七、暗い道の先にあった、僅かな希望。
櫻花は膝を付き、足元に転がってきたそれをゆっくりと拾い上げると、苦痛に歪んだ顔で抱きしめた。
閉じた瞼がゆっくりと開かれた時、そこにはいつもの美しく穏やかな眼差しはなかった。その胸に抱きしめていたものを丁寧に花の上に置き、強い眼差しでゆらりと立ち上がる。
ほぼ同時に、糸が消れるように
「······俺、俺が········皆、殺し、······」
顔を覆い蹲る
握りしめた手を開くと、感情のまま振り翳し、気付けば鈍い音と短い悲鳴がその場に響き渡った。
思い切り平手で殴ったせいで、掌に痺れるような痛みが走った。他人を、ましてや神を殴ったことなど一度としてない。
「私に、この場を一時的に離れるように仕組んだのもあなたですね! 一体この者たちが何をしたというんですか! あなたのようなひとが神だなんて、私は認めません! 今すぐに自らの罪を認め、その愚かな行いを悔い改めてください!」
神官たちが騒めく中、殴られよろめいた
宴が始まる前、問題が起きたとこの邸の使者に外へと連れ出された。そして他の皆は先に宴に参加するようにと、指示されたのだ。
その時点で、気付くべきだったのだ。
これが、自分を皆から引き離すための、時間稼ぎであったことを。
駆け抜けた先で見たモノ。
それは、
驚くことに、それを宴の余興として、東屋に集まっていた者たちは酒を酌み交わしていたのだ。天界に座する者の所業とは思えなかった。
顔を上げた
「なんということ! この
冷静に周りを見回してみれば、彼女の後ろにいる神官たちに見覚えがある。そのほとんどが、あの時、謁見の間にいた者たちだった。
「········本当に、私は、馬鹿です」
この事態は、自分の油断が招いたこと。
結果、この手から零れ落ちた、モノ。
「········
呟かれた言葉に、
「皆のところに、私を、連れていって······」
「そんなこと、赦されるわけないでしょう? あなたは、自分のせいで配下が死んだことを一生悔やみながら、下界で死んだように生きるのよ。二度と笑みなど浮かべられないように、絶望したまま生きるの! 枯れた花みたいにね!」
あはははは! と
「ごきげんよう、花神。二度と私の目の前に現れないでちょうだい、」
その言葉を最後に、
******
それから、何年も何十年も下界をあてもなく彷徨っていた。何度か天帝の分身が自分の許に現れ、天界の状況を伝えてきた。
あの後、天界は大騒ぎになり、そのすべては、恐ろしい
その
その真意は、あの日の真実をその口から語らせるため。
あの場にいた神官たちは口を揃えて
そして話はさらに進み、黒竜と白蛇の前に立ち塞がった、あの夜の数刻前へ。
あれから数百年、ここに赴くことはなかった。そんな
それは、
「君の堂に、最近妙な噂が立っていてね。私たちは表立ってあそこには立ち入れないから、気が向かないだろうが、調べに行ってもらえないだろうか、」
その頃には、
とは言っても、花神だった頃に身を置いていた百花堂へ足を向けることは一度もなく、知己である
彼らのお陰で、何百年も暗い道を歩いていた
あの時とは、全然違う感情で浮かべられるその笑みが、自分でもあまり好きではなかった。
天帝は飽きずに使者を送ってくるが、もうあそこへ戻りたいとは思わない。下界で困っている者たちを助けたり、のんびりと旅をしている方が合っていると気付いたのだ。
そうは言っても、人助けをすれば
花の香りがふわりと風に乗って届くのを感じた。
手入れをする者を失った堂は、きっと雑草たちに覆われ、咲き誇っていた花々を枯らしているだろうとばかり思っていた。
しかし目の前に飛び込んできた景色に、思わず
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます