第8話・閃き
少女が家を出てからそろそろ三日程が経過し、長い間私の怪我していた足は完全に元通りに治っていた。
長かった……!本当に長かった……!これでやっと自由に動き回れる……!
はぁ……ゲームの世界だったら一日寝るだけで回復するのに……現実は厳しいね。
っとまあ、そんなことを考えながらも私は川で顔を洗って、動きやすい服装に着替える。
何故かって……?狩りをするためだよ。
いや、ホント。特にこの世界では前の世界とは比べ物にならないほど危険が多いし、最低限自給自足ができるようになっておきたいといった部分が大きい。
まあ…魔法を使えば必要ないんだけど……今回ばかりはそうもいかない。
今まで襲ってきた相手がクロに殺されて、まあ仕方ないよね。と思っていたけど、いつかは私自身の選択で殺す日が必ず来る。だったら、中途半端は一番良くないと思う。
それが今回の狩りをする理由。
でも、狩りってどうすればいいの?
そう、これが問題だった。
狩りなんて知らないし、私の武器はナイフ一本。というか、これ以上の刃物は創れなかった。
ナイフでいいんだけどね。もしもこれより大きかったら持てないだろうし……でも問題は私が運動音痴だということ。多分獲物を見つけても追いつけないし、隠れて近付くなんてもっと無理。
……あれ?これ無理なのでは?
いやいや、やりもしないで諦めてどうする私!なんでもいいから、とにかくやってみよう。
「はぁ……」
……ええ、無理でしたよ。笑いたければ笑いなさい。
でも、今回はクロが私に付き添ったので獲物…殆どがゴブリンだけど…が霧で勝手に倒れてしまうという事件が多発した。故に、試合には負けたが勝負には……まあ、クロの力だから勝ってないけど。
という訳で再びチャレンジ!
今度はクロに離れているよう伝え、ナイフを右手に森の中を進んでいく。
いやーなんか久しぶりな感じするなぁ……。そもそも森の中を自分の足で自由に歩き回るのが久しぶりだからね。
ちょっと気分が良くなりつつ、森の中で獲物を探していくが……。
一時間。
二時間。
三時間。
うん、全然居ない。挫けそう……。
時折ゴブリンやら狼みたいな獣を見つけてはクロのご飯になったけど、小動物らしき影はひとつもなかった。
もしかして……この森にウサギとかいないのかな……?そう言われるとまだ一度も見かけてない気がするし、いない可能性も十分ある。
と言っても、今日くらいは探すつもりだけどね。
そして更に一時間。もうそろそろお昼の時間ですが。
「いない……」
まあ…仕方ない。今回はキッパリと諦め……。
パキッ……バラパラ……。
「ん……?」
枝の折れる音……?それに葉っぱ。
なんだろう、と上を見上げると……。
いたぁぁぁぁ!ウサギ!!なんで木の上にいるの?!
……でも、どうやって捕まえればいいの?
私はああ、と納得してしまった。
私やゴブリンみたいなのが木に登るのが苦手ってことを理解してるんだ。だから木に登って生活してるのかもしれない……。
でも、諦めない。諦めたくない……。
運が良い事にウサギはひとつの太い枝に座って私を眺めていて、その周りに邪魔になる枝はなかった。高さは私が手を伸ばして一メートル程。
どうにか落とす方法はないかな……うーん……。網とか投げてたらいけるかな。
うん。そうと決まれば早速『生産魔法』で創り出せる最大の網を創り出し……えいっ!
……パサ。
私を捕まえてどうするよ……。あ、逃げた。
「グルル……!?」
「……聞かないで」
不器用な自分が恥ずかしく思えてくる。
ま、まあこればかりはトライアンドエラー。失敗は成功の母なんだから……。
しかし、その後ウサギを見つけることはできず、ただただ疲労が溜まってしまうだけに終わった。
もう暗いし……今日は諦めよう。でも……ウサギ可愛かったな。あれを……殺せるかな。
改めて思うと普通のウサギとは形が違ったけど、ほぼ同じような可愛らしい見た目だったので少なからず抵抗があった。
まあまあ、続きはまた明日かな。
周囲が暗くなり始める前に家に戻り水浴びをして着替え、服を洗って木の枝に掛けた棒の所に干しておく。
暗くなってからでもいいんだけど、本当に冷たい水だから体が冷えちゃうんだよね。
「クロ、お願いしていい?」
そして、新しい発見。
クロはあの様子から子供だと思っていたが、それでも竜の端くれ。なんと、炎を吐くことができるんです!
ブォーと組み立てた薪に優しく炎を当て続け、止めてみると薪に炎が宿った。
「ありがとう、本当に助かるよ」
冷えた体は温めないと風邪を引いちゃうからね……。これに何度助けられたか……。
初めて見た時は、炎の勢いが強すぎて森が火事になってしまうところだったのはいい思い出……うん、気を付けないとね。
「はぁ……」
今日はあまり進捗もなかったので落ち込んでいると、クロが心配してか顔を近付けてくる。
そういえば、ウサギは孤独死するとか言われてるけど、私もクロが居なかったら何もできなかったんだろうな……。
「なんでもないよ。ありがとね」
それから私たちは言葉も発さず、ただゆらゆらと自由自在に揺れ動く炎を眺めていた。
いつの間にか空はクロのような漆黒に染められていて、輝く星々が反射する鱗のようにも見えて綺麗だった。
「もう寝ようか」
その言葉を聞いたクロは頷いて私と共に家の方に行き、丸まって眠りにつく。
「おやすみ、クロ」
そして、新しい朝が来た!
今日こそあの憎き可愛いウサギを仕留めてやる!
モフモフのベッドから飛び降り、元気よく外に出る。
「クロー?」
あれ?居ない……?ってことは……。
予想通り空を見上げて少し待っていると、クロが何か巨体な獲物を持ってズドンと飛び降りてくる。
「おはよ、今日はいつもより大きいね」
ドヤァ!と胸を張るクロ。しかし、正直こんな大物を掴んで飛べるというのが普通に凄い。
ま、ウサギすら倒せない私からしたらこんな大物倒せるだけで凄いんだけど……。
「それにしても……こいつ…なに?」
一本の角が生えた大きな狼みたいな……私の倍くらいの大きさはあるよ……?今までのゴブリンとかとは比べ物にならないくらい。
「こんなのどうやって……」
大きさはクロの方が断然大きいけど凄い……っていうか、黒い霧があるから大抵倒せるのか……そっか。
「羨ま……って、食べていいよ?」
わざわざ私の許可を取る必要もないんだけど、まあ言うことを聞いてくれるのはちょっと嬉しい。
無我夢中に食べているクロを眺めながらそんなことを考えると、クロが食べている所から濃い霧が漏れているのが見えた。
「?」
どういうことだろう?体から出してるやつとは違うみたいだけど……口からも出せるのかな?
うーん……あ、もしかしたら呼吸……?いや唾液かな?
「クロ。ちょっとごめんね、口を開いてみてくれる?」
言われた通りクロが口を開けると、地面に垂れた涎が蒸発?して霧に変わっていた。
この霧はクロの体液が蒸発して出てるのかな?どういう原理かは分からないけど、多分合ってると思う。
「ありがとう、もういいよ」
竜も汗とかかくのかな?もし努力したら霧を止められたり……うん、後で試してみよう。
ん……!?
っていうか…もしかしたらこの唾液使えるんじゃない?
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