終章
一、お待たせしました!
「くそ! キリがない」
それでもこれほど無駄に消耗しているのは、あの切っても切っても生まれてくる触手のせいだろう。
見た目は確かに触手なのだが、剣で切った時の感触が全くない。つまり、実体がないのだ。実体がないくせに、こちらにはしっかり攻撃が当たる。
お陰でこの周りは見通しがだいぶ良くなった。木々が折れて吹き飛ばされ、空の範囲が最初の頃よりずっと広くなっている。雪が降り積もっていた地面は所々抉れ、黒い土が盛り上がっていた。
「どこかで見たことがあると思ったら、いつかの黒竜じゃないですか? 分身でこの俺に挑んできて、八つ裂きにされた。ああ、そういえば竜は死ぬと流転して新たに生まれ変わるんでしたっけ? 憶えてないなんて、残念です」
背中に垂らしたままの長い黒髪を揺らし、血のように赤い瞳が気だるそうにこちらを眺めている。漆黒の外套を纏った美しい容姿の鬼は、やれやれと肩を竦めた。
「は? 何言ってやがる? 俺が死んだって?馬鹿も休み休み言うんだな、」
黒い刃の切っ先を向けて、
一方、
(
知らぬ間にひとりで勝手に死んで、生まれてみたら
「まあいい。あなたたちを殺して、その後で、愛しい花を切り刻むことにします。それで永きに亘る因縁はすべて終わる」
「そんなこと、させるわけないでしょ」
勝機はまったく見えないが、ここは退くわけにはいかない。それはきっと
「俺たちがそう簡単にやられるわけないだろ!」
自分たちが退けば、間違いなく
最悪、自分たちだけでなく
(けど、正直、分身の姿では本来の力の半分も出せない。どうする······?)
ちらりと横にいる
「あまり力を使い過ぎれば、この身は本体の方へ戻ってしまう。けど、それでも時間稼ぎくらいはできるでしょ、」
「時間稼ぎ、か。ふん、上等だ」
「さすが四竜と言うべきか。まだそんな力があるなんて、思ってもみませんでした」
嘘つけ! と
その光景は、まるで血の空が広がっているかのようだった。
「気持ち悪いことするな! さっさと元に戻せ、根暗野郎っ」
残った光はふたりの刃に残った光のみ。このままこの塊の中に取り込まれるなど御免だ。しかし、何度か刃を振って触手の塊を攻撃してみたが、すぐに再生してしまう。一瞬だけ見えた青い空も、今はまた赤黒い空に戻ってしまった。
近づけば触手に阻まれ、離れて攻撃しても再生され、なす術がないという危機に、ふたりは少なからず焦る。それほどの力を持つ者が、今まで地上をうろついていたと思うとぞっとする。
(······おかしい。確かに、あの件で
常に地上に自ら降り、人に災いをなすモノを一掃してきた天帝が、こんな危険な存在を何百年も捕らえられないわけがない。
(そもそも、どうしてこの
だがあの白蛇の化身が傍にいれば、
(つまり、
だんだん話が見えてきた。
「おまっ······気持ち悪っ!」
「うるさい、馬鹿。でもお陰で糸口が見えた」
口の端を歪めて、
その時だった。
あの空を覆っていたはずの赤黒い触手の塊に異変が起こる。途端、その内側にいた
赤黒い触手が下からどんどん凍っていく様が目に映った。それはみるみる天井まで覆うと、最後にはすべて凍り付いてしまった。
そして、ゆらゆらと天井から花びらのように降ってくる、それのひとつを手の平に乗せ、咲いた薄青の透明な雪の結晶に目を瞠った。
「これは······、
その先に広がった青空と、失われていた光が、目の前に飛び込んでくる。
「ふたりとも、お待たせしました!」
砕け散った氷の破片に反射した無数の光の中、意気揚々と現れたその人物は、ふふっと笑って包帯が巻かれた左手を振っている。その右手には、白い柄の先に淡青の紐飾りが付いた半透明な刀身を持つ剣、
「····················いや、待ってねぇし! っていうかあんた、今一番来ちゃ駄目な奴!」
「あはははは! さすがだよ、
腹を抱えて笑い出した
「··········なにそれ、怖っ」
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