馬鹿みたいな話


 むせ返るような酒の匂いに鼻を摘む。そして手に持っていた蝋燭を置き、懐からナイフを取り出し身構えた。野党だろうか。わざわざ離宮に侵入しようだなんて烏滸がましい。


「あれえ、ここ、どこだろう」


 男の声だ。一歩近づこうと刹那が足を動かすと、足に重く生暖かいものがこつんと当たる。人間が倒れているらしい。


「痛い、何するの」

「まさか……閑?」

「さっき謝ったよ。ごめんね、浮気するつもりはなかったんだ」

「誰と間違えているんですか、気味の悪い。さっさと起きなさい」


 ぼわっと薄暗い部屋で体を起こしたのは確かに閑だった。紫の髪を乱し、服もいつもよりずっと薄着だ。どうにも不埒な空気を纏っている。酒気を帯びた頬は赤い。


「んん、ああ、刹那? 何でボクの前に」

「私の台詞を奪わないでくれませんか。この場所がどこかお分かりになる? 離宮ですよ。陛下の寵妃様が懐妊するまで住んでいらした神聖な場所です。お前がいて良い場所ではありませんのに」

「そうなんだ。凄いねえ」

「この酔っ払い! 水を引っかけます。今すぐ出ていってください」


 首根っこを掴んで男を引き上げようとすると、やけに抵抗するものだからたたらを踏む。普段は行儀の良い猫のように何もせず甘えた声しか出さないくせに、強情だ。


「やめて、苦しいから」

「ならば自分の足で立っていただく。私の人生で、お前に世話を焼くための時間はないのですけど」

「こっちもそうだよ刹那。あぁ〜、可愛いボクの女神を夢で見たのに。酔いも夢も醒ますなんてさすがお城仕えの執事様は違うね」


 この男の口から飛び出す言葉の一つ一つが不愉快だった。もう一度蹴り飛ばしてやろうかと思うが、それすらも悍ましい。


「今日お前のお父さんに会ったよ。綺麗な人だね。大陸の外の血が流れてるんでしょう」

「どうして急に」

「え? どうしてだろう、分からない。お前が澄まし顔で皇族に仕えてるせいかも」

「私の家系は代々仕えているのです。共に生き、共に死ぬ。そのために産まれるんだから。当然のことです」

「可哀想に。家具の直向きな想いなんて報われないのに」


 何故貶されるのかが分からない。そんなことは百も承知だ。

刹那の親は、皇妃が第三王子を産む時期を見計らって子供を作った。歳の近い子を用意し、幼少期から触れ合わせることで主人の信頼を強くしようと考えて。刹那はそんな打算によって生を受けた。生まれつきの道具だ。それ以外に価値はない。

しかし結局第三王子は失脚して刹那の役目はなくなったから。正式な皇族ではない真箏と出会った。


「ふん、それはお前だってそうでしょう。沢山に心を配って、どれだけ返してもらいました? 全員お前の火遊びに辟易して去って行きますのに」

「ボクは誰かを愛してるだけで幸せだよ。見返りなんて求めてない」

「綺麗事だなんて」

「違う」


 まるで童話を信じて疑わない村娘のようだ。お前の恋は穢れていると言えば酷く傷付いた顔をして閑は狼狽えた。手をついたままじりじりと後退しようとする。


「っ……刹那はボクを多情な男だってよく言うけど、そっちこそどうなの。薄情過ぎるよ。尊い血にしか興味ないんだ。それ以外は肉塊にしか見えないんじゃない?」

「ええ。勿論。高貴な人のみが私に命令を与えられるのです。例え神でも、法でも、傅いたりはしない」


 目に浮かぶのは真箏の姿だった。美しくて尊い方。陛下から下賜された私を目に留めて微笑んでくださった。初めて、私を家具以外として、人間として接してくれた。


「お前の気持ち悪い信仰心は、血に向けてなんでしょ。相手が誰だっていいんだから!」

「よくも、そんなこと」


 喉元を食いちぎってやろうと覆い被さる。抵抗する手を床に押し付け、鳩尾に膝をめり込ませた。ろくな力の抵抗もなく閑は体の全てが倒れ伏せた。それとも耳を削ぎ落としてやろうか。人間ではない獣の証だ。この国では何の価値もない。

