ピエリの目的
「民が王家と四大公爵家に依存する構造そのものを破壊する」
「ふむ。どうやってそれを実現するというのだ?」
「大したことないよ。彼らが五人の勇者の末裔に依存するのは結局その力が自分たちを守り、利益をもたらすからだ。ならその信頼が虚像だということを見せればいい。奴らの力は完全ではないし、後ろでどんなことをしているのかを満天下に表わすのだ」
王家と四大公爵家にも当然汚い面はある。私がやられたのも結局その一角に過ぎない。
そんな一つの例などではなく、奴らの素顔を徹底的にさらけ出す。そして奴らの庇護下の民を徹底的に破壊する。信仰を破壊し、王家と四大公爵家の勢力そのものを破壊する。
自分のことは自分で守り、決める。そんな単純なことを、バルメリアの人々は忘れて久しい。彼らを隠している巨大な傘を壊して、影から無理やり引き出してやる。
テシリタは私を見て小さく鼻を鳴らした。
「そうか。貴様は役に立たない有象無象の民に復讐したいのか」
「……核心はそう言えるだろう。情けないと思っても仕方ない」
「構わないだろう。貴様の境遇など理解できないが、騎士団で間抜けな顔で笑っていた貴様を見たことがあるぞ。その時の貴様は心からイライラするゴミだったが、民衆というゴミたちのための心は本気だったのだろう。奴らが単に奴らを非難するだけだったら貴様が堕落することもなかったはずだ」
私は驚いてテシリタの顔をじっと見た。
案外だな。こいつならきっと大したことないことで変節したとあざ笑うと思ったのに。それだったとしても特に感興はなかったはずなのに、むしろあのように言うと意外という気持ちが強く刻印された。
いや、それよりこいつ、前と話が違うんだけど?
「ちょっと待って。貴様は昔の私のことをよく知らないのでは? 私が騎士だった時代に直接会ったこともまともに覚えていなかったじゃないか」
「愚かな奴め。オレが覚えていなかったのは青二才時代の貴様に過ぎない。騎士団での貴様をまったく見たことがなかったわけではないぞ」
「うん? 見たことあったっけ?」
「貴様が記憶する出会いをオレが記憶できなかったように、貴様が記憶できないことをオレが記憶しているだけだ」
それがいつなのか気になったが、テシリタが言ってくれる気配はなかった。
まぁ、別に聞けなくても構わないか。
「……言葉だけでもそう言ってくれてありがたいね」
「黙れ。貴様の感傷的な礼なんかしてもらおうと言ったのではないぞ。それより自信はあるのか? 筆頭が貴様に任せたことが容易ではないはずだが」
「考えておいたことはある」
私は筆頭が私にくれた品物をもう一度眺めた。
ミッドレースオメガ化の宝玉、の改造。そう言われてはいるが、具体的に何が違うのかは聞いていない。しかし筆頭がこれを渡しながら言った言葉は心に強く残った。
『キミの『倍化』があるなら、これを利用して最初のハイレースオメガになることも不可能ではないよね』
「ハイレースオメガ、か。貴様もその可能性があると思う?」
考えているうちに思わず口から言葉がこぼれた。
テシリタは笑わせると言うように鼻を鳴らした。
「愚問を。あの御方が断言された。その真偽を貴様などが疑うというのか?」
「結局、実際に実行するのは私じゃないか。正直に私がハイレースオメガになれるとは思わないんだよ」
「……困った問題だな。あの御方の話は間違いない真理であろうが、その対象が貴様だとは信頼が揺らぐ気持ちだ」
「……今回のやり取りで少しは親しくなったような気がしたけどね。よほど私のことが嫌いなんだね」
テシリタは澄ました顔で今日何回目なのか分からない鼻で笑うだけだった。
まぁ、口ではああいう風に言うけど、そもそもハイレースオメガ自体の非現実性も一役買ったんだろう。
オメガは人間に魔物の因子を融合させる改造の最終形態。人間の姿と自我をそのまま維持しながらも格が違う力を得て、自由に魔物の特性と身体を発現したり非活性化することが可能だ。
だがそんなことが簡単にできるはずがない。レースキメラの最も低い段階であるローレースでさえオメガを作るためにかなりの犠牲があった。ミッドレースオメガはごく最近完成しただけ。
その上、ローレースオメガはただ材料さえあれば適性と関係なく達成可能だが、ミッドレースオメガは材料があっても当事者に適性と才能がなければ失敗する。
最も高い段階のハイレースに至っては、そもそも純粋な魔物合成の成功体であるアルファさえもまだ完成していない。研究は続いているが、アルファが成功するかどうかさえ不透明だというのが現在の研究陣の立場だ。
ところでそんなハイレースのオメガを、成功的な研究でもないミッドレースオメガの宝玉の改造体を通じて至ることができると? 率直に言って信じがたい。いくら私の『倍化』があらゆるものを増幅できるとしても。
同じ席でディオスに渡したのはこれとも違う物のようだが、そちらは具体的に何がどうなるかまでは説明がなかった。一番用途と結果が明確なのは私の方だろう。
「本当に理論上のハイレースオメガになれたら、ジェリア・フュリアス・フィリスノヴァやトリア・ルベンティスが暴走した時よりも強力な個体になるだろう。そうなることができれば確かに私の目的にも、筆頭の仕事にも役立つだろうが」
「貴様のやることは何をしても成功させることだ。余計な雑念はやめるがいい」
「もちろん失敗するつもりはないよ。私の目的を達成するためにも必要なことだから」
まぁ、筆頭が謎だらけではあるが、バカなことを言う人ではない。これまであらゆる奇想天外なことをついに成し遂げたのだから。
今回も実現できるように最大の努力をするだけ。
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