潜んだ脅威
【知ってるでしょ? もう避けられない段階まで来ているってこと】
「……私も知ってる」
すでに予想はしていた。
隠しルートのラスボス。その存在は様々な意味で他のラスボスとは違う存在だった。
ただ隠しルートの進入条件を満たした時だけ出現の可能性が生じる存在。他のラスボスたちは裏事情を考えれば他のルートでも登場する可能性があるけれど、隠しルートのボスはルートに進入しなければ最初から現れることはできない。
その点でルートの進入条件をクリアしなければいい……と気楽な結論を下せたらよかったのに。
【テリア……ごめんね】
『隠された島の主人』の声ではなかった。イシリンだった。
すべてを知っている彼女だから言ったのだろうが……むしろ私はその謝罪が誘発した苦笑いのおかげで複雑さから少し離れた。
[貴方を連れてくることに決めたのは私よ。貴方が謝る理由なんてないわ]
【でも……】
[もういいのよ。貴方が謝ることじゃないってはっきり言った。そして対処法はもう考えておいたから大丈夫]
わざと強く言ったけれど、イシリンの感情は依然として感じられた。
しょうがないだろう。私としては本気でイシリンとは関係のない問題だって思っているけれど、邪毒神らしくなく優しくて思いやりのあるイシリンなら責任感を感じても仕方ない。
隠しルートの進入条件、その一つ目は
私が前世の記憶を思い出した後、一番先に推進したこと――始まりの洞窟からイシリンを連れてくること。その行動のメリットとデメリットの両方を知っていながら、私はそうすることにした。
イシリンを連れてきたからといって必ずしも隠しルートのラスボスが確定するわけではない。それはあくまでも第一条件に過ぎないから。
でもイシリンを連れてくるということは、すなわち邪毒の剣としての彼女の力を活用するという意味。そしてイシリンの力を活用すればするほど隠しルートのラスボスが登場する確率は高くなる。
今の確率はもう百パーセント。必ず登場すると言える段階をとっくに過ぎてしまった。
【後悔はないという表情だね】
『隠された島の主人』がそう言った。
何を今更。
「後悔なんかするわけないじゃない。全部知ってやったことよ」
『隠された島の主人』にも、そしてイシリンにも。宣言するように。いや、文字通り私の心を全部表わして宣言した。
「隠しルートのラスボスは確かに脅威よね。イシリンの力を借りるデメリットはそれ一つだけなのに、他のすべてのメリットを覆すほどだから。けれど私はそんなことなんか恐れないわよ」
【聞き方によっては無責任とも言える発言だけど?】
「は」
『隠された島の主人』の言葉を私は鼻で笑った。
本気なのか、それとも私を試すための言葉なのかは分からない。でもどちらにしても私の決心と決定は変わらない。
依然としてイシリンから感じられる申し訳なさを踏み壊すように、強い心を込めて話した。
「最初から私の目標は『バルセイ』のすべてを飛び越えることだった。あった悲劇を振り払い、なかったより良い未来を手に入れるために。隠しルートのラスボスなんて、飛び越えられなきゃ意味がないわよ」
【気概はいいね。でも貴方も知ってるでしょ? それは貴方の意志だけでできることじゃないんだ】
「もう準備はできている。そのために自分だけでなく、みんなを強くしようと頑張ったのだから」
隠しルートのラスボスは確かに凄まじい。
もちろん『バルセイ』では結局ラスボスを打ち破る。けれど隠しルートのラスボスの〝特殊性〟を考えれば、この現実でははるかに強く脅威的な存在になるだろう。
それでも私はイシリンの力を借りた方が良いと判断した。
『バルセイ』では自分が〝聖女〟だということさえ自覚できないままその役割を〝主人公〟のアルカに押し付けてしまい、結局アルカがすべてを背負わなければならなかった。しかし〝聖女〟と〝主人公〟は世界の必要によって誕生する存在。二人として選ばれた役を一人が背負うのは最初から無理だった。
それを本来の正しい形に戻し、イシリンという規格外の力を『バルセイ』の隠しルートよりも早い時期に手に入れる。そうすれば『バルセイ』の悲劇が押し寄せても、さらに激しい何かが襲ってきても対処できる。そう信じて行っただけ。
『隠された島の主人』は私の態度を見て【フフッ】と笑った。
【確信があるなら、それを推し進めるようにしなさい。その決意と意志がどこに向かうのか期待して見守るから】
「言わなくてもそうするつもりよ」
ラスボスピエリとディオスが同時に現れ、安息領が『バルセイ』のややこしい事件を相次いで起こせばかなり大変になるだろう。そこに隠しルートのラスボスまで降臨すれば最悪の事態になりかねない。
でも最悪なんか最初から乗り越える覚悟だった。
「もう話すことがないなら行ってみるわ。安息領の蠢動に対処する方法を話し合わなきゃいけないから」
***
【そうね。頑張ってね】
意思を表明するテリアを見送りながら、私はしばらく一人でその場に立っていた。
始めから知っていた。テリアが何を予想してどんな決心をしたのか。イシリンを連れてくるという決断のためには何が必要だったのか。
知らないわけではない。イシリンの力という簡単な手段に惑わされたわけでもない。それ以上の脅威と危険が潜んでいたことを知りながら、それを自分の手で突破する決意があっただけ。
言ってもテリアは信じてくれないはずだけど、私は心からその道を祝福する。彼女が成し遂げようとしていることを叶えてほしいと願っている。
だからこそ、今やらなければならないことがある。
「え?」
『転移』の魔力で移動した後、間抜けな音を吐くバカの首筋をつかんで異空間に投げ入れた。
―――――
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