第6話・黒い霧
おはようございます。
異世界の朝は元の世界とほぼ変わらず、唯一変わったことといえば目が覚める場所くらいでしょうか。
こんな床だというのに快眠する事ができたのは私の隠された特技の一つに追加ということで、全然嬉しくな……いや結構嬉しいかも。
ゴホン。まあそれは置いといて、今日は『生産魔法』について詳しく調べていきたいな。特に一度満タンの魔力で創り出せる量と、物、回復までにどれくらいの時間がかかるのかといった内容をだ。
「よいしょ……痛だだだ」
いぃぃぃ……突然私の右足から激痛が……。
慌てて足を見ると昨日よりも酷くなっており、今まで見た事ないような惨事になっている。
やばい、最初から問題だらけだった……。とにかく、冷やさないと……。
慌てて外に向かい、『生産魔法』でタオルを創りすぐ近くの小川で濡らして患部に括り付ける。
ぐぅ……沁みるぅ……。でもここでできるのはこれくらい……かな。菌とか怖いけど、悪化しないことを願うしかないね。
「グルルルル」
「おはよう、クロ」
首を縦に振りつつ、クロは私の怪我した右足の匂いを嗅いでいる。
竜って猫とか犬に似てない?友達の家に行った時の飼い犬の様子がこんな感じだったなぁ。
って、それは今はいいんだよ。そんなことより、もう一回魔法使っちゃったし、他のことでも考えようかな。
「お腹……空いてる?」
私は『生産魔法』で済ませることができるが、クロに関してはそんな簡単にはいかない。
首を横に振るクロ。
もしかしたら、既に狩りに行って満腹になってるのかもしれない。
「ガル」
「ん?」
クロは突然走り出し、何かを森の方から引き摺って私の目の前に持ってくる。
うん、ビンゴ。これ以上は言わせないで。
何事も無かったかのように私は家の中に戻り、外が見えるように入口は開けておく。これが私の隠れ特技の一つ、スルースキルである。
ちなみにこの世界は蚊やらハエが居ないみたいで、小さな虫すらまだ見かけていない。ま、私からしたら大変有難いんですけどね!
それと、クロが自分で自分の分の食べ物を取ってきてくれるというのは正直安心した。私がこんな様子じゃ何もできないからね。
「はぁ〜……」
この怪我さえなければ、やれることは多いんだけどな。仕方ない、治るまで魔法で遊んで……お風呂にも入りたいんだけどそこの川の水を汲んで水浴びくらいしかない……か。
一人の女として嫌ではあるが、水があるだけラッキーなのかもしれない。そう、我儘を言える状況では無いのは私が一番分かってる。
よし、それじゃ『生産魔法』で色々創っていきますか!
まず必要なのは衣服。
下着も無いし靴とかもないから創っていかないといけない。
まず必要な下着を創ったんだけど……たったそれだけで使える魔力の全てを使ってしまったみたい……。
いや少なっ!タオル一枚と下着だけで使える魔力が無くなるってことは……かなり使える魔力って少ないの……?
そういえば、神様も似たような事を言っていたような……。まあ、使えるだけ贅沢なんだけどね。
また使えるまでどれくらい掛かるのかな?前は一時間くらいしたら使えた気がするんだけど……ま、今は待つしかないよね。
そんなことを考えてゴロゴロしていると、外から何度も聞いたクロの咆哮が聞こえてくる。
え、なになになに!?何が起きてるの!?
「……クロ!?」
慌てて外を見ると、大型犬くらいの大きさの獣が三体程がクロの前に立っていた。
あれは……なに?犬みたいだけど見たことない……。大丈夫かな……私にも何か……。
しかし、私の考えは杞憂に終わった。
クロが飛び出し獣はクロに襲いかかったのだが、数秒もしない内にバタバタと倒れ出した。
「え……?」
クロは何もしてないはず……なんだけど……。
そんな驚きを他所に、クロは仕留めた獣を食べ始める。我ながら恐ろしい竜と友達になってしまった。
多分だけどあの霧?で倒れた……のかなぁ。でも私はなんともないし……どうなってるの?
「クロ?」
わからないけれど、とりあえず呼んでみる。
近くに寄ってきたクロにこの黒い霧について聞いてみたが、クロ自身もよく分かっていないらしい。
うーん、となると私が分かるわけないのかな?なら考えても仕方ないけど……ああ、そろそろ魔法使えるかな?
「あれ?」
魔法が一切使えなかった。
確かに魔法を使ってからそんなに時間は経ってないけど、さっき試した時はほんの少しでも魔力が手のひらに集まる感じはあったのに今回はそれすらなかった。
要するに、全く魔力が無くなったということ。
もしかして……この霧のせい?まさかね……。
……。
いや、それしかないか。
そういえば神様もこの世界と私の体は造りが違うとか言ってたし、この世界の生物には魔力が必要なのだとしたら辻褄が合う。
「?」
「いや ……私って運が良かったんだね」
もしも私がこの世界の体だとしたら、初めて会ったあの時に死んでいたということだ。
それに、ゴブリンに襲われたあの時離れた距離にいたゴブリンが突然倒れたのも、これで納得がいく。実は気になってんだよね。
うーん……っていうことはクロの近くでは魔法を使えないってことかな。いざという時は気を付けておこう。何があるかわからないからね。
「ありがと、続き食べてていいよ」
そう言うと、クロは倒した獲物を再び食べ始める。
うん、この状況にも慣れてきた。
初めはグロいとか怖いとか言ってたけど、もはやそれが普通というか、いちいち驚くのが疲れてきた。
「中に居るね」
それだけ言い残し私は中に入る。
それから一時間ほど経過し、ずっと外にいて寂しくないのかな、と思って時々外を見るが飛び回ったり走り回ったりと何やら楽しそうである。
えっと……クロってまだ竜の中では子供なのかな?
その考えにも当然理由がある。特に、あの甘え方や動き回るところがどこか子供っぽい……違ったらごめん。
っと、もうそろそろ魔法使えるかな?
そう思っておにぎりを創ってみる。
今思えば昨日からずっと食べていなかったので、気が付けば背中とお腹がくっつきそうなくらいの空腹だった。
「おいし」
この『生産魔法』の凄い所は考えた通りの物が創り出せるということだろう。
塩おにぎりを思い浮かべるとその通りのおにぎりが創られ、もしかして生き物は……と思ったけど、これはやめておこう……。できたとしても人としてダメな気がする。
……もしや最終兵器……?あ、内緒ね。
まとめると、一時間に一個。大きいものは創れないしベッドとかを作る時はパーツごとに創っていかないと厳しいかもしれない。
大体予想していた通りだけど、少し物足りない。どうせ魔法が使えるなら炎とか水とか出して遊び……いや、切磋琢磨して一生懸命生きたいと思ったのに。
うーん、この魔法でも不可能ではないと思うけど……やっぱり魔力の少なさが致命的だよね。魔力を増やせる方法があればいいんだけど……神様の言い方からして無理そうだし。
それと、この世界って四季とかあるのかな?冬とかあったら大変なことに……?寒くない時期にこの世界に来てホント良かった……。
「あれ?なら私……何度死にかけて……?」
いやいや、考え出したらキリがない問題なので考えなかったことにする。だってそんな事言ったら異世界に来ること自体有り得ないもんね。
そう、私は前を向いて進んでいくしかない。
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