だがこんな状況下であっても瞳だけは暗闇の中で爛々と光って見える。蜂蜜を溶かした甘ったるい色だ。吐き気がする。


「ああ怖い。こんな荒業の出来る執事が他にいる? 汚れ仕事をさせられてるのも、きっとお前のご主人様が刹那のことなんて気にも留めていないからだよ」


 ナイフを握ろうと伸ばした手が怯む。そのほんの少しの動揺を、閑は見逃さなかった。廊下から差すシャンデリアと燭台一つしか光源のない部屋の中で、機敏をよく観察されている。今度はこちらが足で拘束された。挟み込むように胴を絞められ、身動きに枷がかかってしまう。


「地位ある人間が執事の執務以外を簡単に任せるわけない。だって人間の命なんて好きな程行使できるんだもの。特に、密偵や暗殺なんて類のものはね。まるで奴隷だ。お前って薄汚い剣奴みたいだよ」

「人の靴ばかり舐める商人風情がよく言うな。また見世物小屋に送ってやろうか。お前の親とご一緒に」

「笑っていれば可愛い子の唇だって舐められるぜ」


 下品に歯を晒して閑は笑う。ああ、この男。本当に嫌いだ。


「きっと、誰だっけ。真箏様? あの騎士王も、いつかお前を捨てるんだろうね。自分が対等に見られているとでも思うのか。幻想だ」

「決して、そんなことありえない」


 執事としての教養を身につけたのは陛下のためだ。価値ある人間になって視界に入るという名誉を賜りたかった。親の意向はどうでもいい。刹那自身がそう望んだ。

 けれど暗器を扱うようになったのは陛下のためじゃない。真箏様のためだ。彼が騎士になると言ったから自分も戦えるようにした。彼が、皇族と認められずに従者を持てないというから。身の回りの世話をする人間は全部刹那が用意した。害とならないように失明までさせた者もいる。彼は、私が価値ある人間でいる限りは決して手放したりなんてしない。


「自分が相手を理解してるつもりなの。馬鹿だなあ。主人を軽んじてるのはお前の方だよ刹那」


 自分の中にある忠義こそが一番美しいはずだ。他の全て、刹那は汚れている。あの煌びやかな城にいることも相応しくない。皇族や貴族の方々はまるで宝石のようにきらきらと瞬いている。だけど、刹那が身も心も全て捧げて尽くせば、自分にだってその場にいる権利が少しでも与えられるべきなのだ。そのはずだ。


「お前みたいなやつ、誰も執事にしたがらない」

「そう」


 今度こそ確実に殺してやろうと身を捩る。肩を筋の限界までへし曲げてナイフを突き立てた。


「やめなさい!」


 体がビリビリと震えて急速な脱力感に眩暈がする。ゆっくりと手の中にあったナイフが転げ落ち、金属音を立てて床に滑った。魔術だ。抵抗する間もなく誰かに不意をつかれた。


「刹那君、何をしているんですか! ここで血を流すつもりなのなら即刻貴方を馘首します」

「ふふ、貴方にそんな権利があるんでしょうか、五十嵐さん」


 入ってきた男を睥睨する。麻薬を使ったように体に力が入らずふわふわとして、口の端から溢れた唾液が皮膚を伝う。


「っ、明日、騎士王が離宮に来るんですよ。貴方はそのためにここの警護や掃除をしに来たのでしょう。何故、そう物騒な事態に追いやられたんですか」

「この男は不法侵入した野党です。なので、私が責任持って始末のほどをつけようと」

「助けて右京さん。殺されちゃうよ」

「白鷺さんですよね。彼は僕がお呼びしました。珍しい、異国の物を持ってくると……聞いて」


 騎士王の御機嫌取りのためだろう。彼は調度品を愛するから、東の国に今は拠点を持つ大商人を呼んだのだ。それが運悪く閑であり、何を思ったのか酒に酔って応接間の床に寝こけていただけ。


