新しい模擬戦
考えてみたらここに来るのもかなり久しぶりだね。
呪われた森の秘密基地。森の魔物を討伐するのも、基地内の結界で模擬戦をするのも昔は日課だったけれど、最近は安息領との実戦の連続だったからここを訪れる頻度自体が激減した。
そんなここでも最大の結界。空間拡張を極活用して中に小さな荒野の世界を設けた場所で、ジェリアとトリアがお互いに向き合ったまま立っていた。
観戦は私の他にもアルカ、ロベル、リディア、シド、ジェフィス、イシリン。そして私たちと一緒に行動することが相対的に少ない人、アルカの専属メイドであるハンナ。甚だしくは普段は王城で働くためにこのような席にあまり来ないケイン王子までいた。
私の主要仲間たちは皆集まったわけだね。
「準備はできたか?」
「準備は要りません。私は素手で戦うタイプですので」
「いい勢いだ」
ジェリアはトリアの返事に満足そうに笑い、眼鏡を外して懐に入れ『冬天覇剣』を地面に突き立てた。そして魔力を開放した。
――『冬天世界』侵食技〈冬天世界〉
いきなり全力で。
ジェリアの浸食機が模擬戦用結界を覆い隠した。
「ジェリア!?」
「始めるぞ!!」
最初から侵食技まで展開して本気を出すとは思わなかったので慌ててジェリアを呼んだけれど、ジェリアは私を完全に無視して好戦的に飛びかかった。
地に突き立てた『冬天覇剣』を抜かずに氷の重剣を作ったのを見るとまだ全力を尽くすつもりはないようだけれど、十分すぎるほど強い。
でもトリアは慌てなかった。
「いくらでも」
トリアの姿が一瞬にして変わった。
顔を除いて、現れたすべての皮膚が甲殻に覆われた。背中からは四つの翼が生え、全身から『獄炎』と『天風』の炎風が強く吹き出した。
暴走した時の初期の姿と似ていたけれど、顔だけは何の変化もない普段のトリアのままだった。
――狂竜剣流〈一縦〉
――極拳流〈一点極進〉
ジェリアは単純だけど強い縦斬りを。
トリアは炎風の消えた拳を放った。
いや、消えたのではなかった。腕から吹き出してきた炎風をすべて拳の中に凝縮しただけ。その証拠として、拳の甲殻が赤く熱して強力な魔力が感じられた。
トリアの拳がジェリアの氷の重剣を破壊した。
「ほぉ?」
ジェリアは拳をかわして自分の拳を突き出した。トリアはそれを手のひらで往なし、その腕をそのまま回して肘でジェリアの脇腹を狙った。ジェリアは氷の盾でそれを防いだ。
肘の一撃が氷の盾を破壊した瞬間、『冬天覇剣』がジェリアの手に飛び込んできた。
「一応合格だ」
「光栄です」
その後はとても早くて華やかだった。
世界全体で吹雪のように吹き荒れる無数の氷の武具。剣術と体術に伴う氷雪の波。世界全体の時間さえ遅くさせる超越の冷気。
狂竜剣流の奥義や侵食技の法則発現まではまだ使っていなかったけれど、ジェリアの威容は〈冬天世界〉の真骨頂を十分に表わしていた。
それに対し、トリアは世界全体が自分を敵対するような圧倒的な氷雪の怒涛と冷気に単身で立ち向かった。
時には〈傀儡の渦〉の干渉で氷雪と魔力をそらす。時には凝縮された炎風の力で氷の一撃を破壊する。時には赤く熱した甲殻を使って〈冬天世界〉の怒涛を正面から突破する。
手足の流麗な動きがジェリアの『冬天覇剣』を数百回受け流した。時には力が凝縮された拳がジェリアの強力な一撃を相殺した。
ケイン殿下が強力な結界を展開してくれたおかげで、観衆の私たちに余波が及ぶことはなかった。けれどそのために殿下は始祖武装『覇王の鎧』まで活用して結界を繰り広げなければならなかった。
「本当に……すごいです」
「そうね」
アルカの憑かれたような呟きを聞いて頷いた。
今二人の勢いは完全な互角。しかも両者ともまだ全力を尽くす状態ではない。トリアの方はまだ正確な限界が分からないけれど、私の予想が正しければまだ余裕があるはずだ。
しかも……今のトリアはすでに実質的には暴走した時よりも強い。
魔力量と破壊力と身体能力のようなスペックはあの時が格段に上だった。けれど技術と戦術の精巧さは理性が完全な今が圧倒的な格上だ。しかも足りない出力でさえ極拳流の精髄をきちんと具現する技量で補うおかげで、狭い範囲なら暴走した時とほぼ同等の破壊力を引き出すことができる。
ジェリアは暴走した時のトリアと戦ったことがないけど、今のトリアの力にかなり感心したようだった。
「期待以上だな!」
ジェリアの顔には好戦的な歓喜があふれていた。
――『冬天世界』侵食技〈冬天世界〉法則発現〈暴君の座〉
――『冬天世界』専用技〈神獣召喚〉・『リベスティア・アインズバリー』
〈冬天世界〉のすべての力がジェリアに集約され、巨大な氷の竜が翼を広げて咆哮した。
こら! いくら楽しくてもそれはダメでしょ! もう完全な全力の臨戦態勢じゃないそれ!!
思わず悲鳴をあげそうになったけれど、その前にジェリアの斬撃と氷の竜の挟み撃ちがトリアを襲った。
***
ああ、期待以上だ。
剣を振り回して氷雪を吐き出しながら、まだ決着がつく気配さえ見えないという事実に歓喜した。
侵食技のすべてをさらけ出して浴びせることは文字通り小さな世界の重さ全体で押さえつけるようなものだ。それに単身で立ち向かえる味方など、これまではテリアだけだった。
『バルセイ』ではボク以外にも攻略対象者全員が世界権能に到達したというから、いつか皆がこの領域まで上がってくるだろう。だがそのような期待さえなかったトリアが一番先にテリアとボクの領域まで到達したのは嬉しい誤算だった。
トリアを見下したわけでも、無視したわけでもない。ただ現実的にトリアがボクたちの領域に到達する方法がなかった。そうだったのがまさかボクと似たような経緯で同じ領域に至るとは。
強力な模擬戦の相手が増えただけではない。何よりも――ボクの大切な親友であるテリアを、彼女の悲願を助けられる仲間が増えたことが何よりも嬉しかった。
その喜びを加減なくぶつける。
「さあ、もっともっと激しく行くぞ!!」
―――――
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