそろいいかな、とクロが燃やした薪を筒の中に入れていく。

 それから約一時間、かなり温まってきた。


 ということで!この世界初のお風呂が完成しました!


 私は嬉々として服を脱いぎ、ゆっくりと中に入っていく。


「はぁ〜」


 温かい……。うん、泣きそう……。

 元の世界の風呂とは比べ物にならないくらい気持ちいいし、やっぱりお風呂は温かくないとね。

 これで震えて水浴びする必要もなくなったし……作ってほんと良かった……。


「あぁ……気持ちいい……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る