二人の男の戦い

 既に目で追うことさえ難しい神速。僕たちの中であのスピードに対応できるのはテリアお嬢様くらいだろう。だがお嬢様でさえ完璧に受け止めることはできないだろう。


 でも今のトリア姉貴は違った。


【――――!】


 翼と腕から前方に向かって炎風が放出された。その反動でトリア姉貴の体が後ろに後退し、ジェフィス様の刃は胸を軽く切ることで済んだ。服の下に胸を覆った甲殻が少し割れているのが見えた。


 トリア姉貴はジェフィス様を攻撃するために腕を伸ばした。炎風が威嚇するとジェフィス様は後ろに退いた。後退するのも目に見えないほどの速度だった。


 トリア姉貴が追いかけようと腰を下げた瞬間、僕が炎風を避けて下段に突っ込んだ。


 ――『虚像世界』侵食技〈虚像世界〉法則発現〈虚実反転〉


 数多くの幻影で目を欺き、不規則に実体化した幻影が姉貴を攻撃し、姉貴が噴き出した炎風を虚像化して受け流す。


 しかし姉貴の魔力と炎風はあまりにも強力だった。僕の攻撃は炎風に燃えてしまい、姉貴の攻撃のほとんどを幻影で誘導し虚像化したにもかかわらず耐えられず、後退しなければならなかった。その上、姉貴の炎風が強大なため、虚像化に莫大な魔力が必要だった。


 だが注意を引いただけでも僕の役割は十分果たした。


 ――極拳流〈一点極進〉


 ――月竜流〈朔月竜牙〉


 姉貴が僕に向かって拳を突き出した瞬間、姉貴の後方に現れたジェフィス様が極銳の斬撃を放った。


 しかし姉貴は止まらなかった。ただ羽で炎風を吹き出すだけ。ジェフィス様の攻撃を相殺すると同時に、さらに反動で僕の方へ突進した。


 拳から爆発した炎風を〈虚実反転〉で虚像化したが、拳そのものは防げなかった。巨大な鉄の甲殻を実体化した腕で〈一点極進〉を受け流そうとしたが威力を殺せず甲殻ごと右腕が壊れた。


「くっ!?」


 姉は足を上げて僕を蹴飛ばそうとした。膨大な魔力と炎風を放つ蹴りが僕に直撃したら死んでしまうだろう。


 しかし、その時すでにジェフィス様の剣が姉貴の首に突っ込んでいた。


【!?】


 姉貴は反射的に身をかがめて避けた。そしてその勢いをそのまま回転力に変えて拳を伸ばした。だがその時すでにジェフィス様は反対側に移動した後であり、再び放たれた〈朔月竜牙〉が姉貴の左腕を狙った。


 その瞬間、姉貴は明確な敵意が込められた視線でジェフィス様を睨んだ。


 姉が認識した〝敵〟が変わった――僕とジェフィス様は同時にそれを感じた。


【―――――!!】


 姉貴の拳がジェフィス様に放たれた。ジェフィス様は炎風と拳の直撃を避け、風圧を剣で振り払いながら側面に移動した。


 ――月竜流〈竜の息づかい〉


 ジェフィスの双剣が巨大な閃光を生んだ。


 テリアお嬢様の〈月光蔓延〉に似た極限の乱舞。しかしトリア姉貴は巨大な炎風を放つ面積攻撃で斬撃を相殺した。いや、相殺を超えて、炎風がジェフィス様を飲み込もうとした。


 その時、今度は僕が反対側から姉貴に飛びかかった。


 ――極拳流〈頂点正拳突き〉


 実体化した雷電の幻影を放つ左手の正拳で、トリア姉貴の反対側の側面を狙う。


 その瞬間、姉貴の視線が僕の方を向いた。甲殻と炎風をまとった手が僕の拳を正面から握った。握力が僕の手を壊し、炎が左腕を燃やした。


 しかしその直後――さっき折れた右腕を奇襲で突き出した。いつ折れたかというように元気な状態で。


【―――――!?】


 僕の攻撃と同時にジェフィス様も〈朔月竜牙〉を放った。姉貴は魔力の斬撃の側面を殴り壊し、炎風をまとった手刃で僕の腕を切断した。


 その後、僕は再び元気になった左腕で幻影の大剣を振り回した。


〈虚実反転〉は他人の肉体に直接影響を及ぼすことは不可能だが、僕の肉体は違う。限界はあるが、ある程度のダメージは〝普通の肉体〟を実体化することで一時的に消し去ることができる。


 今の姉貴にはそれを理解するほどの知能はないだろうが、ずっとダメージをなくし復活する僕にイライラしたようだった。


【―――――!】


「がはぁっ!?」


 何の予兆もなく、姉貴のわき腹から突然触手が飛び出した。それが僕の腹を貫通した。


 単純に貫くだけの攻撃ではなかった。姉貴の細胞が僕の体を侵食するのを感じた。


「くっ!」


 すぐに触手を切り取った。幸い触手は簡単に切断されたが、細胞の侵食は止まらなかった。


 その上、そこにだけ集中する余裕もなかった。


「うわっ!?」


 姉貴の炎風がジェフィス様を僕の方に投げつけた。


 炎風は地獄の火のような熱気が主に浮き彫りになるが、厳然たる風でもある。その風でジェフィス様を吹き飛ばしたのだ。


 飛ばされたジェフィス様が僕とぶつかった瞬間、姉貴の両手から圧縮された炎風が放たれた。


「休んでろよ。僕が注意を引くから!」


 ジェフィス様はそう言ってから僕の肩を踏んで跳躍した。強い脚力が僕を倒した。圧縮された炎風が僕たちがついさっきいた空間を切った。


 跳躍したジェフィス様の姿は、次の瞬間にはすでに姉貴の目の前まで近づいていた。


 ――月竜流〈八頭竜の牙〉


 まるで腕が八つに伸びたような速さの八連斬。


 姉貴はたった一度の拳の風圧でその攻撃を弾き出した。そして足を起点に魔力を放出した。地獄の炎が地を破壊した。


『加速』の能力者であるジェフィス様の武器は速度。姉貴は本能的にそれを感知し、その速度を生かすことができる基盤そのものを破壊したのだ。


 しかしジェフィス様は僕が空中に作った幻影の岩を踏んで姉貴の後ろへと迂回していた。溶けて燃える地の上にも僕が作った幻影の踏み台があった。


 姉貴は何度も繰り返された奇襲に適応したらしく、すでに甲殻の破片を後方に撒いておいた。その破片から炎風の刃が噴き出した。


「ふん!」


 しかし、ジェフィス様はそのすべてを避けて姉貴の近くに突っ込んだ。


 剣の閃光と地獄の炎風が交差した――。


―――――


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