ピエリの推測

「寝言を言うなら覚悟しろ」


「まぁ、そう言わなく一応聞いてみろよ」


 テシリタは疑いに満ちた目で私を睨みつけた。


 それでも一応聞いてみるという態度であることがこいつの数少ない長所ではある。聞いて気に入らなくて殺したりすることがよくあるというのが問題なだけ。


 そんな事態にはならないという自信くらいはあるが。


「私が見るには筆頭が貴様をかなりひいきしているようだよ」


「は?」


 テシリタは呆れたように片方の眉をつり上げた。そしてその状態で私を睨みつけ、すぐにため息をついた。


「はぁ。よりによって貴様なんかにつまらない慰めを受けることになるとは。オレの立場が笑わせることになったな。余計な配慮はやめろ」


「本気なんだけど。貴様は感じられないようだねか?」


「やめろと言ったはずだが。あの御方がそんな御方であるはずがない」


「そんなに崇拝するくせになかなかシニカルだね」


「ふっ」


 テシリタは妙に空虚な笑い声を流した。


「オレがあの御方に仕えるのはあの御方の偉大な意志と存在そのものを敬愛するからだ。だがだからといってあの御方がどんな御方なのか分からぬわけではない。あの御方の残酷さと冷酷さについてはオレもよく知っている」


「まぁ残酷なことで言えば貴様の方がはるかにひどいからね。筆頭に文句を言う立場ではない」


「……言い方がとてもイライラするが、間違った言葉ではないから見逃してやる。とにかくあの御方にとっては万物がただの道具に過ぎない。それはオレ自身も例外ではない。それを悲しむなどしない。むしろあの御方の道具として使われてお手伝いできるのであれば、このつまらない命にも意味があるだろう」


 こいつが一体どうしてこれほど筆頭に盲目的なのかは少し気になるね。何か大きな恩恵でも受けたのか? それともこいつだけが知っている何かがあるのか?


 まぁ、私が安息領に入った時はすでにこんな奴だった。まだ私が安息領と本気で敵対していた頃には対外的に姿を現す場合がほとんどなかったのでどうだったか分からないが、おそらく大きな差はないだろう。


「さぁね。私が見るには少なくとも貴様だけは待遇が少し違うようだが」


「何の根拠で?」


「貴様の言う通り、あの御方は残酷で冷酷だ。そして利用価値を重視する。人間であれ道具であれ有効活用する方だし、意味のない浪費はしない。そんな筆頭が貴様にそんな謎の物を与えて、別に説明もしないのがおかしいと思わないか?」


「それは認めるぞ。だが貴様の寝言を証明する根拠にはならぬ」


「まぁ、そりゃそうだ。実は私も論理的な理由でそう思ったわけではないんだ」


 筆頭は常に頭巾で自分を隠しているので、眼差しを見たことはない。でも口元の表情や声の気配、態度などを見るとたまに感じるんだよね。筆頭が他の奴らに対するのとテシリタに対するのが少し違うというのが。


 筆頭自身を除けば、単一個体で安息領の最強戦力はテシリタだ。その点は誰も否定できない。しかもテシリタは単に力が強いだけでなく、全能といってもいいほど多様な能力を備えている。筆頭もそれを知っているのでテシリタに様々な指示を出す。


 でもそれとなくテシリタを敵と直接ぶつけるような命令は出さないんだよ。


 最強の戦力を惜しむというには、テシリタ以外の戦力を動かすのには憚りがない。実際、効率で言えば安息八賢人を直接動かすよりもその下の戦力をテリアさんの方とぶつかるのがもっといい状況が何度かあったのに、筆頭は常に利用できる最高の戦力を動かしたから。


 もちろん、安息八賢人とも相手ができるほど強くなったテリアさんの方へと中途半端な部下を行かせたところでやられるだけだろう。だがむしろそのような奴らを捨て石として使って目的を達成する方法などはいくらでもあった。むしろ安息八賢人という大物の戦力を直接動かしてやられてしまうと損害が甚大だ。


 実際にラースグランデも、ベルトラムも、タールマメインもやられそうになった。特にベルトラムは筆頭自身が直接動いて救出した。


 自分自身すら必要なら躊躇なく投入する筆頭が唯一重要な瞬間に使わない戦力。それがテシリタだった。


 一度テリアさんたちとテシリタがぶつかったことはあったが、それはテリアさんがテシリタの工場を襲撃したからだけ。もちろん筆頭の予想があったからテシリタが工場で彼女たちの侵入を待っていたが、具体的な予知や命令ではなかった。


 おそらくテシリタが意気消沈したことも自分で自覚しているからだろう。テリアさんという強敵がますます浮き彫りになっているのに、他の安息八賢人たちだけを積極的に動かすだけで、テシリタ自身には命令が下されていなかったから。


 それらを説明した後、私は少し照れくさそうに笑った。


「まぁ、実は明確な根拠はない。半分以上は勘だよ。しかし……その時、貴様にその物を預けながら話していた声から少し心配のようなものが感じられた」


「……」


 テシリタは言葉も表情もなくじっと私を見た。すぐ否定すると思っていたのに意外だね。


 しばらくして彼女は小さく鼻で笑い、目を閉じた。


「ふん。そんな可能性もあるかもしれぬ」


「うん? 信じてるのか?」


「貴様は安息八賢人の中でも悪謀に最も長ける奴だ。オレは貴様のことがとても嫌いだが、常に戦略と根拠に満ちた貴様の行動を否定するわけではないぞ。そんな奴がそんな曖昧な勘を根拠に話をするのは初めて見る」


「だから信じられるという意味?」


 テシリタは返事の代わりに笑った。半分以上は冷笑と嘲笑だったが、私の言葉を肯定する意味が込められているのだろう。


 テシリタは筆頭から渡された黒い玉を取り出してのぞき込んだ。


「失望感だけに埋没してオレの義務を忘れていたな。あの御方が何を望もうと、意味があってオレにこれを任せたはずだ。それならオレは自分の力でこれが何なのかを突き止め、あの御方の意思を叶えてあげなければならぬ」


―――――


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