「とにかく離れて。貴方らしくない衝動的な行動に見えますが」

「いいえ? ちゃんと考えて行動しておりましたよ。大丈夫なのです」


 魔術の効力が薄れ始めた段階で閑の上から退き、自分の身なりを整えいつもの笑顔を浮かべる。これで元通り。あいつの前で取り乱し手を下そうとした男はいなくなった。


「白鷺さん。何で貴方もこんなところに……」

「さあ。どうしてだったかな。ここの侍女さん達とお話ししてたんだけど。お酒のせいで情緒を無くしちゃった! ごめんね、恥ずかしいとこ見せちゃったな」

「い、いいえ」


 閑は剣呑に立ち上がって、自分と同じように床に放られていた上着を手に取るとそれじゃあ、良い夜を。と言って部屋から去って行く。寝泊まりのために客室を用意していたが、あの様子だと離宮ではなく誰かの家にでもしなだれ込むつもりなのだろう。


「それで、説明はしていただけますね?」


 きっちり足音が消えるまでの数分待って右京が顔を合わせずそう聞いた。腫れ物に触るような態度だ。それとも汚いものに封をするかのような。


「嫌ですね、他意なんて何もありませんのに。ただ侵入者を見つけて摘んだだけですよ? 執事として模範的だったんじゃないかなと」

「僕の目には明確な殺意と怒りが見えましたよ。知人だったのでしょう?」

「そうですねえ。互いの存在は意識しております。それだけです」


 質問や視線を誤魔化そうと頬に手を当て首を傾げても、右京は有耶無耶にはさせてくれない。徹底的に追及する姿勢を見せてくるので、驚く。彼らしくない。


「これから、こんなことがないように人材を手配しなくては。今度彼と刹那君を合わせたらまた攻撃し合う可能性がありますよね」

「はい。近付けないことが最適解ですよ。それで、私の口からどこまでお聞きになりたいの?」


 彼にしては砕けた口調だ。だがその違和感を振り払うように右京は咳をして、ではと意見する。


「白鷺閑との関係を、正確に教えてください」

「私から閑の素性を探っても無駄じゃないかと推測しますけれど。私が知っているのはあいつの過去と、下卑た私生活だけですもの」

「政治利用などしません。単純な、僕自身の疑問です」


 どうだか。右京の真意は探れないが、部屋の出入り口は彼によって塞がれている。一瞬魔術を使って退避を図ろうとも思ったが、目の前の男に魔術では敵わない。同時に複雑な計算を用いた魔術式を数個も発動させるような男、刹那はそんなやつを人間とは呼ばない。


「あいつと、初めて会ったのは……国を点々とする見世物小屋。一瞬で他国の血が流れていると分かりました。あいつの耳は異形でしたから。それを見た父が、可哀想だと言った」


 馬鹿げた言葉だ。優秀な執事になるために血反吐を溢して努力する刹那をみても、表情ひとつ変えないくせに。人の子には哀れみを向けるのだから。


「父の親、私の曾祖父がいた大陸の外には妖と呼ばれる異形の者達を神と崇めて、人間と互いに利用し合って共存しているのだと聞きました。だから父にとって亜人は、南の国民よりも身近だったのです」

「初めて知りました。妖、ですか。それで、拾ったのですか?」

「外に出してやったんです。それで、家に返してあげました。次に会ったのは東で、あいつの店の太客を殺しに行った時ですかね。ええ」


 急に現れた物騒な物言いに右京は眉を動かし動揺を表す。けれど刹那は表情一つ変えなかった。それほど、日常の中で誰かの命を奪うのが当然になってしまっている。


「初めて人を殺したんですよ! 彼の働く店で。この店にある全てのダイヤを買うのだと息巻いていた、帝国に犯罪組織から組み上げた資金を運ぶ貴族気取りの平民で……。よく肥えた腹にナイフがよく刺さらなくて、一撃で仕留められなかった。慌てた私はそいつに馬乗りになり後ろから首元に……」

