三、草むしりは苦手です。
花神である
主人である
「今日も元気でなによりです」
などと言うので、真に受けた雑草共を調子に乗らせてしまうのだ。
本来なら晩秋の頃に、白や薄桃色の花を咲かせるこの花だが、ここにおいては散るということがないため、いつでも一番美しい姿でそこに在る。
故に、少しでも手入れを怠ると、この堂は背の高い雑草が生い茂るため、傍から見たら荒廃した堂に見えてしまうのだ。
「いつもすみません。あなたがいてくれると本当に助かります」
ひと月に一度、それらを一掃する作業を、
人数分のお茶を自ら淹れて、お盆に乗せてへらへらと運んで来た主人に、
そんなことはその辺りにいる配下の者にひと言命じればいいのに、このひとはあろうことか、その配下たちのために自らが率先して働いているのだ。
「······
「え? 別にお茶くらい配ってもいいじゃないですか。私が好きでやっているのです。それに、私など大したこともできない下級の神です。皆の方がずっと働き者で、偉いんです。ね?
はい、と白い小さな湯呑を手渡され、薄茶色の目を丸くする。肩で綺麗に揃えられた黒髪に咲く、白い
幼女の姿をしている
こんなことはもう何千回と言っているのだが、この主人は一度も聞き入れてくれたことがない。自分など、と言って、いつも自身を下に見ているのだ。
花の精である配下たちにしてみれば、そんな主人の腰の低さを敬うことはあれど、馬鹿にすることなどあり得なかった。
皆、
「······ありがとう、ございます」
受け取って、はあ、と嘆息する。
満面の笑みが眩しすぎて、直視できない。ので、眼を逸らす。
くすくすと花のように小さく笑う
配下の者たちも各々ひと休みし、
あの雑草さえなければ、どんなに幻想的で美しい場所か。すでに取り除かれ、元の姿を取り戻した庭に咲き乱れる花々に、何度でも目を奪われる。
特に堂のすぐ横に立つ、桃の木の美しさは格別だった。
老木なのだが、風情があり、咲かせる花はいつでも満開だった。そこに桃の実がなることはないのだが、常に花びらが舞い散っているというのに、永遠に枯れることもないのだ。
ほのかな紅色が白い花びらに混じったもの、濃い桃色、淡い桃色、様々な色味の花を咲かせるその木の幹は、何本かの木が捻じれて絡まり一本の大木になっている。
「こんなに立派なお庭なのですから、可哀想などと言わず、ちゃんと手入れをしてあげないと、逆に彼ら彼女らが可哀想です」
「すみません。なんだか、一生懸命背を伸ばしていると思うと、ここの雑草さんたちを邪険には扱えなくて、」
「まあ、いいです。
あはは······と
「聞きましたか? 天帝が下界から戻ってきているようですよ。その内お呼びがかかるのでは?」
「そうなんです? あの方が私などに構っている暇などないと思いますが。でもやっぱり、呼ばれたら行くしかないですよね······、」
「またそんなことを言って。天帝があなたを望まないわけがないでしょうに」
神は大勢いれど、天帝が目を掛ける者は数少ない。しかしなぜ天帝が、一介の花神でしかない
その真意を、
その数日後、
その呼び出しこそが、まさかあの事件のきっかけになろうとは、この時はまだ、誰も思いもしなかった事だろう。
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