平原の戦い

「流石だな、ベティスティア。以前より錆びたとはいえ、依然として脅威的な剣だ」


「心にも……ないことを!」


 パロムの見せかけだけの称賛を苛立ちで返し、本気で殺すための剣を振り回す。


 ――ベティスティア式天空流〈三日月描き・天裂く爪痕〉


 現役時代、邪毒獣の腕を一撃で切った斬撃。


 でもパロムはたった一度の振りで魔力の斬撃を突破した。むしろ彼の魔力が私を脅かした。


 パロムの魔力を剣で受け流し、近づくために姿勢を低くした瞬間、彼はすでに私の目の前にいた。


 ――ベティスティア式天空流奥義〈山の上にかかった満月〉


 ――パロム式狂竜剣流奥義〈竜王撃・太山踏み壊し〉


 巨大な魔力の球体を斬撃の嵐が支える形の奥義を放った。するとパロムは巨大な暴風で圧倒する斬撃を放った。魔力が入り混じって衝撃波が激しく広がり……圧倒したのはパロムの方だった。


 けれど私はパロムの斬撃の暴風が殺到していることを気にせず走った。


 暴風が私に届く直前、突然現れた空間の門が暴風を飲み込んだ。そしてパロムの頭上で別の門が開き暴風を吹き飛ばした。


「ふむ」


 パロムは左手の拳を持ち上げた。拳圧が斬撃の暴風を吹き飛ばした。そして持ち上げたものをそのまま準備姿勢にして拳を突き出した。その拳と私の剣が正面からぶつかった。


「っ!?」


 固い拳が私の剣を突破した。その影響でバランスが崩れる間、パロムの手が私の胸ぐらをつかんだ。


 パロムがその勢いのまま私を地に叩きつける瞬間、その地点に空間の門が開かれた。パロムは手首が切断される直前に手を放して腕を引いた。


 空間の門から移動した地点はパロムの頭上後方だった。


 ――天空流奥義〈五行陣・木〉


 ――狂竜剣流〈竜王撃・狂顎〉


 最も強力な斬撃を放った瞬間、パロムは〈竜王撃〉の嵐をまるで包囲するように展開した。歯で噛みちぎるような斬撃の嵐が〈五行陣・木〉を正面から受け止めた。


「ふん!」


 ――天空流奥義〈五行陣・火〉


〈五行陣・木〉が描き出した魔力の線を爆発させ無数の斬撃の欠片に変換した。それが〈竜王撃・狂顎〉を破った。


 剣と剣が再び激突する直前、パロムの背後で空間の門が開かれた。強力な魔槍と魔弾が彼の背中を狙った。


「ふむ」


 パロムは右手の剣で私の剣を受け止め、左手を広げて魔力の障壁を展開した。魔槍と魔弾の雨が障壁を破壊したけれど、その短い間にパロムは左手に集中した魔力で拳圧を放ち空間の門ごとに弾幕を叩き壊した。


 その瞬間、パロムが放った破壊の衝撃波を他の空間の門が吸収した。そしてその衝撃波が私の剣に降り注いだ。


「はあっ!」


 絶妙な魔力操作で衝撃波を剣身に纏って振り回した。衝撃がパロムを二歩押し出した。けれどパロムはニヤリと笑った後、突然後方に魔力を放った。その反動で突進してきた。


「速いだけの小細工は好みではないが――」


 ――狂竜剣流〈狂暴乱舞〉


 ――ベティスティア式天空流〈月光蔓延極光満開〉


 肉眼で認識することもできない速度の連続斬撃。全部打ち返した。けれど最後に刃を合わせた瞬間、パロムが突然剣身を回転させ私の剣を弾き出した。


「ふぅっ!!」


 私を守るために空間の門が数十個展開されたけれど、パロムが気合と共に放った魔力が門をすべて破壊した。


 もともと空間の門はいくら魔力を使っても物理的に干渉できないのに、さっきからお菓子のようによく壊すわね本当に……!


 心の中で不平を言いながらも早く姿勢を収拾しようとした。でもパロムが先に剣を振り回し――。




 ドカァン、と。突然の魔力の爆発と爆音が瞬間的に私たちの注意を引いた。




「何だ?」


 パロムは剣を振り回そうとしたのを止め、そっちを振り向く余裕を見せた。少し腹が立って奇襲で〈三日月描き〉を放ったけれど、彼は見ることもせず左手で魔力の斬撃を握りしめて壊してしまった。……ち。


 一方、次の攻撃を準備していた私に旦那様の思念通信が届いた。


[ベティ、大変だ]


[どうしたんですの?]


[どうやらあれ、テリアの方だと思う]


[……予想はしましたわ]


 というよりすでに魔力に感じていた。私の本来の特性である『看破』はすでにレベルが非常に高く、この平原全域ぐらいは戦闘に集中する間にも余裕を持って精密探知が可能だから。あんなに派手に攻め込んできたのに誰かもわからないことはない。


 けれど、知っているからといって安心できるものではなかった。


[こちらの戦いにテリアの方が巻き込まれると危ない。テリアたちが危険になるだろう。それに変数を統制できなくなることもある]


[それは私も知っていますわよ]


 思念通信を保ちながら、表向きは平気なふりをして猛攻を浴びせた。私の力はパロムも無視できないほどなので、パロムもまた私の方に視線を戻して戦いに臨んだ。


 でも旦那様の力でも、あっちの状況を完全に統制することは不可能だった。


【――――――!!】


「うむ?」


 魔力の反応はコントロールできないほど早く近づき――この場で最も巨大な魔力、すなわちパロムに飛びかかった。


「トリア!?」


 テリアに聞いたことはあるけれど、本当に怪物に変わったトリアだった。感じる力だけはほとんどパロムと同じくらい……いや、今のパロムよりはもっと巨大かも。


 でも勝手に暴れてまともに制御されない力はパロムにとって脅威ではなかった。


「興味深いぞ」


 パロムは全力の横斬りで私を先に狙った。その攻撃自体は剣で防いだけれど、力に押されて飛ばされてしまった。


 その直後、パロムは自分に飛びかかるトリアの拳を自分の手で握った。


【――――!】


「生半可だ」


 大地をあっという間に溶かして蒸発させ、平原全体を燃やす勢いで炎風が燃え上がった。


 しかしパロムはしかめっ面一度すらせず、平然とトリアを地面に叩きつけた。


―――――


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