二、いや、あやしすぎるだろ!
名も素性も教えられていないが、天帝曰く、"信頼できる者"とのことだ。
遅れて、黒装束を纏った不機嫌そうな面持ちの
「至急の用と聞き参りましたが、」
傍らに立つ黒衣の人物に視線だけ向け、怪訝そうに
「······一体どんな厄介事で?」
何か言いたそうな
「ふたりは"災禍の鬼"という存在を知っているかい?」
「数百年前に大虐殺を起こして天界から追放され、その後地上で多くの災いを齎し、厄災級の鬼となった
「確か、百人近い数の天界の者を殺して逃げたっていう、あの?」
ふたりの見解はそれぞれだったが、どちらも間違いではないと、
「天帝も天界もずっと彼を追っていて、この数百年間、噂だけがひとり歩きしている存在だ。それが最近、北の方で動きがあったようでね。君たちには様子を見に行ってもらいたいと思っている。これは天帝直々の依頼で、そこにいる者は同行者として使わされた武神だ。事の真意を見極めて、報告してもらいたい」
ふたりは、先程から気になっていた黒衣で顔を隠している人物の素性をようやく知ることができたわけだが、
「いや、あやしすぎるだろ!」
それには、
「それは、······否定しないが。天帝の使いだから、失礼のないように頼むよ」
「せめて名くらいは言えるだろう? 武神なら、俺たちと位はそんなに変わらない。それとも名乗れない事情でも?」
自分よりも少しだけ背の高いその黒衣の人物に、
「名は、······天帝からの許可がないと名乗れません。けれども、呼び名がなければおふたりも不便でしょう。私のことは、
「
「確かに変。君は、色々、変な存在」
本当に武神? という疑いの眼差しで、
「とにかく、任務は任務だから、しっかり頼むよ?」
お任せを、とふたりは儀式的な礼をした後、
この三人で本当に大丈夫だろうか······。先に見送った
******
数日前。
北のとある小さな村で起こった、惨殺事件。発見したのは、その地をたまたま見回りしていた天仙のひとりだった。
その小さな村から漂う、鉄の臭いに混じった腐臭。その凄惨な光景に、天仙は言葉を失う。そこには誰一人として生きている者はおらず、ちらばった肉片や血痕に思わず口を押える。
その光景は、かつて天界で行われた大虐殺の現場と酷似しており、その噂だけしか知らない天仙でさえそれだと確信するほどの、悲惨さ。
この村は襲われてから数日が経っていたこともあり、所々に飛び散っている大量の血は、地面や民家の壁に黒くこびり付いてしまっている。
今まで噂ばかりが先行し、実際にその現場を見た者はいなかった。
故に、その天仙は身の危険を感じる。早々に鳥の姿をした知らせの光鳥を天に放ち、自身も踵を返す。
なぜ、誰も見た者がいないのか。その理由を知っていたからだ。
見た者が
ぞくりと背筋が凍るのを感じた。
それも束の間、声を出す間もなく、その天仙の四肢がいくつもの肉片となり、バラバラと地面に崩れ落ちた。暗闇から伸びてきた何本もの赤黒い触手が、鋭い刃の形を作って天仙を亡き者にしたのだ。
天仙は決して弱くはない。それが一瞬にして命を奪われたのだから、相当の手練れか、神と名の付く存在に違いなかった。
触手は肉片と化した天仙に満足したのか、暗闇の先へと静かに戻って行く。
光鳥は難を逃れ、天へとその存在を告げた。
この一連の惨劇は、あの"災禍の鬼"の仕業に違いない、と。
しかし、そこには報告にあった凄惨な光景どころか、死体やバラバラにされた肉片、血の一滴も見つからなかった。
「一体、どういうことだ? 死体どころか、ただの寂れた廃村じゃん」
「確かにここから、光鳥は放たれたんだよね?」
光鳥は放たれた場所を正確に特定できる。
「あいつ、なにをしているんだ?」
「僕が知るわけないでしょ。それより、なにもないならないで、なかったという事実をちゃんと見極める必要はあるよ。それが任務だからね」
「って、言ってもなぁ······ん?」
「なんだこれ?」
それを拾い上げ、目の前に翳してみる。
「··········これは、」
見る角度によって反射し、不思議な色合いを浮かべる石の欠片のようなものに、
その答えは口にせず、顎に手を当てて考え始めてしまった
「
「そう。じゃあ答えはひとつだね」
ふたりで納得している様子に、
「俺にもわかるように説明しろ!」
ものすごく腹が立つ! と子供みたいに癇癪を起す
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