「い、いえ。その説明はなくても大丈夫ですよ」

「けれどそれを人に見られてしまったのです。青い失態でした」


 それが閑だった。次の朝の商品を表の荷馬車から運び出していて、暗闇の中で目が合った。先ほどと同じ黄色の瞳を見開いて驚愕し、悲鳴を上げられ私もすっかり焦ってしまって。目撃者ごと殺そうとした私から逃げるように後退りいて、気がついた。

昔会った亜人と一緒。向こうも助けられた恩人の記憶は残っていたらしい。親の恩義を利用し秘匿を約束付けると、馬鹿みたいに必死に首を縦に振っていたな。


「一度目撃されてからはなし崩しで協力関係になりました」

「ふ、二人で暗殺を?」

「ええ。殺すのは私。殺した男の資産や名誉を奪うのが閑。私は金になんて興味なかったですし、ゴミが減って利害が一致しましたもの」

「そうですか……」

「ただ互いの汚点を知りすぎてしまいました。特に彼は、寂しさや虚しさを人の温もりで解消しようとするんです。綺麗な女性を侍らせて、時には自分の主人のように媚び諂って愛情を貰った。私の目にはそれが汚らしく映ったものですから」


 仲違いの原因はそれだろう。刹那は貞淑を重んじ閑はその反対だった。

刹那は顔を伏せて首を振る。


「もういいでしょうか?」

「ええ、ありがとう」

「五十嵐さんは……」


 部屋を退出するために踏み出した一歩を止める。


「私が、皇族の方に侍るに相応しくない人間だと思いますか?」

「……そう、ですね。僕は戦場以外で人々の血が流れることは、例え罪人であっても反対です。見せしめのような死罪も苦手ですから」

「ふふふ、正直な方、ですよね」

「ただ真箏様は皇族ではありません。少なくとも名目上は。騎士王になるまで一度も、彼が手を汚すことはないなんて甘えた考えを持ってもいません。地位や責任のある人間はそれだけ、選択に迫られます」

「ええ」


 刹那は自分の罪が間違っているとは思わない。洗っても血が落ちないと錯乱したのは最初の数回だけだ。それからは自分が褒めてもらうことだけを考えて人の静脈に刃物を突き入れられた。どれだけ痛めつけられても、指を何度折られてもそれだけが救いとして胸に残っていた。いつか、自分の晩年には心臓を抉って差し出すのだ。何度も、彼の一挙一投足全てに高鳴ったこの心臓を。



________________



 いつの間にか走り出していた。外気が冷たくて肺が縮こまるように息がしにくい。先ほど喉元に突きつけられたナイフの感触を思い出す。あとほんの少し、静止の声が遅かったら。薄い皮膚を突き破って刹那がボクの命を刈り取っていたのだろう。あの凍えるような瞳を思い出した。髪の隙間から見える濁った右目も。


「馬鹿刹那」


 誰のせいで南の騎士王との謁見が拒まれたと思ってるのだろう。強奪品で作り上げたメッキの城には興味がないと言われた。南の国で商売ができるまたとない機会だったのに。あの男のせいだ。犯罪に巻き込んだから。だけど、その元手がなければ商人として出世もできなかった。恨めばいいのか、有難がればいいのか。この数年悩んだのにまだ分からない。

