手ごわい訓練
「……え?」
思わず声がこぼれた。
けれど母上は私の納得を待ってくれなかった。
――極光技特性模写『精神操作』
母上の魔力が一帯に広がった。
精神系の最上位に属する強力な特性である『精神操作』。その力が月の表面を完全に覆った。
私に影響を及ぼすためではなかった。それは……。
「グオオオォォオオ――!」
母上がばらまいた大量のミッドレース。奴ら全部が母上の完全な支配下に入った。
「母上!?」
「今日の課題は簡単なのよ」
母上は魔物を物理的に抑えていた魔力を解放した。けれど奴らは微動だにしなかった。ただ気持ち悪いほど静かな雰囲気で私を眺めるだけ。
本来の乱暴で野性的な意志など少しも感じられない眼差しがさらにぞっとした。
「魔物を全部殺したり、私に勝ったり。二つの目標のうち一つを達成しなさい」
簡単で分かりやすい目標。
だからこそ決して達成できないということを悟らざるを得なかった。
真っ先に飛びかかってきたのは――母上だった。
――天空流〈三日月描き〉
母上は一瞬にして私の目の前に現れ斬撃を放った。
なんとか私の斬撃で母上の〈三日月描き〉を受け流した。けれども母上はそんなことは気にせず何度も剣を振り回した。速くて鋭く、私には手に負えないほど重い斬撃が嵐のように吹き荒れた。
「うあっ、あっ! 母上!?」
「どうしたの?」
母上は平然と返事をしながらも剣を全然止めてくれなかった。だから必死に防御しながらぽつりぽつりと話を続くことになった。
「きゃあ、ッ……さ、さっきのジェリアの時と、ちょっと、違うんじゃない、ですの!?」
「水準に合わせるだけなのよ」
母上が剣を大きく振り回した。動作と同じくらい大きな力が込められた攻撃だった。剣を持って刃を受け止めたけれど、力に押されてそのまま吹き飛ばされてしまった。
私が飛ばされた所にミッドレースアルファの鋭い爪があった。
「!?」
空中で回転して爪を剣で弾いた直後、側面から魔弾が飛んできた。回転の勢いをそのまま続いてそれを切り落とすやいなや母上がまた迫ってきた。
「ふぅっ!」
母上は短い気合いと共に私を地に投げつけた。
私は地に墜落した反動を魔力で増幅し誘導して自分自身を弾き出した。
――天空流奥義〈満月描き〉
母上が再び接近してくる前に、先に規模を極大化した奥義を放った。周りのミッドレースが一撃で殲滅され空き地ができた。
すると母上は空き地の外のミッドレースたちに命令を下し、一斉に遠距離攻撃を発射させた。
一発二発ぐらいなら一般兵士ならともかく、私には大したことじゃなかった。魔力で身体を強化して、そのまま殴られてもいいくらい。けれど二重三重のぎっしりとした弾幕が形成されるほどの物量ならやっぱり私もそのように対処することはできなかった。
そして私が剣と魔力で弾幕に対処することこそが母上の狙いだった。
「隙間だらけね」
単純で簡潔な突き。
だがそれが〈五行陣〉に到達した今の私にも視認さえ不可能なほどの速度ならば、その威嚇は言葉では言い表せない。
「ッ!?」
慌てて体を反らして避けると共に反撃を試みた。けれど母上は流麗な動作で私の剣を受け流し、お礼以上の猛攻で応えた。
ジェリアの時と違って、母上の攻撃が激しかった。その代わりミッドレースは私を牽制する用途に使われるだけで、積極的な攻撃や防御には利用されなかった。
けれども母上との一対一も絶対に勝てない私には、そのくらいの活用だけでもとても手に余るものだった。
しかも私を苦しめるのはそれだけじゃない。
「ッ、はぁ……!」
剣を振り続けながら口では息を荒く吐く。
ここは月。空気の造成と気圧は人間が生きていけるものではない。
呼吸で酸素を補給できないため、魔力で細胞の維持と新陳代謝を担う。そして宇宙という環境に耐えるために体の表面にも魔力をずっと巻いていなければならなかったし、油断すれば宇宙に弾き出されるほど弱い重力に代わって魔力で私の体を月の表面に押し付けていた。
それを一瞬ではなくここにいる間ずっと維持しながら、母上の猛攻とミッドレース軍団の牽制を防ぐ。体力と精神力が両方とも削られ続ける。
普通に母上と模擬戦をする状況だったら今よりもっと激しい猛攻を受けても耐えられただろう。けれど今月という環境で模擬戦を持続するための魔力行使を維持するだけでも大変だった。そして激しく戦い続けることはなおさら。
「はあっ!」
――天空流奥義〈五行陣・木〉
時々隙を狙って強力な斬撃を放つこともあった。
けれど母上はその都度、平然と同じ威力の斬撃で相殺した。それだけでなく私たちの模擬戦で月が損傷しないように魔力で月を保護しながら。
正直には大変なのも大変だけど、その姿を見ているとさらに気後れした。
しかも母上の攻勢が激しすぎて目標を達成できるという気が到底しなかった。母上に勝つのは論外であり、ミッドレース軍団をすべて討伐することも攻撃する余裕自体がない今は成し遂げられない目標だった。
このような状況で後者の目標でも達成するには方法は一つだけ。今の攻勢に耐えながら、ミッドレースを攻撃する隙を作ることができるほど速くて強くて精巧な技量を習得すればいい。今母上が誘導するのがそれだ。
でもそれを成し遂げるには時間がどのくらいかかるのか、私自身も見当すらつかなかった。
――天空流奥義〈五行陣・金〉
可能性を見て未来を判断するために、金色の眼光を発して世界を観測する。
母上はそんな私を見て微笑んで、知っていても止められない攻勢で私を追い込んだ。
―――――
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