アルカと異空間
「きゃあっ!?」
バカげた悲鳴を無視して、私も異空間に足を踏み入れた。そして空間を閉めた。
「っ、いったい何の……」
【まだ状況把握さえできていないの? だから貴方が役に立たないんだよ】
冷たく言うと、やっと私の存在に気づいたかのように視線を私に向けた。
アルカ・マイティ・オステノヴァ。テリアの妹でありこの世界の〝主人公〟――テリアの傍にいる人々の中で最も巨大な可能性を秘めた存在。
そしてその可能性を半分も開花せず、私の怒りを非常に督促している存在。
【しっかりしなさい。私じゃなく敵だったらもう貴方は死んでいたはずよ】
「貴方が敵じゃないって確言することもできないでしょう」
【ふん。私が敵だったらとっくに貴方を殺していたはずよ】
アルカは私の話を聞いて眉をひそめた。
まぁ、こんなに攻撃的な相手に好意的な反応を見せることはできないだろう。それは私も認める。
でも私の感情を我慢する理由はない。むしろこいつが私に好意的な反応を見せたら蕁麻疹が出そうだ。
「それで? 敵じゃないと言いながらこんな所に私だけ連れてきた理由が何ですか?」
アルカの視線が素早くあたりを見回した。
まぁ、そんなことしても結論は単純だけど。ここはただ丈夫なだけの異空間であるだけだから。こいつが自力で脱出できないだけ。
『万魔掌握』で空間系の特性を複製するなら自ら脱出できるだろうが、こいつはまだ空間系の能力をまともに扱えない。
それも私を怒らせた。
【貴方を鍛えなければと思ってね】
「要りません。私にはお姉様と母上がいますから」
アルカは強い拒否感を示した。それだけでなく魔力の弓を具現して私を狙った。一言でも間違ったら撃ってやると言うように。
もちろん私には可愛くもないバカなことに過ぎないけれど。
【まぁね。私の目には到底十分じゃなさそうよ】
「だとしても貴方なんかの助けは必要ありません」
【このままじゃ何の役にも立たないままテリアを失うとしても?】
アルカの手が震えた。
反応があるね。こいつにも自覚があるだろう。今の自分に何ができるのか、その質問を自分に投げかけた時に何と答えたらいいのかわからないということを。
私には見え透いている。この世界の中のすべてはわざわざ見なくても分かるから。
私の思い通りになることが何一つないクソみたいな世界だけど、ただ知っているだけなら誰にも私を凌駕することができない。その憎らしいバリジタさえも。
アルカは信じられないようにしかめっ面をしながらも、私の言葉を簡単に否定することができなかった。
私の言葉自体を認めるのではないだろう。でもアルカ自身も知っているはずだ。テリアとの格差があまりにも大きく広がっている今はできることが少なすぎるということを。
「でも……お姉様が言ってました。『バルセイ』よりはるかに早く強くなっているって」
【確かに。『バルセイ』のこの時期、貴方はほんの少し強くなりたての女の子に過ぎなかった】
アルカは顔を少し明るくして安堵の息を吐いた。
私は別の意味でため息をつきたくなった。相変わらず重要なことを知らないんだね。
【貴方の成長が早まった以上に安息領の暴動も急激に強くなったよ。『バルセイ』よりもっと強くなったのは貴方だけじゃないという意味だね】
そう言うとアルカの表情がまた青くなった。
アルカが強くなったのは事実。ところが、安息領も事件を繰り上げるかまとめて多重作戦を展開している。
例えば今のアルカが『バルセイ』では一年後の彼女と同等だとしても、安息領が一年後の出来事を早めるとしたら? 結局プラマイゼロになる。
テリアが望むのは『バルセイ』の悲劇を超えること。アルカには安息領の急激な変化さえも乗り越えさせてもらおう。
【そしてもう一つ。勘違いしているようだから教えてあげる。貴方の力について誰よりもよく知っている存在は私よ。役に立つかという観点なら私がテリアよりマシでしょ】
「……お姉様を見下すたわごとには腹が立つけれど……」
アルカはついに私を狙っていた弓を下ろした。
表情はまだ不愉快でしかめっ面をしていたが、一方では強い疑問の眼差しを私に向けて放っていた。
「それ以前に。どうして貴方が私を助けると言うんですか? 貴方は邪毒神じゃないですか。何のために? 何を望んで?」
理由、か。
もちろん私には私の目的がある。それを成し遂げるためには私が嫌悪するバカの力であっても一応は必要だ。それで嫌悪感を抑えられずともこいつに手を差し出すんだ。
しかし……すべてをテリアに教えることはできなかった。
安息領の、バリジタの目的が変わったということ。正確には本来の目的とは別に第二の狙いができたということ。そのために安息領の暴挙にも今後変化が生じる予定だけど、その第二の目標が何なのかは教えることができなかった。
それをテリアが知ったら、彼女の行動は必ず私が望まない形に変質してしまう。それだけは防がないと。
だから私にできることはテリアが使える駒を少しでももっと強化してくれることだけ。
【私の目的はテリアが望むことを成し遂げることだけだよ。それ以外のことなんて正直どうでもいい】
「邪毒神の貴方がどうしてお姉様のために動くのですか?」
【そんなことを教えてくれる理由はない。それよりいつまでおしゃべりばかりするつもり?】
無駄な時間の無駄をやめて手に魔力を集中する。
ここは世界の中ではない。世界の外、比喩すると表の皮にくっつく感じで世界の外と世界の間に形成された異空間だ。
つまりここでは邪毒のような〝世界の反発力〟が働かない。当然私の力も完全に使える。
……まぁ、私の真体にまともに接すると人間なんかあっという間に崩壊するけどね。そのため、私の力のほとんどを遮断する障壁を設けている。副作用として私の姿が世界の中のように邪毒の塊のような漆黒に見えるだろうが、特に関係はない。
そのまま始めようとしたけど、アルカが慌てて手のひらを立てた。
「ちょっと待ってください。もう一つ聞きたいです」
―――――
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