トリアの力

 狂竜剣流の奥義であり持続可能な魔力の嵐を扱う〈竜王撃〉を放ち、同時に神竜の攻撃を並行する。


 テリアですら真剣に取り組まないと対応できない攻撃だが、トリアはどうだろうか。


 トリアは神竜の方を見向きもせず、ボクの斬撃だけに対応しようとするかのように手を伸ばした。


 ――『融合』専用技〈形状取捨〉


 トリアの肩から突然巨大で奇怪な腕が飛び出した。


 その腕が上から浴びせられる神竜の魔力砲を防ぎ、トリア本人の手が斬撃を相殺した。直後トリアが突き出した反撃の拳は氷の上で受け流したが、トリアの脇の下で育った触手が先端を開いたままボクを照準した。そこから魔弾が発射された。


「ほぉ?」


 魔力を込めた拳で魔弾を弾いた。そして神竜に命令して巨大な氷雪の怒涛を吐かせた。


 トリアはそれを避けて後退し……なかった。


「失礼します」


 トリアが噴き出した炎風が変形し、巨大な手を五つ作り出した。


 炎風が形を変えたのではなかった。トリアが抱いている魔物の形状が炎風と融合したものだった。物理的な実体と強力な力、そして炎風の否定形の力まですべて含まれた独特な権能だった。


 同時にトリアの拳の周辺でも炎風の拳が無数に現れた。


 ――トリア式極拳流〈閃拳・多腕連式〉


 本体の拳と炎風の拳。そのすべてが迅速の権圧を放った。


「そういえばラスボス化の前は君の手足を炎風に変えるのが得意だったな!」


 それをボクは〈暴君の座〉の権能が込められた魔力で振り払った。


 直後同じ権能の力で斬撃を放つと、トリアは拳に魔力を集中した。それを鋭く突くように放つと斬撃の一部分だけが突破された。


 しかしそれだけでも魔力が複雑に絡み合った斬撃の結束が崩れた。トリアはそのように散らばる魔力を力で突破した。魔力に残っていた〈暴君の座〉の力が甲殻を削ったが大きなダメージではなかった。


 突進してくるトリアをさらに強力な魔力で迎える――そう思いながら剣を振り回そうとした途端、トリアの炎風が異変を起こした。




 ***




『融合』は物質ではなくエネルギーや魔力さえも物質と融合できる特性。


 炎風を私自身と融合すれば肉体を半分ほど実体のないものにすることができ、逆に炎風を手足として使うことができる。


 もちろんそのように融合した炎風を他のものと再び融合させることも。


 ――『融合』専用技〈一時融合〉


 下半身を起点に炎風を周辺一帯に広め、それを地面と融合させた。


 足、炎風、大地。その全部が一つにつながって私の体の一部になった。


「うおっ!?」


 ジェリア様の足元を揺らし、周辺の大地を無数の炎風の触手に変えた。戦場の地面そのものを自分勝手に揺るがし私の武器に変えたのだ。


「バカな手だが強力だな!」


 ジェリア様は嬉々として神竜を動かした。神竜の巨大な足がジェリア様の周辺を踏んで壊した。その直後、神竜の形が崩れてジェリア様に集まった。


 神竜そのものを自分の力で扱うための態勢。今のジェリア様の最終形態だ。


「まさかボクの〈冬天世界〉の一部まで奪うとは。今の君は世界権能を相手にすることに特化したのかもしれないぞ」


「そうなんですか?」


「そうだ。世界権能の侵食技の本質は展開された世界が術師に力を供給することだ。ところが君の『融合』がボクの周りの一部を奪ったせいで力が少し弱くなったぞ。特に法則発現〈暴君の座〉の力に差が感じられる」


 それには私も驚いた。そんな効果があるとは思わなかったから。


 私に新しい力ができたわけではない。ただラスボス化の影響で今の私は力の出力が格が違うように強くなった。そのおかげで侵食技の一部まで奪えるようになったのだろう。


 ジェリア様も味方同士の模擬戦だから素直に教えてくださったのだろう。敵と戦う前にこんな機能があるということが分かってよかったね。


 まだやったことはないが、空間そのものにも少しは影響を及ぼすことができると思う。それなら空間能力にもある程度対応できるだろう。


 たとえ世界権能や空間能力が相手の状況じゃなくても、周辺の地形と環境を丸ごと飲み込んで戦場をコントロールする戦法なら誰にでも有効なはず。


 もちろん私に何ができるようになっても、ジェリア様の好戦的な勢いは少しも減らなかった。


「緊張解くなよ!!」


 神竜の力を纏ったジェリア様が突進した。


 侵食技の一部を奪ったり戦場を自分勝手に操ったり。そんなことなんか何でもないと言うように、圧倒的な力ですべてを吹き飛ばす突進。


 炎風化した大地の触手をすべて神竜の力で破壊し、弱くなったという言葉が空言ではなかったかと疑うほど強力な斬撃を放った。


「本当に弱っているんですか!?」


 呆れて叫びながらも対応は速やかに。


 私の周りの大地の触手に私自身の肉体をさらに混入して強化した。地面そのものが魔物化して作り出した巨大な拳すべてが〈一点極進〉を放った。同時に本体の私は突進しながら両手に魔力を凝縮した。


 ――トリア式極拳流終結奥義〈二紋融陳〉


 複雑な小細工とか悩みとか全部吹き飛ばして、今私が使える最高の一撃を準備する。


『獄炎』と『天風』の魔力をそれぞれ特殊な文章形態の術式で編み、二つの術式の共鳴と融合で魔力を極大化する。それを手に握って放つ。


 安息領に拉致される直前に完成した奥義だが、私の精神が健全な状態で実戦で使うのは今回が初めて。増幅された力で予想以上の出力を出すことに私自身も驚いた。


 しかし、ジェリア様は嬉々としているだけだった。


「良かろう。相応のもので見せてやろう」


 ――ジェリア式狂竜剣流『冬天世界』専用技〈神竜の激怒〉


 神獣と侵食技の力がたっぷり込められた極強の斬撃が〈二紋融陳〉と激突した。


―――――


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