八、君に出逢いました。
(そんな、はず······そんな、わけ、)
近づいて門の中へ足を踏み入れた瞬間、あの桃の木が目に入った。堂の横に立っていたあの老木。
違う種類の花が咲くその桃の木の花びらが、
ほのかな紅色が白い花びらに混じったもの、濃い桃色、淡い桃色、様々な色味の花びらが目の前にひらひらと舞っている。
よく見渡してみれば、堂は朽ちて傾いてしまっていたが、百花が彩る庭はまったく枯れてはおらず、むしろあの頃よりも美しく思えた。
そして、ひとつの影をみつけた。
その後ろ姿は、幼い少女のもの。肩で綺麗に揃えられた黒髪に咲く、白い
しゃがんでなにかをしていた幼女は、
大きな薄茶色の瞳を見開き、それから目を細める。そこには薄っすらと涙が浮かんだ双眸と、可愛らしい笑みがあった。その幼女は、間違いなく、あの時、無残に殺された
呆然と立ち尽くす主に、
「
「本当に······あなたなんです? 花の亡霊じゃないですよね?」
はい、と大きく頷き、
「しかし、どうして? あの時、あなたは······」
身体は触手に貫かれ、首が飛んだはず。何度も夢の中で繰り返されるあの光景が、鮮明に頭の中を過った。
青い顔をしている
「はい、確かに死にましたね。しかし、魂魄までは奪われなかったのです」
花の精は人の姿はしていても精霊であり、その身は花から形成されたモノ。核となるのは長い年月をかけて育てられた魂魄。
その核まで砕かれてしまえば、二度と同じ存在として生まれることは叶わない。
しかし魂魄さえ無事であれば、時間はかかるが元の姿に戻ることは可能だった。足元に咲く、
「······あの時、死を覚悟した時、一か八か
「そうでしたか······しかし、あの子は未だ行方知れずと聞きます。天界はあの子を
故に誰も行方を知る者はおらず、彼が通った跡には血の海だけが残っているとか。
「私が目覚めた時、この庭はすでにこの状態でした。この数百年、誰かが手入れをしてくれていたとしか思えません」
「
途中まで言いかけて、
「あなたは、ここにいてください」
「
解かれた指に残ったあたたかさが消えないように、
******
その帰り道、あの場面に遭遇した。
百年以上前、一度死して生まれ変わった
彼が命を落とした理由は誰も知らない。
長である
それまではずっと仲良くしていたし、友として何度も暗闇の中にいた
そんな友が白蛇を踏み潰そうとしていたら、止めるに決まっている。
押し問答を繰り返した結果、なぜか呪われてしまうが、友の罪は免れた。それに、小さきものの命も救われた。
余命が十年になり、法力も半減したが、
しかし、ひとつだけ心残りがある。
願わくば、十年の間に出逢えたらいい。
一年、また一年と時だけが過ぎ去っていく。
「そんな中、君に出逢いました」
長い話が終わり、
「ありがとう、話してくれて」
全て知った後、この村を襲った惨状を思い出すと、また違った意図が見えてくる。
「これがその
「私もずっと彼を捜していましたが、まったく情報を得られていないんです。だから、不思議で、」
困ったように首を傾げて、
「なにか、理由があるのかもしれません。噂とは、人が流すもの。それは天界も例外ではありません。情報が操作されている可能性も、」
ふたりは視線を合わせて、同時に頷く。
「もしもの時のために、私に策があります」
顔を上げた
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