『隠された島の主人』の助言

『隠された島の主人』が私に一番最初に要求したのは……瞑想だった。


 結跏趺坐をしたまま魔力を感じること。お姉様が私によくさせた訓練法だった。目を閉じて集中して周りの魔力を感じ、世界の力を扱うこと。実際に孝怪的だったし、今は毎日午前や他のトレーニングをする前に習慣のようにしていた。


 そんなに慣れた訓練なのに、今は少し違った。


 ……私の力の本質は単純だ。そう思っていた。


 姉がこの私、アルカの特性である『万魔掌握』について下した評価は一言で『世の中の力を利用する能力』。その評価通り、私は自然の魔力を利用することができるし人の特性をコピーすることも可能だった。甚だしくは限定的だけど他人の魔力に干渉したり、魔力の特性だけでなく技術と熟練度さえ不完全にでも真似ることができる。


 私が集中したのはいつも私の〝外〟だった。


 けれど『隠された島の主人』は正反対のものを要求した。


【貴方の中の力を感じて。貴方の力の本質を悟り、それを世界の中でどのように展開するか考えてみて】


「正直ピンとこないんですけど」


 私の力についてはもうかなり知っている。お姉様から『バルセイ』の私の終着点についても聞いた。もちろんそれが私の人生の最終点ではないので、もっと発展することはできるだろう。けれど能力の特徴や本質が新しくなったわけではなかった。


 ところが『隠された島の主人』が要求するのは……率直に言えば、すでに数年前にお姉様が要求したことを踏襲するのと同じだった。


 しかし私は文句なしに従っていた。


 別に『隠された島の主人』の言葉に盲目的に従うわけではない。私にむやみに接するのは構わないが、お姉様にまで妙に生意気だから。私が露骨に嫌やがる数少ない相手だもの。


 でも感情的な問題とは別に、強くて知ることも多い邪毒神ということだけは認めざるを得なかった。


 すなわち悔しい程度に強くて有能で憎らしい奴だから、私がすでに『万魔掌握』について理解して活用しているということを知っているだろう。憎らしい相手なのでさらに信頼できるという皮肉な感情だ。


【へぇ。結構私を信じてるんだね? 意外だよ】


「……私は何も言っていません。心を読む能力でもありますか?」


【貴方、自分は表情の変化がすごくダイナミックだという自覚がないね? 今の状況と表情を結び付けてみれば心を読む能力なんて必要もないよ】


 思わず目を覚まし『隠された島の主人』を睨んだ。頬も不満そうに膨らませた。すると彼女は魔力で私の目を閉じた。


 でもそれ以上の干渉はなかった。


「私を困らせるためにわざと無駄骨を折らせるのじゃないですか?」


【そんなつもりはない】


「それにしては私が騒ぐことも制止していないじゃないですか。集中しろって言ったくせに」


【外を制御する力を持った奴が外と完全に断絶してどうするの? それくらいは自分でちゃんとやりなさい】


 まったく、私にどうしろって言うのよ。


 不満だったけれど、一応自分の内面をのぞいてみた。私の魔力とその深淵を。


 目の前に、あるいは頭の中に浮かぶ光景は、何もない漆黒の世界に魔力の光の塊が浮かんでいる様子。以前私が『万魔掌握』の特性複製能力を初めて悟った時に見た、私の力がイメージ化された姿だった。


 そういえばその時も『隠された島の主人』の助けがあったね。


 でも今は姉の助言と度重なる修練のおかげで、少しでも意識すればすぐに内面世界に私の意識を吹き飛ばすことができた。


 自分自身の力の塊を見ていると、自然に考えがこぼれた。


「……いつ見ても大きいね」


 魔力の塊は時間と共に大きくなっていた。その上、真っ白な地に他の色が混ざった部分も次第に多くなっていった。


【今まで貴方の力の使い方は外の力を奪うことに近かったね】


『隠された島の主人』の声が頭の中で響いた。


 確かにその通りだった。『万魔掌握』の権能は周辺の魔力を引き出して私のもののように活用することだから。


 あえてあんなことを言うというのは他のやり方があるということかな?


【間違ってはいない。でも完璧とも言えないよね。『万魔掌握』は世界の本質を理解するほどより強力になる力なんだから】


「世界の本質?」


【そう。魔力は本来世界を成す根幹よ。間違って扱うと世界に悪影響を及ぼしかねないから魔という名前が付けられただけ。そして『万魔掌握』は魔力が成されている世界の深淵にまで届く】


 私が認識している私の力のイメージとは別に、頭の中に同じ像がもう一つ浮び上がった。『隠された島の主人』が見せてくれる映像だった。


 その映像の中の魔力の塊がますます大きくなり、周辺に広がり始めた。すると漆黒の空間全体が魔力の光を帯びて輝き始めた。


【周りの魔力を吸い込むのではなく、貴方の魔力を周りにまき散らして世界と共鳴する。それができれば『万魔掌握』の次の段階に進むことができる】


「その世界と共鳴ってどうするのですか?」


【それは説明できないし、説明しても意味もない。貴方が直接悟らなければならない】


 すると『隠された島の主人』は本当に口をつぐんでしまった。


 自分で気づけって、ヒントもなくどうしろっていうんだろう。いや、何をすればいいのかを話してくれたこと自体がヒントではあるけど。それでも方法とか、もう少し具体的なことを話してくれればいいのに。


 それでもそのようなやり方はそれなりに親しみを感じたりもした。曖昧な目標や手がかりだけを投げつけ、私が自ら気づくように誘導するのはお姉様がよく使っていたやり方だったから。


 そう思うと『隠された島の主人』にも少し親しみを感じた。


【何をへらへら笑うの。無駄な考えをしてもいいとは言ってないけど?】


 ……とても好きになれない奴だけれど。


―――――


読んでくださってありがとうございます!

面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!

一個だけでもいいから、☆とフォローをくだされば嬉しいです! 力になります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る