六、あの日の残響。
目の前に広がるのは、九十八人の花の精たちの骸。それもすべてバラバラにされていて面影すらない。真白い
皆を殺したのは、間違いなく目の前にいる者。
月神、
血飛沫が舞うその光景を、
(······
この宴は、
そもそもあの子は、
その時点で
(
頭を抱え込み、
「
天界での殺生は禁じられている。たとえ大罪を犯しても、それだけは天帝でも与えてはならないとされている。
それなのに、この月神は花の精を
「口の減らない愚かな花の精よ。何か勘違いをしていないか? 追われるのは
「は? それは、どういう······まさか、最初からそのつもりで」
「お前こそ何を言っているのか理解に苦しむ。この惨状を招いたのは
この者は、本気でそんな戯言が通ると思っているのだろうか。
いや、通るのだろう。だからこそ、揺るぎのない自信のある表情で嘘を並べ立てているのだ。そもそも、あの花は不吉な花でも縁起の悪い花でもない。その真の意味も知らない無知な女の言いがかりこそ、理不尽であり、理解に苦しむ。
だから、あえて
「まさかとは思いますが、
「口を慎めと言ったであろう? そんな真っ赤な毒花、不吉以外の何物でもない。その花を咲かせたお前たちの罪は重い。いい訳など無用だ」
「あなたは、本当に可哀想なひとですね。あなたが不吉と言ったその花は、吉兆の前触れを示す花。それを毒花などとは······天界の神がそのようでは、聞いて呆れますね」
曼珠沙華は確かに見た目は赤く不吉で、毒もある。花のある時期には葉がなく、葉のある時期に花がないという特徴から、"葉見ず花見ず"と呼ばれる。普通の植物とは真逆の生長を繰り返すその様も。死人花などと呼ばれてもおかしくないだろう。
しかし、真の意味は"天界に咲く花"である。
「この花を咲かせたことが罪であるわけがない。そもそも、その種をこの庭に潜ませていたのはご自身でしょうに。私たちはあなたの命でこの庭の花を咲かせたにすぎません。あなたがこの花を罪というのなら、その罪深き花を庭に埋めたあなたの罪はどう裁くのです?」
「言いたいことはそれだけか?」
赤い瞳と眼が合った。
その瞳は揺らいでいた。
顔は涙でぐしゃぐしゃになり、歪んでいた。
しかしそれに反して、彼の周りには赤黒い色をした触手が蠢いており、その先端は、大きな斧のような形をしていた。その斧には血が滴っており、ここで散った花の精たちの血が染み込んでいるように見えた。
『
次の瞬間、身体の奥深くに突き刺さった鈍い音と共に、
(······
悲痛な悲鳴が耳に届いた。それは、紛れもなく、主の声だった。
しかしもはや答えることは叶わない。
身体から引き抜かれた触手はそのまま鋭い刃と形を変え、
それは、ある者の足元まで転がりきると、それを知っているかのように止まった。
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