 近くの女の子に会いに行こう。温かく抱きしめればこんな馬鹿みたいな動揺も消えてなくなるはずだ。折角高級酒で貰った脳の酔いももうない。


 途端に酷い喪失感に襲われて足が脱力した。離宮へ入る馬車のために作られた広い街道の端で、木々に凭れるように倒れた。この時間帯だから、馬車はもう走らないはず。


「こんなに、惨めな気持ちになる? 殺されそうになったくらいで」


「何してんだお前」


 男の声に反応して気怠げに顔を上げた。何故だか草木をかき分けて出て来た男には見覚えがあった。


「あれえ、誰だっけ。あの子だよね。ほら、よくうろちょろしてる」

「薬でもやってるのか? 明日は騎士王に会うんだろ。しっかりしろよな。あいつは麻薬に批判的な意見持ってんだ」

「やってないよ。東の麻薬は高いから。それに彼方が……駄目だって」

「とーぜんだろ」


 そうだ、久遠だ。この男の名前は久遠。北の騎士王の横にいた貧民だった。刹那に剣奴だと罵ったが、彼こそ剣奴と呼ばれるのに相応しい身分だろう。


「ここで野垂れ死ぬつもりか? どこに行くんだよ。部屋なら右京のやつが用意してるって聞いたんだけど」

「部屋? そうなんだ」

「はあ、お前なあ。仕方ねえから運んでやる。けど、絶対に吐くなよ!」


 近距離間での転移なら久遠でも難なく行える。が、魔術の乗り心地というか、抗体だというべきか。他の術師が使う転移よりもずっと粗雑で荒業である久遠の魔術は人を選ぶ。


「だめ、待って。ボクに魔術を使わないでおくれ」

「そんなに信用ねえか。ま、足の一本とか置いてきちまうかもしれねえしな」

「違うよ。ボクは南の出身だから、魔術と相性が悪くってさあ。ろくに効果がない時も、下手に半分程度効いちゃう時も……あるから」

「ふーん? 南は聖典かなんかの魔法を使うんだっけか」

「神が……嫉妬するんだって母から聞いたなあ」


 狭量な神だ。自国民が他の存在に頼ったら怒るのか。神のくせに?


「だから背負って〜。お願い」

「うっわ、酒臭い。最低だなこの酔っ払い野郎が!」


 罵倒はしても何とか持ち上げようとしてくれる久遠は閑の肩と腰を何とか支えて持ち上げた。本人には微量ながら立ち上がる意思があるおかげで難なく一歩は進めたが、それでも重い。自分よりもずっと体格の良い男を持ち上げるのは苦痛だ。


「なんだ、皮と骨しかない体だなあ。なんで女の子じゃないの? 知らない、女の子は触るととても柔らかいんだよ」

「何の話……。はあ、客人じゃなければ蹴り飛ばしてやったのによ!」

「傷ついた顔をすると慰めてくれるし、笑うと褒めてくれる。いい匂いもするし、可愛いから。いいよねえ」


 閑の頭では女の子とは常に優しく、困った時は親身に寄り添って頭でも撫でてくれるのだろう。久遠は決してそうは思わないが。


「刹那とは違うよ。あいつ、冷たいから。手に触れたことある? 氷みたいに冷たいんだ。血が通ってるのか聞いてもはぐらかすんだよ。もしかしたら、人形なのかも。見た目も無機質だし」

「何で、お前刹那のこと知ってたのか」

「仲悪いけどねえ」


 まだ10代だった頃のあいつは今より表情も薄かった。なのに今ではニコニコ。愛想良く笑って変だ。それほど忠義とは人を変えるのだろうか。人形に魂を与えるほど。


「ボクも誰かの従者になりたいなあ。ねえ、久遠。今幸せ? 主人を持つってどんな気分なの」

「何言ってんだ。俺は主人を選べるような身分じゃねえ。お前とも刹那とも、比べんな」

「ふうん、難しんだね。その人のために死にたくなるって、でも、すごく……」


 前を向く久遠の表情はきらきらと輝いていた。今、彼は何を考えているのだろう。童話のように直向きな顔。やっぱり主従って不思議だ。初めて男を見て素敵だと思った。


「すごいねえ、久遠」

「舌噛むぞ酔っ払い。その耳に聞こえねえのか」

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