制圧とブラフ

 正直、この雨さえなかったら瞬殺できるだけの戦力に過ぎなかった。


 でも果たしてタールマメインの雨というか。全体の戦力が大きく強化されている。しかも逆に私はこの雨のせいで魔力の放出が抑制された状況。これなら私を相手にするのができると判断したのかしら。


 タールマメインの存在意義そのものとも同じ状態だけれど……それでも勝敗を覆すほどじゃない。そんな気持ちを残して唇だけの笑みで奴らを挑発した。


 敵のリーダーは長く語らなかった。


「殺せ」


 男は手で私を指差しながら言った。命令を受けた敵が一斉に動き出した。


 その瞬間、私は雷光になった。


 魔力の放出が抑制されたとしても、私の身体能力と剣術はほぼそのまま。先頭の何人かは抵抗すらできず私の剣に斬られて倒れた。その後の何人かは剣撃を防ごうとするかのように武器を立てたけれど、私はその武器ごとに彼らを切り倒した。そして傷に『万壊電』の雷を流し込んで四肢の神経と筋肉を破壊し無力化した。


 そのように二列目を無力化する間、三列目が攻撃態勢を整えた。剣や槍、魔弾のようなものが私を狙った。


 全部避けて防御しようとすると、それなりに面倒な攻撃。おそらく敵も私がその攻勢にやられてくれるとは思わないだろう。攻撃に対応する隙を狙って第二、第三の攻勢が来ることが容易に想像できた。


 だからこそ、私は対応しなかった。


「ぐあぁっ!?」


「がはっ!」


 全身から引き続き噴き出す『万壊電』の魔力が雷電の鎧となった。タールマメインの雨のせいで放出された魔力がすぐに霧散していたけれど、体の周辺を破壊の雷電が荒らすことまでは防げない。それがすべての攻撃を燃やし、破壊した。


 防御を『万壊電』に任せたまま、躊躇ない剣閃で敵を切り続けた。時にはただ身に張り巡らした『万壊電』の力を信じて体でぶつけたりもした。そのようにすべての敵を殺さず無力化することをわずか数秒。すべての兵力が無力化し、リーダーの男だけが残った。


「逃げなかったことだけは褒めてあげるわ。でも部下を浪費したのは悪手だったの」


 リーダーに剣を向けながら宣言すると、彼は鼻で笑いながら背中に担った大剣を握った。丈夫な体躯に相応しく巨大な剣だった。


「どうせ俺の戦いには邪魔になる奴らだ。力を消耗させる道具としてしか役に立たないぞ」


 笑いが出た。


 たかがこの程度のザコで私の力を消耗させるなんて、それが本当にできると信じるのかしら。それともただ虚勢を張るのかしら。どっちにしてもバカだけど。


「どうせ貴方も同じ格好になると思うけど?」


「戯言を!」


 リーダーは叫びながら剣を抜いた。その勢いがそのまま突進につながった。


 抜剣、突進、そして振り下ろす。水が流れるように自然で速いつながりだった。剣撃に込められた魔力もなかなかだった。


 相手が私じゃなかったら、ね。


 初撃が軽く防げられた後もリーダーは剣を振り続けた。巨大な剣から暴れ出す魔力が暴風のように周りを荒した。けれど私はそのすべての攻撃を防ぎ、避け、受け流した。


 ふーん、なるほど。邪魔になるだけだと言った理由がわかった。周りを気にしない荒々しい戦い方ね。さっきの部下はいたってこの暴風の中に飛び込むことはできないだろう。


 まぁ、別に関係ないけど。


「くっ!」


 それなりに速くて強い剣撃の暴風だったけれど、私にとっては遅すぎる。だから繰り返される攻撃の隙を突きやすかった。その隙へと一度剣をすっと入れると、リーダーは慌てて後退した。けれど刃が少し彼の首筋にかすめた。


 ――『万壊電』専用技〈神経破壊〉


 傷を通して『万壊電』を流し込んだ。触れた所を媒介に直接魔力を流し込むのはタールマメインの雨でも防ぐことはできない。


 先に倒れていった部下とは違って、リーダーは剛健な肉体と魔力で耐えた。せいぜい体がほんの少し麻痺する程度で済んだ。


 もちろん私にはその程度で十分だ。


「くああああっ!」


 鋭く速い剣閃と圧縮された雷電がリーダーを強打した。彼は耐えられず倒れた。溜まっていた水たまりに巨体が落ちて水しぶきが立った。


 近づいて首元に剣を向けた。リーダーは動けなくなったけれどまだ意識はあった。


「ほら、私が言ったでしょう?」


「くっ……」


 戦闘不能なくせに目だけは生きているわね。まぁ、たかがこれくらいで心が折れても困るけれども。


「バケモンのような、奴め……」


「私のことをどう思っているのかなんて興味ないわよ」


 刃をもっと近づけるとリーダーは唾を呑んだ。わざと挑発のためにその姿を露骨にあざ笑った。


「私の妹がどこにいるのかだけ言って」


 わざとトリアの名前を出さないまま、アルカだけを探すふりをした。


 今危険なのはアルカよりもトリアの方だ。ラスボス化を生半可にさせられそうにないけれど、とにかく可能性はある上に力を利用される余地があるから。アルカは今中で暴れている気配も感じているから、今彼女のことばかり気にしているように言っておけばトリアへの注意が薄くなるだろう。


 もちろん安息領もバカじゃない。この程度だけで油断してくれるはずはない。けれど奴ら全員が私たちの関係を正確に知っているわけじゃないから、このようなブラフも意味がある。


「その程度の力を、持ちながら、せいぜい、家族なんて……」


「うるさいわ。質問に答えて」


「くくく……そんなに、妹が、大切なのか?」


「もちろんよ。私にとっても、世界にとってもとても大切なのよ。貴方なんかは百年経っても分からないはずだけど」


 リーダーに答えながらも、魔力の感覚だけは建物の中を向いた。


 タールマメインの雨のせいで感覚の精密性も少し悪くなったけれど、アルカが内部で暴れていることだけは感じられた。安息領が彼女にまともに対応できていないということも。


 いや、〝できない〟のじゃない。今のアルカもすごく強いんだけど、あそこにいる戦力なら彼女を止められないわけがないから。


 あれは多分――と思ったのと同時に、建物の外壁が華やかに爆発した。


―――――


覚えていらっしゃるか分かりませんが、本作の最初の話である第1章プロローグの戦いシーンをついに本編でお見せすることになりました。

第1章プロローグでの描写と今話の描写を比べてみるのもそれなりの面白さかもしれませんね。


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