平原の混戦

 結局、トリアに追いつけなかった。


 率直に言うと、トリアがこのような突発行動をしても何とかなると思った。トリアの持つ力に比べて実質的な威力が低かったから。


 感じられる魔力量はジェリアの暴走以上。でも実際に感じられる威力はジェリアの時よりはるかに弱かった。私が強くなったからじゃなく、トリア自身が持つ力をまともに使えなかったためだった。


 力とは単に魔力量の大きさだけで決まるものではない。それをどれだけよく整え、圧縮して威力を極大化するかも重要だ。そんなテクニック的な部分で今のトリアはあまりにもひどかった。


 単に理性を失って暴走するせいだけではない。『バルセイ』では。おそらくトリアが中で抵抗しているからだろう。


 しかし……そういう状況だから、持つ魔力量自体はジェリアの時を格段に上回ることを忘れてしまった。


 いきなり全力で飛び出したトリアは私さえもついていけなかった。ジェフィスはスピードの面では追いかけられたけれど、トリアがあまりにも圧倒的な炎風を放っていたため接近できなかったし……結局トリアの後でラグナス平原に進入することになった。


 こんな事態も想定しておいたものの、正直言って起きてほしくなかったのに――。


【――――!!】


 フィリスノヴァ公爵がトリアを地面に叩きつけた瞬間、トリアは極度に濃く集中した炎風を放出した。


 これまでの曖昧な威力とは違う。私がターゲットだったとすれば〈五行陣・木〉ぐらいは使ってこそやっと相殺するかどうかの威力だった。


 その力には公爵も驚いたように後ずさりした。そんな彼の後ろで母上が冷静な目で奇襲をかけた。


 ――天空流奥義〈五行陣・木〉


 その瞬間、公爵も魔力を集中した重剣で斬撃を受け流した。だけど五行陣の奥義を受け流すにはさすがの公爵も力を大きく使わなければならなかったし、その隙に母上とトリアが同時に公爵に飛びかかった。


「面白いぞ」


 ――狂竜剣流〈竜王撃・地竜〉


 公爵は大地に剣を立てた。地面の下へと噴き出した〈竜王撃〉の渦が地面を揺るがし破壊した。壊れた足場が斬撃の嵐と共に巨大なミキサーになって一帯のみんなを狙った。


【――――!!】


 ――トリア式極拳流奥義〈二紋融陳〉


 精製された『獄炎』と『天風』の魔力が共鳴増幅され〈竜王撃・地竜〉を突破した。いや、極度の魔力が〈竜王撃・地竜〉を吹き飛ばした。けれどそれさえも余波に過ぎず、〈二紋融陳〉の魔力は見事に増幅され公爵を狙った。


「うむ!?」


 公爵は剣を立てて防御した。彼の固有武装の力を最大に高めて。その上にトリアの〈二紋融陳〉が炸裂した。


 集中した魔力が降り注ぎ――公爵の剣にひびが入った。


「……わしの固有武装にダメージを与えるとは」


 ゆっくりと驚く彼の後ろでは母上がすでに斬撃を放っていて、頭の上では父上が転移させた魔弾と魔道具の砲撃が浴びせられた。彼の前でもトリアが再び圧縮された炎風を放っていた。


 けれど公爵はゆっくりと驚愕する余裕を持つ資格があることを証明した。


「いいぞ」


 ――パロム式狂竜剣流奥義〈覇竜の降臨〉


 公爵は剣を高く持ち上げた。魔力の暴風が彼の周りを襲った。


 単に物理的に破壊するだけの暴風ではなかった。彼の特性である『支配』の魔力からなり、敵の魔力の制御権を強奪する暴悪な攻撃だった。もちろん一様に強者であるだけに力の制御権を奪われたのは一部に過ぎなかったけれど、それだけでも魔力の方向を誘導して撹乱することは可能だった。


 母上とトリアは暴風の衝撃波にはね飛ばされた。トリアの方向は私の方だった。


 トリアの視界に私が入った瞬間――彼女は悲鳴のような咆哮をあげ、巨大な炎風の爪をいきなり私に振り回した。


「きゃっ!?」


 驚いて思わず悲鳴をあげながらも、腕は速やかに動き炎風を切り裂いた。そして腕一本ぐらい切り取る覚悟で剣を振り回した。トリアは固い甲殻と圧縮された炎風の魔力で斬撃を防いだけれど、力に押されて後ろに飛ばされた。


 意図したものじゃなかったけれど母上の方向だった。


【―――――!】


 ――極拳流〈頂点正拳突き〉


 トリアの拳が母上に殺到した。母上は剣さえ使わず、迅速で鋭い蹴りでトリアの拳を払った。その後を継いだ閃光のような蹴りがトリアのあごに炸裂した。


 衝撃で飛ばされたトリアと、母上を攻撃しようと突進していた公爵の目が合った。


【―――――!!】


 ――極拳流〈一点極進〉


 トリアの拳と公爵の剣が正面衝突した。両方同時に跳ね返り、同時にその勢いを利用して逆方向に回転した。続く斬撃と拳がもう一度激突した。ぶつかるたびに破壊的な衝撃波がクレーターを作った。


 目に見える通り無差別に攻撃してはいるけれど、威力と攻撃性に違いがある。私や母上を攻撃する時は持つ力をまともに活用できずにいるが、公爵を攻撃する時だけはラスボス化に相応しい圧倒的な威力を発揮していた。


 これは……おそらくトリア自身の抵抗の違いだろう。フィリスノヴァ公爵を相手に自制する必要がないから。


 ということはトリアの自我がまだ完全に飲み込まれてはいないという意味。『バルセイ』では彼女を元に戻すストーリーなど存在しなかったけれど、今はもしかしたら可能かもしれない。


 でも時間が多いとは言えない。だから急がなきゃ。


「アルカ、行こう! サポートして! ロベルとジェフィスは隙間を見て撹乱をお願い!」


 指示を出して先頭に立って突撃した。〈五行陣・金〉の金色の眼光を輝かせ、莫大な魔力を両手の剣に凝縮しながら。


 けれど……混戦をしている人々が一様に私以上のバケモノたちだということを、しばらく意識できずにいた。


「――お前は使いそうだな」


 公爵が突然目の前に現れたことに反応できなかった。


―――――


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