一つの任務

 僕がテリアに師事して以来、僕の力がどのようなものなのか十分に把握して確認した。


「ジェフィス。貴方の速度は本当にすごいわ。速度だけじゃ私も対応しにくいくらいになったのよ」


「ただ早いだけだよ。力も鋭さも破壊力も足りないんだ」


 ある日、テリアと交わしたやり取り。


 スピードは物理力だが、圧倒的な魔力の前では単なる物理力なんてないのと同じだ。いくら強い物理力を動員しても、一定水準以上の魔力の防壁なら傷つかずに防ぐことができる。そして物理的にいくら硬くても一定水準以上の魔力の刃なら切ることができる。


 逆に魔力の威力が十分でなければ、いくら物理力が強くても意味がない。


 しかしテリアは首を横に振った。


「直接の攻防ならそうでしょ。けれど、戦闘ってのはお互いに剣を突き合わせることだけがすべてじゃないわ。貴方の圧倒的な速さは確かに多くのことを成し遂げられるようにしてくれるの。直接的な攻撃力と防御力が足りないって言ってもね」


 テリアはそう言ってくれた。


 僕は彼女の言葉によって僕の長所を極限まで磨き上げた――


「はあっ!」


 炎風を剣閃で斬り裂き、暴走するトリアに殺到して剣を振り回す。


 トリアはより熱く、より圧縮された魔力の炎風で応酬した。剣にコーティングした魔力が耐えられず、結局再び退いた。


 トリアは翼を広げて炎風を大きく広めた。周辺一帯が火炎の嵐に覆われた。


 しかし、炎の欠片一つも僕に届かなかった。


【!?】


 直撃すれば僕なんかあっという間に蒸発して消滅する炎風だった。しかし僕は嵐の流れを見抜き、極限の速さで全部避けた。暴風を突破し、剣が届く距離まで接近するのもあっという間だった。


 これが今の僕。圧倒的な威力も防御力もないが、何も僕には届かない。そして届かなければ僕を殺せるものは何もない。


 敵を殺すことは不可能かもしれない。だが敵も僕を殺すことはできない。


 誰よりも速い速度ですべてを避け、敵を追い込んで疲れさせて次のための機会を作ること。『バルセイ』では〝あの日〟死んだ僕が、生き残った後に僕自身に与えた役割だった。


 その努力の成果を今度こそ見せる時だ。


「ロベル!!」


「はい!」


 周囲に大量の幻影が氾濫した。


 攻撃のダメージを完全に回復したロベルが再び参戦した。氾濫する幻影でトリアの感覚を騙し、〈虚実反転〉で僕に匹敵する速さを自分自身に与えたまま。


 ロベルが正面からトリアの炎風をくぐり抜けて突進した。彼の拳とトリアの拳が激突した瞬間、後方から僕の剣がトリアの背中を狙った。目標は翼を切ること。


 トリアは超反射で僕の剣が狙う部分に魔力を集中して防いだ。炎風の拳圧が僕とロベルを同時に襲った。しかし僕たちは二人とも速さで避けた。


 ――月竜流〈竜の息づかい〉


 ――極拳流〈閃拳・連式〉


 スピードを生かした連撃を両方から放つ。するとトリアは隙のない巨大な炎風の面積攻撃で連撃を相殺し、再び地面へと破壊的な火炎を展開した。今度は跳ね上がる魔力が幻影の足場まで破壊した。


【――――!!】


 ほんの一瞬、足が止まった刹那の瞬間。炎風を纏った破壊の手のひらが僕を狙った。瞬間発揮できる限界まで絞った魔力で剣をコーティングして受け流し、体を横に曲げて直撃を避けた。


 その後、トリアの腕を踏んで上へ跳躍した。そして魔力の足場を作って素早く後退した。


 ――ロベル式極拳流〈幻雷極進〉


 ロベルは稲妻のような速さで雷電を放つ拳を突き出した。莫大な魔力がトリアの炎風を切り裂いて食い込んだ。しかしトリアはロベル側に炎風を集中させ、炎風と雷電が互いに相殺された。


 その瞬間、ロベルは〈虚像世界〉の魔力を大きく高めた。


 ――『虚像世界』専用技〈偽りの万物の遊び場〉


 視覚、聴覚、嗅覚、触覚、さらには味覚まで。すべての感覚が勝手に暴走し、存在するはずのないものがあらゆる所で暴れた。童話の中に出てきそうな可愛いおもちゃが生きて動いたりとか。幻影が多すぎて僕の方からもトリアの姿がよく見えないほどだった。


 あれらを〈虚実反転〉で実体化することも可能だが、ロベルはそうしなかった。幻影をあくまでもごまかしとして使い、すべての力を拳に集中したのだ。


 同時に僕は反対側から最大の『加速』で突進した。


 ――ロベル式極拳流〈幻雷極進〉


 ――月竜流奥義〈天閃光牙〉


 極限まで圧縮された雷電の拳と極限まで加速した神速の剣。両側から最速の挟み撃ちが近づくと、トリアは翼を広げて力を爆発させた。


「うおぉっ!?」


 まるで今まではただのいたずらだったと言うような力の発散。いや、確かに今まではまともに発揮しなかったのだろう。それを証明するかのように暴力的な力がすべての方向を荒した。


 しかしロベルが実体化させた幻影が炎風の一部をいなし、残ったものは速度で避けながら接近した。ロベルの拳が腹部を、僕の剣が首筋と肩を狙った。


 その瞬間、トリアは両手で魔力を放った。


 滝のように魔力を注ぎながら水平に回転。横方向のすべてを殲滅する炎風の濁流が周辺を荒した。ロベルと僕は最大速度で後退したがすべての幻影が燃えて消滅し、僕の双剣が完全に溶けた。


 瞬く間に武器を失い――計画通りになったことに笑みを浮かべる。


「解除します!」


 まだトリアの魔力発散と回転が続いている途中、ロベルがそのように叫びながら〈虚像世界〉を解除した。


 浸食技を解除する際の空間操作で、僕たちは窪みの上に移動した状態。穴の中で大きな力を発散するためにしばらくトリアだけが固まっていた。


 そちらに飛び込む人影が二人。


「よくやったわ」


 テリアとアルカだった。


 僕たちが中で時間を稼いでいる間に力を集中し、トリアが巨大な力を発散する隙間を誘発すること。それが僕たちの任務だった。


 もうバトンは渡された。


―――――


近況ノートでご報告させていただいたのですが、先週末に実家に行って、実家のインターネットの問題で更新できませんでした。

このようなことが再発しないように方法を講じるようにします。

本当に申し訳ございません。

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