いろいろなやり取り

「じゃあ無駄じゃないことでも一つ聞いてみます」


【無駄かどうか判断する能力が貴方にあると思う?】


「貴方が勝手に騒ぐように、私も勝手に言います」


 言い放つと『隠された島の主人』は口をつぐんだ。


 ひとまず目を閉じて集中していたので奴がどんな反応なのか目には見えなかった。まぁ、どうせ見えても真っ黒なシルエットに過ぎないから同じだと思うけど。


 それでもかなり不快に思っていることだけはなんとなく伝わった。


 もちろん私も勝手に敵対感をぶつけてくる相手を配慮してあげるほどのお人好しではない。


「なんでよりによって私なんですか? 貴方がお姉様を助けたいのなら貴方がそんなに不快に思う私を助ける必要はないでしょう。なのにどうしてよりによって私なんですか?」


【貴方の方が一番都合がいいから】


『隠された島の主人』はそう言うだけで口をつぐんだ。


 どういう意味だろう。啓示夢のような間接的な形だけで干渉する時はお姉様の『浄潔世界』のせいでお姉様に直接接触することができなかったけど、分身体で活動する今はそのような制約もない。


 それにお姉様の傍には私以外にもたくさんの人がいる。あえて私一人だけ指定してこうしている理由がないと思うけど。


 憶測でも一つ推測してみると……。


「貴方も『万魔』だからですか?」


 万魔を支配する者。『隠された島の主人』の修飾語。


 それが具体的に何を意味するのかは分からない。けれど邪毒神の修飾語と私たちの特性が似ているのは事実。


 そしてそれについて質問した時の奴の答えは魂の輪廻に関するもの。でも結局、奴は私たちと自分たちの関連性を完全には否定しなかった。


 たとえ『隠された島の主人』のアイデンティティが『アルカ・マイティ・オステノヴァ』でなくても、『万魔掌握』と何か関係があるかもしれない。


 奴はどこか渋い声で言った。


【……まぁ、関係が全くないとは言えないでしょ】


「じゃあ……」


【だからもっと腹が立つのよ。限界を乗り越えようと努力しても足りないのに、限界に達することさえ考えられずにいるバカを見るのは気分が悪いんだ】


「それはお姉様のためですか?」


 邪毒神である『隠された島の主人』がどうしてお姉様のために動くと公言するのかは分からない。でもこれまであいつはその言葉を実践してきた。ジェリアお姉さんの件のようにお姉様以外の存在には多少冷たい部分もあるけれども。


 奴は少しの沈黙の後、少し落ち着いた声を出した。魔力で変調されたにもかかわらず何か感情が染みるということが感じられる声だった。


【……いくら繰り返しても、何を変えても救われない存在がいたらどうする?】


「どういう意味ですか?」


【変えたいことがあった。私にはそうする機会と力があったし、実際に多くのことを変えた。けれど決して変えられないことがあった】


 今の流れでこういう話を急にしたというのはお姉様と関係があるという意味かな?


 でもこの話がお姉様と何の関係があるのかはよく分からないけど。


「その〝救われない存在〟がお姉様だってことですか? それとも貴方が救おうとする誰かのためにお姉様が必要なんですか?」


【さぁね。そこまで答えてくれる理由はないよ】


『隠された島の主人』は冷たく言い放ち、魔力を動かした。異空間に満ちた魔力が何か流れを形成するのが感じられた。


【貴方がテリアの力になりたいってことが本気なら、おしゃべりはやめて真剣にした方がいいよ】




 ***




「貴様が私を訪ねてくるなんて。おかしいことだね」


「あの御方の指示がなかったら貴様なんか訪ねてこなかったぞ」


「知ってるよ。貴様はあの御方の手足にすぎないからね。少しは自分で考えてみるのはどう?」


「オレは熟考の末、あの御方の偉大さを認めて従うのだ。貴様のような不信心者などに理解できるはずがないだろうがな、ピエリ・ラダス」


 不愉快な話し方が私を突いていたが、私はそよ風を楽しんでいる気分で笑い飛ばした。


 私の向かいに座っているのはなぜか小柄の姿と三角帽子を丸出しにしているテシリタ。私と一対一で話す時はこのような姿の場合もたまにあるが、それでも大部分の場合にはマントと頭巾で姿を隠すのが一般的な奴だ。そんな奴が今日は外から素顔を出してきた。


「いつものように不愉快いっぱいな顔だね。でも今度は私のせいではないね」


「貴様などいつも見るだけで不愉快だ。……だが今回だけは貴様よりひどい不快要素があるということを認めざるを得ない」


 テシリタは手を振った。魔法の光がきらめいた直後、ワイングラスが彼女の手に現れた。


 私のは当然ない……だろうと思ったのに、なんと。テーブルに私の分のグラスまで現れた。着実にワインまで盛られた。


「何だ? 毒?」


「寝言やめろただ飲め。貴様なんかでも連れて飲まなければ気分がよくならない日だ」


 するとテシリタは一人でワインを飲み始めた。ワインに似合わず豪快な一気飲みだった。そしてグラスを揺らすと再び中身が現れた。


 私もグラスを持って一口飲んでみた。


 ……美味しいね。


 かなり上品な味わいと鼻の中にうっとりと漂う香り。多分かなり高いのだろう。


 テシリタがこんなものを持っているのは驚きではないが、こんなものを私にも配ってくれたのは驚きだね。それだけ今の心が乱れているという意味なのか。


「どうした? こんなお酒を私にまで配って」


「……貴様に聞きたいことがある」


 テシリタは指で私の胸の方を指差した。すると私の上着のポケットに入っていた品物が自然に外に出てきた。


 丸薬のような紫色の玉だった。


 テシリタはそれを見て眉間のしわをさらに深めた。


「貴様はそれについてどれくらい知っている?」


―――――


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