ベティ式訓練
「うぉっ!?」
ジェリアは突然の暴挙に戸惑いながらも、空中で体をひっくり返して見事に着地した。
下が海だけど着地という単語が似合うかどうか少し疑問だったけれど、ジェリアは自分の魔力で海面を凍らせて足場を作った。
彼女の後を追って母上が海面に降りた。ジェリアと違って海水の上にそのまま、まるで透明な足場でもあるかのように。
魔力で視力と聴力を強化して二人のやり取りを見守った。
「ジェリア・フュリアス・フィリスノヴァ。確かに貴方は強いです。その力を手に入れる経緯に良くないことが含まれていると聞きましたが、とにかく今の貴方はその力を持ってテリアの傍にいます。それは良いことです」
「ありがとうございます」
ジェリアはまだ母上の暴挙を理解していないよう慌てていたものの、一応お褒めの言葉にはお礼を述べた。
母上はニッコリお笑いながらもお声だけは冷たく言った。
「ですが力というものは持つだけで済むことじゃありません。特に貴方がこれから戦うはず相手たちには今の貴方では足りません」
「知っています。だからこそ大師匠が教えをくださるということに……」
「その前に後ろに気をつけてください」
母上がジェリアの言葉を切った直後。いきなり海から巨大な生物が飛び出してきた。
全体的な形状は黒い光沢で輝くナマズのような魔物だった。けれどごつい腕が胴体についていて、とにかく大きさが大きかった。本当めっちゃ大きかった。普通の山くらいにはなりそうだったし、手を伸ばせば上空にいる私たちにも届くと思う。
その魔物が突然ジェリアに向かって魔力砲を発射した。
「む!?」
ジェリアは驚きながらも素早く反応した。『冬天覇剣』で魔力砲を受け流し、反撃の斬撃で魔物を攻撃しようとした。
けれどジェリアが斬撃を放つ前に氷が揺れた。下から他の魔物が氷を強打したのだ。
「うおっ!?」
氷は一発で割れることはなかった。だけど二回目の攻撃がジェリアから少し離れた部分に大きな亀裂を作り、三回目で結局その部分が破壊された。
穴から飛び出したのは場所に似合わず牡牛に似た魔物だった。もちろん大きさはさっきのナマズと同じくらい。
それだけでなく氷を突き破って登場したり、あるいは氷の外側から出る魔物がますます増えた。大きさも形も様々な奴らがジェリアを睨み、魔力や肉体で彼女を攻撃し始めた。
ジェリアは当惑しながらもその攻撃に全部対処した。彼女の視線が母上に向けられた。
「大師匠! これは……!?」
「ここはこの世界で最も険しい海と言われるムストフ海ですわ。聞いたことはありますよね?」
「死の海のことですか!?」
「ええ」
ムストフ海、通称死の海。バルメリア王国のある大陸からは遠く離れている海だけれど、その悪名はすべての大陸で有名だ。
海の天気はたまに悪天候や台風に襲われる時以外はいつも怪しいほど穏やかで平穏。けれどその天気にだまされてそこを航海する瞬間地獄が現れる。
ここはこの世界で一番強い海洋魔物が生息する所だから。
なぜここの魔物が危険になったのかはまだ明確に解明されていない。海の下に邪毒を絶えず吐き出す空間の亀裂があるという説もあるし、遠い昔に討伐された邪毒獣の遺骸がここに水葬されたという説もある。
とにかくここの危険性が今はあまりにもよく知られていて誰も近づかない。そして位置がそれほど重要な所でもないから調査できる力があってもここに関心を特に持たない。
……私は
とにかくそんな危険な場所だということを知って、ジェリアの顔に緊張が漂った。
でもその中には疑問もあった。ここの魔物たちが母上には少しも関心を示していなかったから。関心以前、母上の存在に気づかなかったような様子だった。
母上はにこっと笑って、まだ言葉では言い表せない疑問に答えた。
「魔力を完璧に遮断しておけば、ここの魔物たちは存在を認識することができません」
言うのは簡単だけど、母上は今その魔力の力で海面の上に浮かんでいる。
しかも魔力をいくら効果的に遮断して隠しても、ほんの少しは気配が漏れるもの。そしてここの魔物は魔力の気配に極度に敏感だ。私さえもここで完璧に魔物の目を避けることはできない。
なのに母上はそれを平然とこなしていた。
「訓練の内容は簡単です。ここの魔物から完全に隠れることができるほど魔力の制御が上手になるか、絶えず押し寄せてくる魔物をすべて討伐するか。ここの魔物を討伐するには力で押し通すだけではいけません。優れた制御力で硬い肌を突き抜けるのが必要です」
「その程度なら……!」
ジェリアは絶え間なく降り注ぐ攻撃を防ぎ避けながらも、魔物たちを睨みつけ好戦的に笑った。その程度の課題ならできるって思ったのだろう。
けれど母上は魔物たちにだけ注意を向けるジェリアに注意を与えるように話した。
「ああ、言い忘れましたわね。訓練の主敵は魔物じゃありません」
「はい?」
次の瞬間、母上の刃がジェリアを斬った。
いや、今のそれは幻覚。ただ瞬間的に発出された圧倒的な殺気が見せてくれた虚像だった。けれどそれだけでジェリアだけでなく魔物たちまで瞬間的に動きを止めた。
その直後、虚像を実際に作ろうとするかのように母上がジェリアを攻撃した。
「うおっ!? だ、大師匠?」
「親切な予告はたった今でおしまい」
母上の気配がまたきれいに消えた。目の前にあるのに存在を認識することが難しいほどのかすかさだった。
「これから激しく行きます。
ジェリアは唾を呑んだ。
剣聖の母上の攻撃に耐えながら、ここの凶悪な魔物たちに対処しろなんて。ジェリアでも生命の脅威を感じるような訓練だ。
でも母上は平然としていた。
「死に至るほどの致命傷を負えば治療してあげますので、安心して死にながら強くなってください」
―――――
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